峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’1990 > 二岐温泉・甲子峠(鎌房林道〜西部林道〜奥西部林道〜甲子林道)



1990年11月23日(金)


11月の三連休に、福島方面へ2人で二泊三日のツーリングを計画した。

一緒に走るのはなんと10年ぶりだ。


それまでは毎月のようにツーリングに出かけていたのだが、仕事の関係ですっかり自転車から遠ざかっていた。

晩秋から初冬へと向かう山岳地帯。果たしてどんな旅になるのだろうか。


連休で高速道路も混んでいる。サービスエリアでガイドブックを頼りに宿を予約する。

秘湯ブームの中、泊まりたかった二岐温泉「大丸あすなろ荘」は満室。

時刻はすでに11時を過ぎていたが、次々と電話してなんとか宿を確保することができた。


車のデポ地を探す前に、同じく秘湯の甲子温泉「大黒屋」を車で見に行くが休館中だった。

そのあとようやくデポ地を見つけ、準備ができたのがなんと13:40だ。

この時間から二岐温泉を目指して林道を登り始める。


何キロあるのだろう? よくわからない。

綿密なプランニングなど作ってこなかったから、おおよその標高差と時間配分を頭に入れて走り出す。

空模様は冴えず、ちょっと前まで雪も降っていた。不安なスタート、今日は大丈夫だろうか?


走り出せばダートの林道が実に気持ちいい。

42Bの太いタイヤのおかげで、荒れたダートも難なくクリアできる。

まだまだ走り始めなので体力も十分だ。そして今日は半日コースだ。笑顔一杯で登っていく。


空が明るくなり、展望がぐっと開けてきた。太陽が出てくれば暖かくなってくる。

道幅は結構ある林道だ。しかし次第に砂利が深くなってくる。


厳しい登りが始まる。すぐに乗車できなくなり、グリップのない砂利道を一歩一歩押していく。

青空も再び陰り始め、一面雲に覆われてきた。日が陰るとすぐに気温が下がってくる。


15:20 走り始めて約10km。ようやく厳しい登りも終わりピークに近づいてきた。

ここからはしばらく下り基調の林道が続く。


羽鳥湖スキー場までやってくると、一気に寒さに襲われ始めた。

全く人の姿などないスキー場は寂しい限りだ。風が吹き始め、体感温度が一気に下がり始める。

休んでいる余裕も無くなり、防寒具を着こんですぐに先を急ぐ。


しっかり締まった広いダートを豪快に下っていく。とにかく寒いけど爽快な下りだ。

その先に「羽鳥湖高原住宅保養地」が現れる。

区画案内板を見ると多くの区画が用意されているが、今後この辺りは一大別荘地になるのだろうか?


すでに暗くなり始めたが、まだまだ先が長く、徐々に不安になってくる。

16時を過ぎればすっかり暗くなってくる。今日はさらに曇天で月明かりも期待できない。


鎌房林道〜西部林道〜奥西部林道と林道が続き、いったい現在地がどのあたりかもわからなくなってきた。

そしてすっかり日が落ち、とうとうライトの登場となってしまった。


時刻は17:45 真っ暗闇の中最後の登りに入る。

果たしてこの道であっているのか? 宿まではどれぐらいの距離があるのか?

正確な情報が何もなく、ただ弱弱しいバッテリーライトの先を眺めながら押し続ける。


途中でハンドルに付けたメーターを紛失し、辺りを探すというトラブルも発生。

とにかく暗い。まったく何も見えない。ライトをつけたって真っ暗闇だ。

この時はさすがに不安だった。暗闇を進むということがこれほど怖かったのは初めてだ。


何一つ情報がない中、やっと現れた「通行止めのお知らせ」が飛び上がるほど嬉しかった。

この道が温泉へ通じている証拠だ。この案内でゴールはそろそろ近いと感じることができた。


とうとう闇の中から抜け出し、宿の明かりが見え始めた。なんという嬉しさ、そして安心感。 

18:30 二岐温泉「大和館」に到着。もう、時間も体力も限界ギリギリ状態であった。

部屋に入っての第一声は「明るいなぁ〜電気って有難いなぁ〜」だった。


さっそく祝杯をあげる。この一杯がとにかくうまい。喉もカラカラ、最高のビールだった。

後はのんびり今日の思い出に浸りながら、散々ビールを飲み続ける。


そして明日はどうしようかと作戦会議。

目標は甲子峠まで登った後、登山道から甲子温泉に下るという山岳コースだ。


甲子峠からはほぼ下り基調の山道コースなので、時間に余裕があれば面白そうだ。

峠への到着時間にもよるため、その場で判断しようということにした。


夕食が終わると、宿のご主人が布団を敷きにきてくれた。

撮影しているビデオカメラを見て、かなり気に入ったようでいろいろと聞いてくる。


しかし方言が聞き取りできず、真剣に一言一言聞き取らないと何を言っているのかさっぱりわからない。

なんとか会話になったけれど、福島もこれだけ方言が凄いのかと驚くばかりだった。


布団が敷かれるともうバタンキュー状態だ。

満腹で、おいしいビールをたらふく飲んで、そして記録に残るナイトランの疲れで9時には寝てしまった。

距離: 30.9 km
所要時間: 4 時間 47分 00 秒
平均速度: 毎時 6.4 km
最小標高:  570m
最大標高:  1007m
累積標高(登り):  795m
累積標高(下り):  574m

1990年11月24日(土)


たっぷり寝て目が覚めた。とにかく良く寝た。さっそく朝風呂へ行ってみる。

さすが秘境の温泉だ、露天風呂に行くのも大変だ。


宿の建物から出て通路を渡っていくが、凍った板の上をスリッパで歩くのは無理。

傾斜してる通路は掴まるところもなくて、こんなへっぴり腰で行くことに。


川沿いに作られた野趣あふれる露天風呂。雰囲気は最高だが寒すぎてなかなか浴衣を脱げない。

気合で飛び込むと、若干温めだが極楽極楽・・・豪快な川の流れを眺めながら、朝から乾杯〜!


朝食は大広間で全員一緒だ。団体客が何組も泊まっているので、朝の準備は相当大変だ。

おばちゃんたちが何人も忙しそうに動き回っている。

結構大きな宿で、一般客の他に工事関係者の方が泊まっていたようだ。


昨日は真っ暗な中到着したので、周囲の状況がさっぱりわからなかった。

こうして明るくなると、とにかく山深い所だと気が付く。こんなところに宿があること自体が驚きだ。


出発前に自転車の整備だ。昨日のハードな行軍で、あちこち不備も発生している。

ジュビリーの動きが悪く、チェーンのテンションがうまく取れない。さっそく微調整して直す。


今日はいい天気だ。昨日とは雰囲気もがらっと変わって気分爽快だ。

宿の玄関からいきなりの急坂だ。さっそくチャレンジするが、すぐにダウン。押すしかないね。


気持ちのいい朝だ。誰もいない静かな林道を下っていく。

きれいに整地されたダートはとても走りやすい。

対向車が来ることもなく、安心してコーナーリングを楽しめる。


左カーブを曲がった先の直線でカメラを構えて待つ。

しばらくすると、逆光の中を気持ちよさそうに下ってくる姿が現れた。

今日はスタートから素晴らしいダウンヒルを満喫できる。


国道へ合流してからもまだまだ下れる。舗装路に変わり、さらにハイスピードで下っていく。

長いトンネルを避けてトンネル脇の旧道を行くと通行止めだ。しかしここは難なくクリアできた。


しばらくは国道を快走する。交通量も少なく、快適な路面で楽しく距離を稼ぐことができる。

湯野上温泉から南下し、会津鉄道に沿って会津下郷へ向かう。


ここまで楽しく下ってきたが、いよいよ甲子峠に向けて登り始める。

登り始めに差し掛かった辺りで、運よく列車がこちらに向かってくる姿が線路の先に見えた。

のどかな眺めはここまでだ。これから先は長く辛い登りが待っている。


甲子峠までは約25km。標高差1000m程だ。

平均勾配にしてみれば4%となるが、そう計算通りにいかないのが峠越え。

前半は舗装路で順調に高度を稼いでいく。きつい所もあるが、押すほどでもない。


すぐに「国道289 白河方面甲子峠 通行不能」の大きな標識が視界に飛び込んできた。

”この先は行けません(
車はね)”ということだ。我々 自転車には関係ないだろう。

おかげで交通量も少なくなり、青空のもと静かに登りを楽しむことができる。


途中の酒屋でエネルギー補給&昼食だ。

今日は時間に余裕がないため、のんびりとくつろいではいられない。


素晴らしい山岳展望が広がり始める。美しく、そして快適なヒルクライムだ。

贅沢な林道だ。我々だけでこんな素敵な景色を独占している。


さすがに距離があり、脚がしだいに出来上がってくる。そしてとうとう道はダートとなった。

九十九折れの上から登ってくる姿を撮影する。峠に近づくと、勾配はかなり急になってくる。


標高も1200mを越えると、山の斜面に雪が現れてくる。もう12月も近い。当然だろう。

路面はかなり荒れてきた。小石が転がるグリップのないダートに手を焼く。


一息つくと、登ってきた道筋が良く見える。

頑張れば頑張った分報われる。これが峠越えの醍醐味だ。


思った以上に時間がかかっている。

そして驚いたことに、その先に一面の雪景色が現れた。

まさかこんなシーンは予想してなかっただけに、かなりの衝撃だ。この先は大丈夫なのか?


正面の山の頂もかなりの積雪だ。こりゃ、峠から先、甲子温泉への山道下りは無理か・・・

路面を見れば積雪の上にタイヤの跡が残っている。何台かここを通過したということだろう。

車が行けるなら自転車も行けるということだろう。


雪がある所もあれば、全くない所もある。日当たりの関係で大きな違いだ。

いよいよ峠も近づくと、路面はさらに走りにくくなってきた。

厄介な砂利に阻まれ、深い所を通過することはできない。まったくグリップが効かない。


峠に先に到着すると、そこにはバイクが一台止まっていた。

こちらの自転車をみて「トーエイですか!珍しいですね」と話してきた。

詳しく聞いてみると、昔自転車に乗っていたそうで、今はオフロードバイクに転向したらしい。


そんな会話をしながら待っていると、しばらくして最後の登りに苦しんでいる姿が見えてきた。

長かった登り。最後は荒れた路面に雪まで登場してきて、根性でゴールといった感じだった。


甲子峠からはずっと登ってきた林道の道筋が良く見える。

峠はちょっと広いスペースが広がっていて。峠越えの雰囲気がよく出ている。


しかし日の当たらない所は一面雪に覆われて真っ白な世界だ。

オフロードバイクなら楽しくここまで登ってこれただろう。走りやすく、ダートを思いっきり楽しめる林道だ。


すっかり体力を消耗し、そしてこの積雪を目の前にして、すでに当初の予定は諦めている。

甲子温泉への山道下りは諦め、このまま甲子林道を下ることにする。当然の判断だ。


となれば時間に余裕が出てくる。さっそく2人で雪の中で祝杯をあげる。

そしてカップヌードルでお腹を満たす。うまい、なんてカップヌードルは美味しいのだろう。


「テリヤキチキンステーキ」を温める。気温も下がり、温かい食べ物がとにかく有難い。

幸せなひと時だ。こんな所で、雪景色の中のんびりと食事ができる。自転車旅でなければあり得ない。

自転車はすでにドロドロ状態だ。雪解けのぬかるんだ道で何もかも泥だらけだ。


日が傾き始めると一気に真冬の厳しさに襲われる。

手持ちの防寒具を全て着こみ、さあ一気に峠からのダウンヒルに入る・・・はずだったが・・・


峠からはまだ登らないといけない。峠がピークではない・・・なんだよ、と文句を言いながら頑張る。

雪解け混じりの道はなかなか厄介だ。そして大きな水たまりも現れる。


いよいよ本格的な下りに入るが、とにかく道の荒れ方がとんでもない。

大きな石がゴロゴロと転がっていて、まるで河原を下っていく感じだ。


石を避けたくてもこれだけ荒れていると不可能で、石の上を乗り越えたり、左右に避けたりとまさに曲芸状態。

フロントフォークには強い衝撃が幾度どなく伝わってくる。ホイールが壊れるんじゃないかと思うほどだ。

常にブレーキレバーを握ったままの状態で、一瞬たりとも気を抜けない下りが延々と続く。


写真を見てもこの下りの凄さがわかるだろう。

いったいこの下りのどこのラインを通過すれば正解なのか?

これだけ激しい路面では、乗車するより歩いたほうが正解なのかもしれない。


スピードは出ない。常にバランスを保ちながらの中腰、そしてずっとブレーキング。

手、指、腰、太もも、そして首、肩・・・体のあちこちが悲鳴を上げてくる。


なかなか高度が下がらない。疲れるばかりで全く先へ進まない。

荒れすぎた下りには、快適なことは何一つない。ただただ疲れるだけだ。


そして今日もまた日没を迎える。まさかである・・・こんなはずじゃなかった・・・甘かった。

やはりこの季節、山をなめてはいけない。昨日の反省など全く役に立たなかった。


激しい下りで林道に五万図をばらまいた。

そしてガードのネジも紛失した。さらに自分は2回も転倒した。


いくらか走りやすいダートになって、ようやく写真を撮る余裕も生まれる。

それにしても満身創痍だ。もう音を上げたくなるほどの下りだ。

参った。本当にすごい下りだった。


すっかり暗くなって、懐かしい車のデポ地に戻ってきた。

あまりに色々なことがありすぎて、もうなんだか記憶も曖昧だ。

トラブルは色々あったけれど、大きな怪我もせず無事に車に戻ってこれた。


ルーフキャリヤに2台を乗せて宿へ向かう。

18:30 本日の宿、新甲子温泉「玉の湯」に到着。

結局本日も記録に残る激しいツーリングとなった。もう疲れ果て、部屋に入るなり祝杯をあげる。


食事は部屋食だが、疲れすぎて動けない。ビールを持つ力さえもなく、グラスに注ぐのも一苦労だ。

全身疲労で、まっすぐ前を向くことさえも辛い。うつむいたり、天を仰いだりと異常な二人。


すごい峠だった。登りも下りも激しかった。そしてすっかり雪に驚かされた。

無事に戻ってこれたが、何かアクシデントがあったら危なかった。


地図からはこれほどのハードな林道とは読み取れなかった。

やはり秘境の真っ只中、なにもかもスケールの違う魅力たっぷりの二日間だった。

距離: 58.9 km
所要時間: 8 時間 38分 00 秒
平均速度: 毎時 6.8 km
最小標高:  410m
最大標高:  1430m
累積標高(登り):  1184m
累積標高(下り):  1409m

1990年11月25日(日)


最終日の三日目もいい天気に恵まれた。

本日は軽くポタリングして帰る予定だが、その前に自転車をメンテしないといけない。


ガードに泥が詰まりすぎて走りも重い。吹っ飛んだガードのネジも修理する。

掃除していたら、なんと大変! サンプレクイックのコニカルナットが破損してしまった!

さすがに年代物で、この過酷なツーリングに耐えきれなかったようだ・・・ショック。


昨日までの二日間で、もうハードなコースは御免だ。

今日はキョロロン村脇に車をデポして、軽く周回して戻ってこようという作戦。


身軽な装備で走り出す。詳しい地図がないのでロードマップを持ってコースを考える。

まともに舗装路を走って満足する二人ではないので、さっそく怪しい細い道に入り込む。


さっそく迷いこむ。出迎えてくれたのは、ご覧の通りウシさんたち。

”なんだお前たちは?”というような顔でこちらを睨んでいる。

やっぱり細かい地図がないと全く分からない。あれこれ迷ってようやく牧場を脱出する。


なんとか林道に出ることができた。あとはぐるっと周回できるコースが待っている。

今日は気が楽だ。厳しい登りも下りもそれほどない。


適当な所でのんびりとランチタイムを楽しもうという予定だ。

走りやすい林道が伸びている。まず誰も通らない林道だろう。


那須岳の展望を眺めながら、林道わきの小川で一服。


なかなか静かで素敵な林道だ。

走りやすいダートで、昨日とは天と地ぐらいの差がある。


あまりに昨日までが激しすぎたおかげで、逆にこんな穏やかな道では物足らなくなってくる。

多少砂利の深い所もあるが、気持ちのいい雰囲気抜群の林道がしばらく続く。


やはりここでも42Bが活躍する。この程度の砂利では一番42Bの威力を発揮できるだろう。

確実なグリップで、難なくクリアしていく姿はやはり頼もしい。

そして見事に決まったパーツアッセンブル。足元から全てが文句なし。完璧だ、美しい。


林道をのんびりと登って、川原でティータイムだ。

時間があるとこうしてゆっくりできていい。昨日まではとにかくこんなゆとりがなかった。

林道から車道へ合流し、車のデポ地まで一気に下る。


三日目は適度なコースでかなりゆっくりできた。ルーフキャリヤに積んで帰り支度をする。


帰りがけに、松茸を売っていたので購入する。かなり大ぶりの松茸をお安くしてもらって大満足。

無事帰宅すると仲間が出迎えてくれたので手土産をプレゼント。


今回、ナイトランをこれだけ経験したのも初めてだった。

やはり秘境の林道と温泉は面白い。そして魅力がある。とにかく充実した三日間だった。

距離: 21.4 km
所要時間: 3 時間 07分 00 秒
平均速度: 毎時 6.8 km
最小標高:  488m
最大標高:  895m
累積標高(登り):  407m
累積標高(下り):  407m

(1990/11/23〜25 走行)


 


峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’1990 > 二岐温泉・甲子峠(鎌房林道〜西部林道〜奥西部林道〜甲子林道)