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1991年8月13日(火)


かつて、東京と大阪間を走っていた「急行 銀河」。

東京駅を23時に出発すれば、早朝に大阪駅に着くことのできる「急行寝台列車」だった。


車両はブルートレインを流用し、B寝台も2段式で広々としていた。

今年の夏のキャンピングは、これに乗って岐阜駅まで輪行する。


静かに祝杯で盛り上がるが、寝過ごしては大変なので、ほとんど熟睡できずに岐阜駅に到着。

こんな時間に降りる乗客は我々だけだ。


シーンと静まり返ったホームに、マイクで話す車掌の声だけがかすかに聞こえる。

列車は、音もなく静かにスルスルとホームを離れて行った。そしてホームは大きな荷物と我々二人だけになった。


輪行袋にフロントバッグ、そしてサイドバッグを抱えて改札へ歩く。

寝不足で頭も冴えない中、駅前の広場で組み立てる。


輪行キャンピングとなると、走れる状態になるまでかなりの時間がかかる。

全てが片付くとすでに陽も高く、もう走る前から汗だくだ。


路面電車が走る岐阜市内を抜けて、長良川へ向かう。

今日は一日長良川に沿って北上する。


長良川と言えば鵜飼。そして五木ひろしの「長良川艶歌」だ。

鵜飼の乗船場は朝なので閑散としているが、夜になればきっと賑やかなのだろうな。

そして「ザ・ベストテン」の大きな記念碑が設置されていた。


始まった今年のキャンピング。8/13〜8/18までの5泊6日のキャンピングだ。

岐阜県・福井県のキャンプ場を利用しながら日本海を目指す。

お盆の時期のキャンピングが年中行事となった。1年の中で最大の楽しみだ。


初日はとにかく重い自転車に慣れるだけで精一杯だ。

川沿いの道はそれほど勾配はないのだが、このキャンピング車ではちょっとの登りがすぐわかる。

暑さから逃げるように、さっそく食堂に入って腹ごしらえだ。


炎天下の中でこんな過酷な遊びをするものではない。

体も暑さに慣れていないため、体力・気力がどんどん奪われていく。

自動販売機を見つけたらすかさず水分補給とクールダウンだ。


長良川鉄道を横に見ながら、道は徐々に登り始める。何でもない勾配が、初日の我々には厳しい登りに感じる。

お店を見つければすぐに休憩だ。休んでばかりで、なかなか進まない。


3時から4時あたりが一番つらい時間帯だ。暑さも疲れもピークに達する。

郡上八幡の町が徐々に近づいてくるが、本日はその手前から分岐してキャンプ場を目指す。


キャンプ初日は何かと調子が出ない。そして食料も整ってない。

うっかりしている間に、キャンプ場への登りに入ってしまった。


キャンプ場で何か調達できるだろうと期待して、この日一番の登りに入っていく。

4kmで200mの登り。平均5%の勾配だが、やはりキャンピング車となると結構辛い登りだ。


車にどんどん抜かされる中、ヒーヒー言いながらキャンプ場に到着。

着いたレインボーキャンプ場は、なかなか”ワイルド”なキャンプ場だった。

期待していた物は何もなく、ただ広い広場にテントや車が並ぶキャンプサイトだった。


まあロケーションとしてはこんなものだろうが、とにかく食材が何もない。

仕方なくテント設営係と買い出し係に別れて準備に動き出す。



サイドバッグを降ろし、身軽になって自分が再度下の町まで下って買い物に行く。

郡上八幡の町方面へ行けば何かあるだろうと走る。結構走ってようやく食材を仕入れて再び登り返す。

ようやく落ち着いたのがもう18:30頃。まだまだ明るいので助かったが、慌ただしい夕暮れだった。


やっとビールが飲める。暑かっただけに、そして頑張っただけにとにかくビールが旨い。

この時のために持ってきたのが、釣り用の「発砲クーラーボックス」だ。

デカくて嵩張るのだが、これに350ccのビールがピッタリ9本入る。


大汗をかいた二人には、これぐらいのビールがないと足らない。

このクーラーボックスのおかげで、真夏のキャンプサイトはいつまでも冷たいビールを楽しめる。

初日のキャンプが無事に終わった。まずは滑り出し順調にこなせてホッとした1日だった。

距離: 65.9 km
所要時間: 9 時間 01分 00 秒
平均速度: 毎時 7.3 km
最小標高:  19m
最大標高:  429m
累積標高(登り):  835m
累積標高(下り):  444m

 


1991年8月14日(水)


朝のラジオ体操を欠かさないのが我々のキャンプスタイル。

昨日買った卵が残っているので、無理やり使い切る朝食だ。まあ何でも腹が一杯になればいい。

走り出せるまでに本当に時間がかかる。これがキャンプの大変さであるが、楽しみでもある。


今日も朝から猛暑だ。すでにギラギラと太陽が降り注ぐ。

昨日の疲れが残っているが、体は徐々にキャンピング仕様になってきた。


とにかく1日大汗をかくと、体の新陳代謝もかなり良くなってくる。

キャンプ場の朝は賑やかだ。ゴミ捨て場では空き缶つぶしで盛り上がっていた。


それにしても自然たっぷりのキャンプ場だった。でも、これはこれでいいのかもしれない。

何もかも用意されたキャンプ場に比べ、最低限の物しか用意されていない。

そんなキャンプ場だったが、時期的に一番賑わう時だったので多くのキャンパーで一杯だった。


2日目は距離的には楽勝コースだ。今日の目的は郡上八幡の「郡上踊り」を見ること。

早めに町に入って、郡上八幡城の見学をはじめ、あれこれ観光する予定だ。

まずは鍾乳洞の見学へ。縄文鍾乳洞と、大滝鍾乳洞を見学する。


この真夏にもかかわらず、鍾乳洞の中は天然のクーラーが効いて寒いほどだ。

なんでこれほど気温が違うのだろうかと思うほど涼しい。半袖では寒いほどだ。

自然の驚異、刻まれた時の長さ、人間の小ささを大いに感じることができる。


鍾乳洞から一歩外へ出れば再び真夏の暑さ。体もおかしくなりそうだ。

さて楽しみは郡上八幡の町。「水の町」と呼ばれるほど美しい川に恵まれている。

二人とも初めて訪れる町だが、その景観の素晴らしさと、郡上踊りの魅力に期待が高まる。


町中に入ってさっそく衝撃のシーンに出くわした。美しい吉田川を渡る橋まで来た時だった。

中学生ぐらいだろうか、何人もの若者が近くの岩場から川に飛び込む姿が目に入ってきた。

テレビやドラマで撮影されたシーンは目にしたことはあるが、こうして目の前で見ると感動的だ。


なんだ、この自然の美しさは! そしてなんて皆生き生きとしているんだ! 笑顔と笑い声がずっと絶えない。

こんな町中で、川に飛び込む姿がごく普通に見ることができる。これが郡上八幡の素晴らしさだ。


まずは腹ごしらえだ。当然「郡上天然 鮎定食」をいただく。

お盆の真っ最中。そして郡上踊りが始まるとなれば町の中はお祭り騒ぎだ。

観光客もかなり多い。そして町の人たちも熱気を帯びている感じがする。


郡上八幡城へ上り、天守閣から町を見下ろす。何とも言えぬ優越感に浸れる眺めだ。

素晴らしい景色だ。そして通り抜ける風が心地いい。やはりお城の魅力は奥が深い。


郡上踊りが始まるまでは、まだまだ時間がある。

町の観光名所を色々と巡り、さて今日はいったいどこにテントを張ろうかと悩む。

町中じゃテントを張れそうな所は見当たらないし、このお祭り騒ぎだ・・・さて困った。


そんな時は町の人に聞いてみようと、信用金庫の人に聞いてみる。

「どこかでテント張れそうな所ないですか? 公園とか学校とか・・・」

えーっと、吉田川の川原でテント張ってるよなぁ」と教えてもらった。


さっそく行ってみると、すでに隙間がないぐらいキャンプサイトが出来上がっていた。

仕方なく、一番端っこの、工事中の現場あたりに陣取ってテントを設営した。まあ、何でもいいや。

これで一安心。テント内に荷物を放り込んで、さあ「郡上踊り」をとことん楽しみましょう!


夕暮れが迫り、次第に郡上八幡の町は熱気に包まれていく。

町全体、人々の全てがこれから始まる郡上踊りを待っている。

まずは食事処ですっかりいい気分になって準備完了。いよいよ今夜の一大イベントの始まりだ。


NHKの中継車が入っている。大きなパラボナアンテナが通りの片隅に備えられている。

いよいよ始まった郡上踊り。もう、何と言っていいか、何もかもが幻想的で素晴らしすぎる。

こんな踊りを目の前で見るのは生まれて初めてだ。近所の盆踊りとは何もかもが違う。


かわさき」「春駒」「やっちく」「まつさか」・・・

休むことなく次々と踊りが変わっていく。“カランッ!コロンッ!”という独特の下駄の音。


踊りは難しくない。すぐに覚えられる踊りばかりだ。いつの間にか我々も踊りの輪の中に入って踊り始めた。

楽しい、面白い、そして気持ちいい。何なんだ、この情緒たっぷりの世界は・・・

いつまでもいつまでもこの徹夜踊りは続く。こんな楽しい夜を迎えている町が日本にあったとは・・・


踊り疲れ、飲み疲れ、何もかもが新鮮な驚きと感動で真夜中にテントに戻ってきた。

もう十分。たっぷり楽しませていただきました。最高でした郡上八幡。すっかり虜になりました。

距離: 12.9 km
所要時間: 2 時間 45分 00 秒
平均速度: 毎時 4.7 km
最小標高:  220m
最大標高:  547m
累積標高(登り):  289m
累積標高(下り):  491m
 

(1991/8/13〜14 走行)


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