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今回は、
ニューサイクリング No.278 (1987年9月号)のツーリングレポートを参考にさせてもらった。


1991年11月9日(土)


ニューサイのコピーを持って、新宿から夜行列車、急行アルプスに3名で乗車した。

例によって深夜の居酒屋列車はほとんど寝れず、明け方の4時前に辰野駅で降りる。

寒い。始発まで50分、待合室で待っていても寒くてたまらない。


飯田線はガラガラだった。

しだいに車窓の景色が明るくなりはじめ、秋晴れの空が広がってきた。ようやく寝ぼけた頭も目を覚ます。


早朝に伊那大島駅に降り立った。しかし、今回はまだここがスタート地点ではない。

さらにここからバスに乗って、一気に大鹿村まで距離と標高を稼ぐ作戦だ。

4年前に一人で伊那大島からしらびそ峠まで走った経験から、少しでも時間稼ぎをしたいと考えていた。


貸し切りのバスに揺られて着いた先は、大鹿中学校前のバス停だ。

本当にローカルな、何もない、普通の民家の前に輪行袋3つが並んだ。


スタート時刻としてはちょうどいい。軟弱3人組にとってはバス輪行は大正解だろう。

組み立てているとさっそくトラブルの発生だ。

ガードステーのダルマ用の小さなアーレンキーを忘れたらしい。


とても小さなネジなので締められず、しかたなくビニールテープで固定することに・・・

サンプレクイックシャフトの黒とマッチしてなかなかいいと言ってるけど、いきなり不吉な予感だ。


寝不足も何のその、走り始めるとすっかり元気になる。

天気も良く、素晴らしい紅葉ツーリングの始まりだ。

前半戦は余裕で、適当に休憩を入れながらのんびりと行く。


実は、今日のコースは一日中登りというとんでもないコースだ。

下りがほとんどなく、延々登って宿に着くという、疲れるだけの一日。

そうとわかっているので、楽しみは現在地の標高だけだ。腰に付けた高度計が現在地を教えてくれる。


多少きつい所もあるが、全般的に適度な勾配なので、秋の峠路の雰囲気を味わいながら登っていく。

背負った荷物が重く、腰への負担も大きい。休憩時にストレッチして腰を伸ばす。


それにしても気持ちのいい道だ。車もほとんど通らず、穏やかな天気の中気分も上々だ。

そんな中、またまたトラブルか? なにやらチェーンの具合が良くない・・・こじって、揉んで、とりあえず・・・


スタートして3時間少々、最初の峠、地蔵峠に到着した。

1時間200mのペースという、のんびりムードだ。

これが我々のスタイル。まあ予定通りだ。


「大鹿村」の標識と、大きく地蔵峠と書かれた案内が建っている。

赤く縁どられたプレートは目立つのだが、どうも峠の趣がない。少々残念な気がしてならない。


峠には、「地蔵まで道を届けて虫の声」と刻まれた石碑と、地蔵菩薩像が並んでいる。

お地蔵さまに旅の安全を祈願して峠を後にする。


まだまだ本日の登りの半分しか走っていない。ちょっとペースを上げないとまずいかもしれない。

それでは真剣に登りますか・・・と思ったらまたトラブルだ。

どうにもチェーンの具合がよろしくない。また、なにかいろいろやってます。


気温も上がり、すっかり暑くなってきた。

冬支度をしてきたが、短パン姿でもちょうどいいぐらいだ。


いつまで登ってもきりがないので、ちょうど1時になった頃、適当な沢が流れているところで昼食にする。

ほぼ徹夜状態で動いているから、お腹もすく。


暖かな日差しを浴びて、林道の道端に座り込んでの昼食だ。

満腹になると、睡眠不足から一気に眠気が襲ってきた。

まるで死体のように眠り込んだ二人。とっても幸せそうな寝息をたてていた。


かなり荷物が軽くなった。

さあ、最後の登りを頑張ろう・・・と思ったら、とうとうチェーンが切れるという悲惨なトラブルの発生だ!


チェーンが切れる? なんて経験したことがない。いったいどーなってんですかこのTOEI!

チェーンの寿命なのか、不良なのか、とにかく駒を詰めてその場をしのぐ。


10分後、またやってます。もう、レッドカードです!

それでもなんとか直すところがさすがです。


色々あったけど、なんとか蛇洞沢林道の分岐までやってきた。

ここから遠山併用林道を登りつめれば、しらびそ峠にたどり着ける。


道は舗装路に変わり走りやすくなった。

日が傾き始め、逆光の中に深い山並みが目の前に広がってくる。


一日中登り続け、そろそろ体力の限界が近づいてくる。

適度な勾配で雰囲気のいい林道だが、さすがに余裕が無くなり表情も厳しい。


長かった。これだけ峠が待ち遠しかったのも久しぶりだった。

峠に着いたときは、思わず万歳がしたくなるほど嬉しかった。

しらびそ峠って、そんな感じの峠だ。


素晴らしい光景が目の前に広がっていた。

傾き始めた午後の陽光が、美しい山並みをさらに綺麗に演出してくれる。

見事というしかない「しらびそ峠」の標。こんな素敵な峠名で迎えられて感動も最高潮だ。


二度目のしらびそ峠。前回はソロで、ただがむしゃらに登っていただけだった。

今回は皆で一緒に苦労して登っただけに、また違った喜びを感じていた。

それにしても、いい峠だ。サイクリストなら、絶対に行くべき峠の一つだろう。


しかしここがゴールではない。本日の宿、しらびそ山荘まではさらに100m程登らなければならない。

いったいいつまで頑張ればいいのか・・・とにかく登って、登って、ずっと頑張る一日だ。


そしてついにゴールを迎えた。標高1900mに位置するしらびそ山荘。

山荘の正面には、遠山森林鉄道で使われていた車両が展示されている。


そして広々とした草地はキャンプ場になっている。

部屋に落ち着くと、思わず溜息がこぼれ疲れがどっと出てきた。

そして、とにかく寒くて仕方がない。11月にこの標高ではもう下界の気温ではない。


一日中トラブル続きだったチェーンの修理に取りかかる。

明日のために、着いてさっそく軍手をはめて修理する。


山荘だけに夕食の時間も早い。

当然豪華な夕食というわけにはいかないが、我々にはビールと少々のご馳走があれば十分。

飲んでも飲んでもどこかに消えていくビール。結局何回追加したかわからない。


最後は梅干しをつまみに延々飲み続ける。

とにかく、本当によく登った。そしてこれだけうまいビールも久しぶりだった。

本当にいい峠、本当にいい林道に大満足の一日だった。



 
距離: 29.2 km
所要時間: 7 時間 55 分 00 秒
平均速度: 毎時 3.7 km
最小標高: 672 m
最大標高: 1904 m
累積標高(登り): 1316 m
累積標高(下り): 139 m

(1991/11/9 走行)


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