峠への招待 > ツーリングフォトガイド > ’2000 > 水平歩道・雑魚川林道・渋峠・芳ケ平・尻焼温泉②
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2000年10月14日(土)
朝から道の駅には、若者達の100キロ強歩の集まりでにぎわっている。天気は青空が広がり始め、気分もますます盛り上がる。6:30に尻焼温泉へ向けて走り出す。尻焼温泉にワゴンRを回収用に置いておく作戦だ。今度はH氏の車に自分のMTBを積む。荷物を移し替え、最終確認をしていよいよ野反湖へ向かう。こうした一つ一つの作業が結構時間がかかる。もうすこし綿密な計画を立てておけば10分15分の無駄な時間を使わずに済んだと、荷物を整理しながら感じた。 |
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屋根から自転車を降ろす気になれない。こんな中をいきなり山道に入っていくのかと思うと、やる気が沸いてこない。しかたない、考えていてもこのツーリングは行かざるを得ない。変更のできないプランだ。それはわかっているものの、普通のコースとはわけの違う内容にますます不安がつのる。 休憩所に逃げ込む。雨風をしのげ、寒さから解放される。腹ごしらえを簡単に済ませる。他のハイカーもこの天気に少々残念そうだ。 |
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いきなりの押し上げで息も荒い。道は湿ってはいるものの、ぬかるむほどではなく問題はない。こんな道を想定して新品の靴を用意してきたわけだが、始めての靴というのは何かと心配だ。靴づれや、マメ、そしてペダリング、登りなどに影響がないだろうか、できれば一度試してから今回使用したかった。 |
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さっそく軽いトラブルが起こる。H氏も自分も同じサドルバッグサポーターをつけているが、振動でサドルバッグがとんでもない方向を向いている。また、バッグの重みでしだいに下がってきて、タイヤに触れそうだ。T氏は落ち葉がガードに詰まって、タイヤが回らなくなる。初日は、こうした小さなトラブルが起こるが、まあ、たいした事もなく楽しく山道を進む。 落ち葉の色、色づいた木々、味のある山道。落ち着いて観察すると、美しい紅葉の色彩があふれている。ここは、心豊かに秋の気配を感じ取れる気持ちが必要だ。 |
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間違えた道はすぐに下りにかかった。せっかく押し上げたのにまた下りかと思いながら進む。ところが一気に沢へまた下るような急勾配。 すぐにおかしいと気づくが、いつものごとく、もう少し、もう少しと先へ進んでしまう。 立ち止まって皆で協議。これはおかしい、という結論に達し、先ほどの分岐へ戻ることに。距離的には短いが、標高差にしてみれば一仕事。ここでも時間を無駄にしてしまう。 |
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バランスよく見事にクリアする。そのルートを真似するように自分もMTBを小脇に抱え、慎重にグリップを確かめながらクリアする。そしてH氏。二人が難なく渡ったのを見て気が緩んだのか、同じようなルートを踏むが、最後の一歩を踏み出す場所が悪かった。 こちらはカメラを構え、沢渡りの一枚を撮ろうと構えていた。味のあるショットが撮れると思い、シャッターに指を乗せ、いつでも押せる態勢だった。その時であった。あっと思った瞬間、大きな声とともに、岩に乗せた足がすべり、そのまま尻もちをついた。シャッターを押すタイミングと尻もちをついたタイミングが見事に合い、水しぶきをあげる決定的瞬間を見事に収めることができた。 H氏はそのまま体を伸ばし、水面に落ちないように頑張って体を保っている。すぐに近寄り、「待てる」、と判断し、さらに何枚か撮り続ける。これは滅多にない貴重な瞬間。救助よりも撮影、というのが約束だ。 |
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本格的な登りを向かえ、半袖の態勢で押し始める。空気は冷たいが、それ以上に体は熱気を帯びている。急激に天気は回復し始め、しだいに野反湖の水面が視界に入ってくるようになった。道は広く安定しており、標高差はあるものの、なかなかいいペースで登っていく。 いつものツーリングであれば、何度か休憩が入っているのだが、皆時間がないことを気にしており、自分から休憩を取るものはいなかった。なかなか辛い登りではあったが、呼吸を整えるだけの休憩を重ねつつ、しだいにピークに近くなってきた。 |
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すでにかなり空腹状態。飴でごまかしながら、またちょっとした休憩時におにぎりを食べるなどしてなんとかつないできた。空腹をごまかしながら先へ進むしかなかった。 ●動画(2分29秒) 魚野川水平歩道 その4( 西大倉山ピーク) https://youtu.be/EPY92n7L5aw |
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事前に宿に連絡をしておこうと思い、携帯が通じるかなと取り出すと、こんな山奥でアンテナがしっかり2本。周囲が開けているからとはいえ、こんな秘境のど真中で電話が通じるというのは驚きだ。携帯のありがたさにはただただ脱帽する。 |
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登りで大汗掻いた分、下りも手応えのある下りで、まともに押して下れれば楽であるが、段差、乗り越え、担ぎ等、体中の関節を痛めてくれる下りだ。湿った道は、時には滑りやすく、またブレーキシューが濡れたリムとやたら大きな音を出す。 下るには、常にリアブレーキをかけながら下るが、軽くブレーキをかけながらの下りでは音がうるさく、しかたなくリアをロックさせながら、落ち葉を引きずりながら下っていく。おかげで常に右手の握力、手首は使いっぱなし、左手は余裕という状態だ。また、乗り越える時も、やはり右手ばかりを酷使する事になってしまう。延々続くこの下りに、しだいに右手も音をあげてきた。 |
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足をぶつけたり、つまずいたり、張り切って大きな倒木を一人で乗り越えようと頑張って指を深く切ったりと、あちこち怪我をしながら黙々と下っていく。 |
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こういう時の高度計の表示はいやなものだ。頑張って下ってもいくらも数字が下がらない。特に700もあるとなると、そう簡単には下りきれない。乗って下れる700と歩いて下る700の差はあまりにも違いすぎる。多少乗れる所はあるものの、それはMTBの話であって、それもかなり太いタイヤでない限りかなり危険な所が多い。長いと認識してはいたが、やはり実際相当長い時間下り続けた。 |
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下り始めてすでに1時間以上が過ぎている。高度計のおかげでダムは近いと感じられ、こうなってくると元気付けられる。そしてついに目の前に吊り橋が現れる。1時間20分かかってようやくここまで降りてきた。 吊り橋もしっかりして見えるが、渡ると結構揺れて恐ろしい。高さもそこそこあり、掴まる所もないから、怖がりの人では渡るのも大変そうだ。山の中から川へ出てきて、久しぶりに明るくなった。長かった下りも終わり、やっと渋沢ダムへ到着した。情報によれば、ダム脇は芝生の広場になっていて、ランチタイムに絶好の場所らしい。また、ここでテント泊も可能となっている。 さぞかし、広々とした所なのだろうと思っていた。ところが、先ほどからの機械的な音から想像できるように、そこは大々的にダム工事の真っ最中であった。芝生と思われるあたりには工事現場のプレハブが建っており、そこでは住込みの作業者が食器を洗う姿が見える。さすがにこの場所では、下から通うことは不可能で、こうして何日も泊まり込みで工事をしているのだろう。 |
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ダムにかかる吊り橋を渡るといよいよそこからが念願の水平歩道の始まりだ。ダム工事の現場は、かなり落差のある上からと下からの作業が行われている。上からはリモコン操作によって工事の資材をコントロールしている。下にいる人は、何をしているのか分からないほど小さく見え、周囲のスケールの大きさの中に、人間の存在が本当に小さく感じられる。現場の人と顔を合わしても何の驚きも、挨拶もない。 彼らにとっては我々の存在はたいしたものではないのか、あるいは真剣勝負の時間に現れ、応対している余裕などないようにも感じられる。大自然の中で闘っている彼らにとって、気の緩みはあってはならないものなのだろう。一息ついて、渋沢ダムを後にする。とにかく時間に追われている。ダムまではなんとか計算通りに来たが、まだまだ安心はできない。あと2時間、何事もなく行けば5時には到着できそうだ。 |
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快適である。自転車に乗れるというのはこんなに快適なのかと感じる。歩き疲れた体にとって、座って前に進める、ブレーキをかけなくていい、ということが新鮮に感じられる。それほど長い時間、歩き、担ぎ、押してきた。低めのギヤにセットし、落ち葉の積もる水平歩道を行く。道幅は思っていた以上に広く、勾配も文字通り水平に近い。 すぐに最初のトンネルが現れる。本当に小さなトンネルで、乗って走り抜けることはできそうもない。中は暗く、出口は見えてはいるものの、ライトなしでは足元は真っ暗だ。先頭の二人はライトをつけて先へ行く。H氏は途中まで体をかがめて乗っていったが、途中で行き詰まったようだ。自分は、ライトを出すのも面倒なので、ライトなしで歩き始める。 ●動画(1分18秒) 魚野川水平歩道 その5(水平歩道トンネル) https://youtu.be/lmoUTkhnfWk |
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暗闇の中で左右の幅の感覚が麻痺し、気をつけないとトンネルの壁に手をこすりそうだ。ライトをつければよかった、と反省しても後の祭で、戻ることも立ち止まることもできず、結局怖い思いをしながらトンネルを抜ける。 |
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道はやがて山肌の岩が荒々しいあたりにかかる。さすがにこのあたりでは安全のために谷側にガードがつけられている。ガードといっても、単にロープが一本張ってあるだけで、とてもじゃないが身を守ってくれるとは思えないシロモノだ。道幅もかなり狭くなり、慎重な走行が必要だ。それでも路面が安定しているおかげで意外と楽に走り抜けられる。 |
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朝から散々担ぎ、押し上げを繰り返し、もう今日はないだろうと思っていたが、このトンネル越えは最後のとどめにふさわしい難所であった。体力が落ちている上に、未だ食料を豊富に持っているため、相変わらず自転車がかなり重く、それにも増して迂回路特有の常識離れした道作りに再び大汗を掻くことになった。 とんでもない勾配で、押し上げるにも、担ぐにも本日最高に辛い時間だった。最後の一歩は「ふざけんな」というぐらい気合の入った一歩で、登りきってトンネル上で皆疲れ果てた。 |
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●動画(1分16秒) 魚野川水平歩道 その7(水平歩道 トンネル迂回) https://youtu.be/M9IAVCYpc48 |
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やはり、秋の日は短い。暗くなり始め、写真をとる余裕もなくなってきた。ひたすら、足元を確かめながらの下りとなる。前半戦でかなりの下りを経験してきているから、この下りもあまり苦にはならない。ただ、日没に追われるように先を急いだ。 |
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ついに、魚野川を渡る吊り橋までやってきた。何度もお目にかかったような色の吊り橋であったが、最後のこの吊り橋は安心感とともに達成感を味わえる吊り橋であった。体はかなり疲労してはいるものの、足腰はしっかりしており、早く宿に着きたいという気持ちが一層強くなってきた。橋を渡ると、いきなり林道に出た。右手には車が何台か駐車しており、ここから切明温泉までは道が開けていることを想像させる。 一気に道は広く安定し、ここからは最後のフィナーレーにふさわしい、ウィニングランとも言えそうな締めくくりの走りになった。これまでの苦労を振り返り、これから訪れる温泉への期待が交互に頭の中にこみ上げる。あせる気持ちと、長かった一日への気持ちがより一層気持ちを高ぶらせる。 道はついに車道と合流する。そこは、これまでの閉ざされた静寂の世界から、騒音と現実の世界への合流地点でもあった。目の前に現れたのは車がカーブを曲がる姿だった。そして1台、2台と。アクセルひとつで坂道を排気ガスとともに駆け上がる文明の利器。 体中、ぼろぼろになって、肉体的、精神的疲労と闘ってきた自分たち。同じ土俵に現れると、あまりのあっけない合流に我々自身も戸惑うことが多い。それだけ、この水平歩道のルートは現実から遠く隔たった場所と言えるのかもしれない。 ●動画(2分23秒) 魚野川水平歩道 その8(水平歩道 ~切明温泉) https://youtu.be/S7WEGaP858I |
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切明温泉「切明園」は、そのにぎやかな入り口から少々脇道を入ったところにある。昔の記憶を思い出すが、このあたりの思い出はあまりない。少し奥にはいるとようやく宿が見えてくる。 「ああ、ここだ!、この入り口だ!」 そのなつかしい、そして変わらぬ宿の姿を見て嬉しさがこみ上げてきた。また、こうして来る事ができた。それもこんなに充実した一日で。嬉しかった。そして満足していた。時刻は5時12分、もう日没ぎりぎりの時間だった。 自転車を置く場所も昔と同じだった。同じように蒔が置いてあった。中に入って声をかける。出てきた主人は暖かく我々を迎えてくれた。前にお世話になったことは話していたが、自転車で来ることは確か一言も言っていなかった。だからであろうか、主人も我々の様子を見て驚きの様子が伺える。 いい内容の走りをした時の宿への到着の瞬間は格別だ。疲れた体の動きは緩慢だが、どんなに疲れていても心は穏やかであり、満足感で一杯だ。部屋へ上がる階段が何かと足にくるが、その一歩一歩の重さが満足感につながる。部屋へ案内されるこの瞬間がまた至福の時でもある。 |
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着いた、という満足感。そして、これから始まる明日へのドラマ。この旅は、どの瞬間も充実していて、終わりがない。休むまもなく、二人は地図を広げ出した。明日はもう少し余裕が欲しいということで、早速明日の行程を確認する。さすがに今日みたいな時間に追われるツーリングではたまらない。もう少し時間が欲しいと思うのは当然であった。 体が、かなり疲労していた。自分の右手首は、左手首と太さが変わっていた。使いすぎて手の甲が腫れ上がり、普段の1.5倍ぐらいの大きさになっていた。久しぶりに全身を酷使した一日だった。真弓峠にはかなわないが、それに近い疲労感を感じていた。 他に泊り客がいるのだろうか。その気配を感じない。重い体に鞭をうち、風呂へ向かう。風呂に浸かり、うまいビールを飲んで今日のフィナーレを向かえる。そうして布団に入るまでがまたまた、魅力たっぷりのひとときでもある。 浴衣に着替え、廊下を歩き風呂へ向かう。確か同じように昔も歩いたはず。残念ながらあまりその記憶はない。1階は吹き抜けで天井が高く、大きな暖炉が印象的だ。開放感のある宿で、2階から眺めるとその広さがまたうれしくもある。 |
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苦労して、頑張って、緊張して、そしてやっとこの気持ちを味わえる。味わおうと思って味わえるものではない。だからこそ、本当の満足感なのだろう。ツーリングの締めくくりは、やはり温泉に尽きる。ゆっくりとした時間が流れる中で、一日を振り返るにはあまりに贅沢で、そして人間の生身に戻れる瞬間でもある。 夕食は7時からになっていた。最後になってしまった自分を他の宿泊客も待っていたようで、こちらもそうとは知らず緊張してしまう。テーブルは6つほどあっただろうか。全員集まると20名ほどになるだろうか。宿の主人が、食事に合わせて色々と語り始めた。こういう形式とは思ってもいなかったため、少々戸惑い、皆それぞれ飲み始めるが、主人は秋山の話を始め次々と暖かい談話を話してくれる。 |
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布団に入ると暫くして皆深い眠りに入った。長い一日がようやく終わろうとしていた。 |
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距離:
16.1 km 所要時間: 7 時間 57 分 00 秒 平均速度: 毎時 2.0 km |
最小標高:
854 m 最大標高: 1807 m |
累積標高(登り): 803 m 累積標高(下り): 1467 m |
(2000/10/14 走行)
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