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ニューサイクリング No.180 (1979年10月号) 「 秋山郷と水平歩道」(永松康雄) より

「魚野川水平歩道」は有名だけど、「雑魚川水平歩道」があるなんて知らなかった。

魚野川水平歩道は、とっても大変そうだけれど、雑魚川水平歩道はなんとか行けるんじゃないか?


水平歩道というその名前からして、何か極上の、快適な山道を頭の中に描いてしまう。

ニューサイを読めば読むほど行ってみたくなる。

さっそく秘境の切明温泉に宿をとって、一泊二日のツーリングを企画した。


1991年9月21日(土)〜 22日(日)


「23:58 上野発 急行妙高 妙高高原行き」

日付が変わる直前に発車する「急行妙高」に4人で乗車する。

BOX席に落ち着けば、もう旅情満点の楽しい夜行旅の始まりだ。


飲兵衛サイクリスト4人が集まったらさあ大変。仮眠する間もなく、深夜の居酒屋列車は長野を目指す。

あやうく寝過ごしそうになるところ、なんとか長野駅で下車できた。しかし睡眠時間ほんのわずか。


長野で乗り換え、早朝の湯田中駅に到着。

駅前には大学の同好会だろうか、キャンピングスタイルの学生が数名集まっていた。

まずはお湯を沸かしてカップヌードルで朝食だ。


睡眠不足で元気がない。頭もボーっとしていて体も重い。

駅前で奥志賀高原行きのバスを待つ。

今回は、湯田中から登ったのでは到底無理なので、途中までバス輪行する。


9:45 蓮池のバス停で降りる。いきなり何もないバス停で降りて、少々面食らう。

屋根もない、ベンチもない、トイレも水もない・・・バス停だから当然だ。

時刻はすでに10時になろうとしている。さっそく組み立て始める。


各自、いつものご自慢ランドナーだ。自分だけ今回はMTBでやってきた。

この場に及んでブレーキワイヤーの調整なんかしているメンバーもいて、大丈夫?

こちらのTOEIは新品のタイヤがやけに綺麗だ。そして前後のジュビリーが美しい。


ようやく準備完了。走り出すまでは結構時間がかかる。5万図を頼りに発哺温泉を目指す。

この時期の志賀高原はそれほど混んでいない。


雪もなければ紅葉にもまだ早い。おかげで広々とした道をのんびり走ることができる。

ところがまだ頭も寝ぼけているのか、分岐を間違えていきなり登り直しの羽目に・・・


シーズンオフのスキー場は空いている。人の姿もまばらで、車もほとんど通らない。

高天ケ原スキー場辺りが本日の標高最高地点だ。


奥志賀高原は道路がやたら広く、そして舗装がきれいで走りやすい。

こんな道を太いタイヤで走るのは本当にもったいないぐらいだ。


秋山郷の案内図があったので、AD-HOCを使って皆でルートを確認しておく。

@現在地 → A清水小屋・奥志賀渓谷 → B雑魚川水平歩道 → C切明温泉 というルートを辿る。

その先に奥志賀林道の料金所が現れた。簡単なゲートが設置されていて、一台一台料金を徴収している。


清水小屋までは豪快なダウンヒルを楽しめる。

バス輪行のおかげで、たいして登っていないけれど下りはたっぷり楽しめる。


道幅も広く車も来ないので、結構なスピードでコーナーに突っ込める。

綺麗な舗装路のおかげで、コーナーリングも不安がない。


MTBの太いタイヤではスピードもでないが、軽い車重を生かしてコーナーをクリアしていく。


道はダートに変わったが、きれいに砂利が敷かれ間もなく舗装されるのだろう。

ようやく太いタイヤの出番がやってくる。


料金所から最初の橋を渡ったところに遊歩道の入口があるが、これは予定のルートではない。

清水小屋はもう少し先だ。さらに標高100mほど下ると再び橋が現れる。

いよいよここからが、雑魚川に沿った奥志賀渓谷の入口だ。


時刻は13時を過ぎた。本日のメインイベントの始まりだ。

ニューサイの記事は今から12年前だ。果たして切明温泉まで本当に行けるのだろうか?


記事からは詳細な様子はわかるものの、所要時間が読み取れない。

まあ、何はともあれ行けるところまで行ってみるしかない、と遊歩道に飛び込む。


高原を快適に下り、林道走行を楽しんでいたのに、一気に別世界に変わった。

入口付近はランドナーでもなんとか乗車できる程の小道だったが、すぐに降りることになる。

MTBならもう少し楽しめるが、それでも倒木があってはもう歩くしかない。


ニューサイの記事には、清水小屋から雑魚川取入口までは、”実に気持ちの良い小道”と書かれている。

確かに山岳サイクリング仕様であればその通りであるが、ランドナーではかなり厳しい道だ。


地図にない最初の分岐が現れた。林道に戻るのであればここから110mですぐに戻れる。

そして切明まで8kmの表示。まだまだ時間も早いので8kmなら何とか・・・と先へ進む。


次第に道は激しさを増してきた。押して歩ければまだいい。いよいよ担ぎが登場してくる。

こんな状況がずっと続くのか? と不安になってくる。そしてすっかり余裕がなくなってきた。


空腹で力が入らない。担いだ自転車が重すぎる。

不安定な足元が続き、足腰が疲れ切ってまともに進めない。

「腹減った〜、飯にしようよ〜」と音を上げる。


厳しい山道行軍が続く。

ここに自転車を持ち込むなら、それなりの機材を用意しないとだめだ。

こんなガード付きの自転車では全く何の役にも立たない。


トラブル発生だ。木の枝がフリーとハブの間に挟まってしまって取れない。

かなり強力に食いこんでしまって、引っ張ったぐらいではダメだ。とうとうホイールを外すまでに。


お腹が空いてもう動けない。適当な場所がなく、しかたなく山道の途中で昼食だ。

すっかり時間の余裕が無くなってきたが、この時間だけは削りたくない。


持ってきた食材すべてを並べ、楽しいひと時の始まりだ。

誰かやってきたら通れません、ってぐらい荷物を広げていたが、結局誰も通らなかった。


エネルギー満タンになって動き出す。

これだけ深い渓谷の中にいると、現在地がさっぱりわからなくなってくる。

残りの距離も読めない中、時間だけが過ぎていく。


乗車できるところはほとんどなくなり、押し続けながら進む。

15:30 雑魚川取入口の地点まで来たが、もう時間切れだ。

ここからが「雑魚川水平歩道」の始まりなのであるが、残念ながら諦めることに。


ここから林道へ出られるエスケープルートが分岐している。もう、これで元の林道に戻るしかない。

滝のように流れ落ちる鬼沢の沢を抜けて、一気に登り始める。


しかし、ここからが地獄の押し上げだった。

林道まで標高差150mもある。簡単に林道に出られると思ったら、それはそれは大変だった。


壁のように立ちふさがる山道。自転車がなくても結構辛い勾配だ。

一歩一歩体重をかけて押していくが、きつすぎて数歩押せばすぐに息が上がる。


最後は階段まで現れるが、さらに急角度で道は登っていく。

撮影されていても余裕がなく、表情も険しいままだ。いやぁ、本当に大変な林道復帰の押し上げだった。


水平歩道はどんな道だったのだろう? なんて考える余裕もなく、林道に戻ってきた。

時刻は16時。いい時間になってしまったが、これで正解だっただろう。

水平歩道を行っていたら、途中で日没を迎えていたかもしれない。


これでゴールまで時間が読めるようになった。

林道整備中の重機が置かれていて、路面はすっかり平らに整地されている。


奥志賀渓谷踏破はいったい何だったのか、と笑いながら反対側の展望を眺める。

水平歩道はあのあたりだろうかと眺めるが、まったく確認することはできない。


最後は切明温泉までの下りを満喫する。

とても走りやすいダートの下りだ。

すっかり整地され、安定した路面なので小石が敷かれていても不安はない。


ランドナーでもかなりのスピードでコーナーリングできる。

MTBはもう怖いものなしだ。ハイスピードで下っても、確実にコントロールできる。


ゴールも近くなってきてご機嫌だ。「GO GO AKIYAMAGO」!

珍しく対向車と遭遇だ。ダートの林道で砂埃が凄く、ワイパーを動かしながら通り過ぎる。


調子に乗って、一人軽量なMTBでかっ飛ばしていたらパンクしてしまった。

チューブを交換してすぐに修理完了。


暗くなる前に無事に切明温泉に到着できた。

本日の宿、「切明園」は少し奥まった所にあるのだが、その入り口がよくわからない。


この先に宿があるの? なんて疑いながら駐車場の先へ行くと、ようやく宿が見えてきた。

宿はとっても立派な造りで広々としている。

入口からロビー、そして食堂もとても開放感があって気持ちがいい。


今日一日色々あったけれど、無事に宿に着けばすべて楽しい思い出に変わる。

辛かった分、より一層記憶に残る。そして苦労した分ビールがうまい。

心温まる地元の食材を使った料理にお酒も進む。


飲んで、飲んで、食べて、食べて、もうお腹が爆発しそうなぐらい満腹に。

宿のオーナーの談話が始り、さらに夕食を盛り上げてくれる。


部屋に戻ると、すでに完全にダウンした者も・・・まだ8時ですけど。

睡眠不足と、過酷な一日の走り、そして満腹でもうおやすみなさい状態。


残りの3人で、さぁ温泉を掘りに行きましょう!

切明温泉は、川原のどこでも掘れば温泉が湧いてくるという野趣あふれる秘境だ。

ここへ泊まるなら、何としてでも自力で温泉を掘りたいと思っていた。


すっかり出来上がった3人だが、自転車からバッテリーライトを外して川原へ向かう。

周囲は真っ暗で、何が何だか良くわからない中、あちこちから話し声が聞こえてくる。

どうやら他のお客さんも川原で温泉を楽しんでいる様子だ。


さっそく我々も適当な所を掘り始める・・・といってもそんな生易しい作業ではない。

体が浸かるほどの大きさを掘るなんて・・・すぐに諦めた。無理。

すでに誰かが掘った跡を拝借して露天風呂に入る・・・下から熱い源泉が湧き出ている。


”アチチ・・・アチ!”と悲鳴を上げながら、心地いい場所を探して湯に浸かる。

そして持ってきたビールで再度乾杯だ。


今夜の出来栄えは最高だ。こんな露天風呂は経験したことがない。

最後はこんなワイルドな露天風呂にも入れて、もう何も言うことがないぐらいの満足感だった。


最後に、清水小屋から切明温泉までの二つのルートのプロフィールマップを載せておこう。

雑魚川取入口からは、確かに水平歩道は標高1050m〜1100mの間で推移している。

そして最後に一気に切明温泉まで急降下している。


ルートがしっかりしているのであれば、水平歩道を行くのもやはり魅力的だ。

もう少し時間と、確かな情報があれば水平歩道にチャレンジするのも悪くはない。

しかし、もし行くとなればそれなりの技術と機材が必要だろう。

距離: 33.2 km
所要時間: 6 時間 20 分 00 秒
平均速度: 毎時 5.2 km
最小標高: 852 m
最大標高: 1673 m
累積標高(登り): 514 m
累積標高(下り): 1144 m

(1991/9/22 走行)


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