峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’1985 > 保福寺峠・武石峠・美ケ原



1985年10月20日(日)


静かな朝を迎えた。部屋の窓から見える「叶屋旅館」の名に歴史を感じる。

気温はかなり低く、しっかり着こみ、炬燵に入って朝食をいただく。


温泉地の朝は早い。

共同の水場で野菜を洗う姿を眺め、共同浴場前で地元の方と触れ合う。


走り出せば目の前を耕作機が道をふさぐ。

さて、今日はどんな一日になるのか楽しみだ。


保福寺峠への登りに入る。峠までは約700mの登りだ。

道は手応えのある舗装路の登りから、やがてダートへと変わった。


交通量もそこそこあるのだろう、ダートの路面はしっかりしていて走りやすい。

静かだ。日曜日の朝から、こんな林道を行く人はまずいないだろう。


健脚の二人も所々押して歩くほどの勾配だ。高度計を頼りにいいペースで登り続ける。

まったく誰にも会うことなく、標高1347mの保福寺峠に到着した。

峠には、ちょっと似合わぬ派手なドライブインの看板が出迎えてくれた。


その様子から、すでにかなり前から営業していないことがうかがえる。

「うどん」「ビール」「うずら焼」、いったいどんな店だったんだろうか?


かつて賑わっていたものが寂れてしまう姿は痛々しい。

お店の前のベンチで小休止。パイトーチで持ってきた缶詰を温め一服する。


峠の端には「歴史の道 東山道 保福寺峠頂上」の立派な標が建っている。

今日はあいにく雲が多く、残念ながら峠からの展望も望めない。

ひっそりとした、静かな峠をしばらくじっくりと味わう。


今日のルートはなかなかハードだ。まだまだ保福寺峠はプロローグに過ぎない。

武石峠への林道はかなり厳しいダートが続く。


山岳ツーリングの真っ只中。

次第に山岳展望が開け、遠くの山並みや眼下の景色がダイナミックに広がってくる。


眼下に見える街並みを見下ろすと、ずいぶん高い所まで登ってきたと実感する。

三才山脇を越えてもまだまだ林道は登り続ける。


厳しい登りが続く。こんな所でトラブルがあったら大変なことになる。

林道途中で空腹に絶えられずランチタイムだ。

適当な場所で座り込み、カップラーメンでエネルギーを満たす。


気が付けば周囲の景色が激変している。

すっかり山岳地帯の展望に変わり、これまで見上げていた景色から、見下ろす景色に変わってきた。


武石峠までは気合を入れた登りだった。

登っても登っても下りがない。それでも着々と高度を上げていく。

武石峠もまだまだ通過点。小休止していよいよ美ヶ原を目指す。


ここから先、蝶ケ原林道は別世界だった。

まるで空を飛んでいるかのような大展望が目の前に広がる。

未だかつて、こんな贅沢な、こんな感動的な林道があっただろうか。


雲が多く遠くの展望まで望むことができないが、それにしてもこの圧倒的な眺めは素晴らしい。

やはり標高も2000mに近づくと、これまでの展望とは次元が違うと感じる。


いよいよ美ヶ原が間近に近づいてくる。行きたくてもそう簡単に行けなかった美ヶ原。

果たしてどんな所なのかと期待に胸が高鳴る。

それにしてもとにかく広がる景色が異次元だ。小さな峠越えとはまるで違う世界だ。


王ケ頭へとうとうやってきた。

非力な自転車で、こんなところまで来れるのかとつくづく思いを噛み締める。


文句なしの大展望、そして信じられないほどの開放感だ。

日本にもこんな景色が存在するのかと思うほどの絶景が広がる。


大パノラマが広がる。どこを見渡しても山岳パノラマの風景だ。

充実感、達成感で満たされる。やっぱり凄いや、ここは。


しばらくこの大展望を前に時を忘れる。

この連なる山並みを眺めているだけで、最高の満足感に浸れる。


こんな自転車で、そしてこんな装備でここまで来れるんだ。

ランドナーの魅力、そのポテンシャルはやはり相当凄い。


至福のひと時を楽しむ。そろそろフィナーレへ向かわないといけない。

高度計の針がちょうど2000m辺りを指している。

なかなか自転車で2000mまで来ることはないだけに、感慨もひとしおだ。


美ヶ原を後にする。

去りがたい、絶景の展望をいつまでも眺めていたい・・・そんな思いを抱きながら下り始める。


なんだこの眺めは・・・

絶景だ。とにかく絶景だ。こんな展望は見たことがない。


もう、言葉にならないほどの素晴らしい眺めが連続する・・・

そして松本駅まで、延々と下れるスーパーダウンヒル。


しかしこれ以降の写真が一枚も残っていない・・・なんてことだ。

連日の絶景の連続で、カメラフィルムを使い果たしてしまった・・・


松本駅へ無事下りきって、ほっとした。

素晴らしすぎた二日間。記憶がおかしくなるほど充実した二日間だった。

この二日間、本当に凄いツーリングだった。出来すぎだった。そして、よく走った。


 
距離: 52.7 km
所要時間: 9 時間 42分 00 秒
平均速度: 毎時 5.4 km
最小標高: 586 m
最大標高: 2012 m
累積標高(登り): 1573 m
累積標高(下り): 1650 m

(1985/10/20 走行)


峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’1985 > 保福寺峠・武石峠・美ケ原