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2000年10月16日( 月)


三日目の朝を迎えた。天気は雲が多いものの崩れる心配はない。体調も皆順調だ。最終日のコースは3日間の中で最も考えさせられる。渋峠まで一気に登り、芳ケ平経由で尻焼温泉へ戻る。そして野反湖まで車を回収しに行かなければならない。そして最後は尻焼温泉で川原露天風呂を楽しもうという贅沢な予定だ。昨夜より時間配分を綿密に練っていた。まず問題なのは渋峠まで約500mの登りにどれぐらい時間と体力を使うかであった。


峠までの登りをバス輪行してしまえば、かなり時間的に余裕ができ、東京にも早めに戻ることができる。輪行すると言っても輪行袋を持っ ているわけではなく、本当に輪行するのであればそのまま車内に持ち込むしかなかった。結局、朝食を終え準備をしているうちにバスも2、3人を乗せて行ってしまった。確かにあれなら自転車を乗せても大丈夫であったかもしれない。


時間的に余裕はなくなったが、これで本日も真剣なツーリングができることになった。出発は8:50になった。月曜日ということもあり、朝の渋峠への登りは車も少なく快適だ。雲が多く日がささないため、空気は冷たく吐く息も白い。

1時間半みておけば峠に着けると予想していた。三日目ともなると体もかなり登り慣れてきて、先頭交代をしながら朝からいいペースでカーブをクリアしていく。一人では休みたくなる所でも、先頭に引っ張られついつい頑張ってしまう。高度計もしだいに1700、1800、と上昇していく。


やがて前方に横手山が近づいてくる。しかしまだ遥か上には道路らしき白い道が見え、やはり500の登りというのは手応えがあると感じる。一息いれて峠を目指す。横手山を回り込むあたりが一段ときつくなる。


工事中のため片側通行で信号規制されているが、ノロノロの自転車では到底信号通りの指示に従っては走れず、下りの車両と対面するはめになってしまう。気がつくとすでに標高も2000mを越えている。さらに気温は低くなり、走るのをやめると一気に汗も引き、体が冷えてくる。


このあたりも紅葉鑑賞のスポットが点在し、絶好の場所では多くのカメラマンがガスの晴れ間を狙ってガードレール脇に列をなしている。しかし、生憎なかなかガスがひかず、寒い中その一瞬をカメラに収めようと待ち続けていた。


ようやく勾配が緩くなる。標高は2100mに達し、峠が近いことをうかがわせる。やがて右手に建物が見えてくると、道路も直線的になり、2172mの渋峠に到着する。10:18 峠着。なかなかいいペースであった。


休憩も少なかったせいか結構足にきているが、それよりもすぐに体中が冷えてきた。気温が何度あるのか定かではないが、この寒さはきっと一桁台の前半だろう。車から降りてきた薄着の観光客はあまりの寒さに震えまくっていた。


自分にとっては2度目の渋峠になる。ここもすっかり変わってしまい、昔の面影は全くない。


15年前に来た時は、湯田中から延々登り続けた。いやになるほど長い長い登りだけが記憶に残っている。
その時の峠の標はもう残っていなかったが、道路脇にひっそりと隠れるように渋峠の白い標柱が建っていた。

●動画(2分44秒)  芳ケ平 その1(渋峠〜芳ケ平入口)
https://youtu.be/8EidwlpcU5Q


 


ここまでくれば後はほとんど下りだけになる。当初は渋峠から芳ケ平へのルートを行こうと考えていた。地図を見ると芳ケ平ヒュッテに向かってかなりの落差で点線が続いている。果たしてどんな道なのかと偵察に行くが、万が一トラブルが起きた時に時間的に余裕がなくなる危険性を避け、前に訪れたことのある白根からのルートを行く事にする。

白根へ向け走り出す。 左手にはガスの合間から芳ケ平の景色が見え隠れし、芳ケ平ヒュッテの建物が小さく確認できる。一気にスピードが上がり、冷気が全身を襲う。手袋した手も冷たく、涙が頬を伝って後ろに流れ散った。


直線な下りの途中に山田峠がある。注意しないとそのまま通りすぎてしまう。かなり古びた標柱にかすかに山田峠の文字が確認できる。周囲は樹木が少なく、火山地帯特有の様相だ。道はそこから一旦登り返す。登りになると今度は着ている物が邪魔になる。体温の変化が激しいため、脱いだり着たりととにかく忙しい。道が平坦になり湿原が右手に広がるようになると、白根レストハウスに到着する。


湯釜見物へ行く人の姿が蟻の行列のように良く見える。時間があれば神秘的な色の湯釜を見たいところだが、往復するには30分以上必要なため、芳ケ平への入口を目指す。前に一度訪れているので、ここからはほとんど地図がなくても安心できる。レストハウスから少々下った左手に入口があり、ようやくここで車の雑踏から解放される。


前回は雪の世界だったため、山肌や地面の色まで良く見えなかったが、あらためて周囲を見渡すとこの地球とは思えぬ風景に圧倒されてしまう。赤茶けた岩、灰色に覆われた山肌、殺伐とした風景。今にもガスが噴出しそうな感じがしてくる。

●動画(2分20秒)  芳ケ平 その2(芳ケ平ヒュッテへの下り)https://youtu.be/SONJ-c4s3Is


道は気持ちの良い下りとなって芳ケ平ヒュッテへと続く。MTBの真価をようやくここで発揮できる。良く締まった小砂利の山道は最高に楽しいダウンヒルを味わせてくれる。


細身のタイヤでは真似のできない走りを披露し、ついついオーバースピードになってしまう。ハイカーも少なく十分に下りを楽しむことができる。


もう少し下りたいと思う頃、芳ケ平ヒュッテに到着する。

●動画(1分8秒)  芳ケ平 その3(芳ケ平ヒュッテへの下り)https://youtu.be/-HZY8xVk1rk

絶好の季節なのか、何組かのハイカーがすでに昼食を広げている。予定通りここで昼飯にする。今日こそはゆっくりランチタイムを楽しみたいと、持ってきた数々の食料を放出する。太陽が隠れてしまって残念だが、それでも風がないだけ助かる。こうして落ち着いて昼飯を楽しめるのは今回のツーリングで初めてだ。


とにかく時間に追われていたため、ゆっくりと楽しむ余裕がなかった。今日は1時間ほど時間が取れそうである。今日のメニューは、宿で作ってもらったおにぎりを中心に、未だ豊富に持っているつまみの数々。鮭大根はじめ、茎わかめ等などなど。おにぎりが冷たいとT氏はガスで温め始め、紫に色づいた雑炊が出来上がった。


 


芳ケ平の下りは、MTBにとっての技量を試すことのできる絶好のフィールドだ。草津方面への下り始めは階段が多く、乗車率は低い。しかし、ヘルメット、プロテクター装備し、荷物も少なければ意外と走りきれるところも多い。

その条件に一つもマッチしない我々は、当然のごとく乗ることはできない。せめてMTBで来た利点を見せようと頑張るが、やはりカミカゼライダーのような勇気はない。階段が落ち着いてくると、いよいよ山道走行の醍醐味を味わえる極上のコースが現れる。乾燥した山道にブロックタイヤが気持ち良いほど吸い付き、恐怖感もなくハイスピードで下れる。制動力抜群のカンティブレーキが自由自在にスピードをコントロールしてくれる。


先に行ってはテクニカルポイントでカメラを構え、すぐさま後姿を撮り続ける。ビデオを交代し、まるで草津の町へ飛び込むようなダウンヒルをズームで追う。撮っても撮っても撮り足らないほど、撮影ポイントが多く、まともにダウンヒルを満喫することがなかなかできない。


小さな転倒もあったが怪我をすることもなく、快適に下り続けると、花敷温泉への分岐が現れる。

●動画(1分49秒)  芳ケ平 その4(芳ケ平の下り 転倒)https://youtu.be/pMBjewAQqyo


ここで相棒が来るのを待っていると、「サドルが壊れた!」と言ってやって来た。サドルが壊れたと言っているわりには、ちゃんと座って走ってきている。一体何が壊れたのかと良くみると、なんとイデアルの先端部分が折れて今にもちぎれそうになっている。こんなトラブルは初めての光景で、思わず驚きの声が上がる。


年代物で壊れたのか、衝撃で壊れたのかわからないが、高価な一品が使い物にならなくなった。しかし、先端をストラップで固定することでなんとか走ることができるようになった。


花敷温泉方面へ分岐し、沢を越え大平湿原へ向かう。気持ちのいい林間の走行が引き続き楽しめる。


大平湿原に出 ると周囲が開け明るくなる。落ち葉積もる山道を進むと、ひっそりした大池に出る。雰囲気の有る小さな池で、静かに昼寝するには最高の場所かもしれない。風もなく水面も穏やかで、思わず一息いれたくなる場所だ。

●動画(2分5秒)  芳ケ平 その5(大平湿原〜大池)https://youtu.be/KQixavbmspM


大池を後にすると、再び楽しい下りがしばらく続く。下りにかなり慣れてきて、緊張感も弛んでくると、ちょっとしたミスで思わすハンドルを取られることがある。


ここの下りでも何度かそんな場面に出くわす。標高もかなり下がってきて、いよいよ楽しかった山道下りもフィナーレを向かえる。


林道に合流すると道も広くなり見通しもよくなる。誰もいない広々とした林道をまだまだ下れる。これまで頑張って登ってきた分、これでもかというぐらいに下ってきた。最後は上質のダートを気持ち良く飛ばし、ようやく久しぶりの舗装路を目にした。メインを走り終えほっとする。しかし、ここから尻焼温泉まではひと頑張りしなければならない。途中、登り返す部分もあるため、まだ気を抜くわけには行かない。


舗装路に出てから不覚にも現在位置を見失い、尻焼へのルート確認に悩むが、それでもようやく川沿いの道に出ることができた。後は一本道 、下っていけば車が置いてある尻焼温泉へ出られる。



最後もかなりの勾配の中、快適に下っていくと見覚えのある尻焼の温泉が目の前に飛び込んできた。川には何組かの温泉客が湯に浸かっている。我々も早めに車を回収して、のんびりと湯に浸かりたいところだ。


時刻は16:30になろうとしていた。次第に暗くなり始め、日没まであまり時間はなかった。ここでT氏を温泉に残し、デポしてあった車で野反湖へ向かう。車で走っても30分はかかる距離があり、往復1時間は必要だ。次第に暗くなる中、いくつものカーブを曲がり野反湖が近づくと、初日と同様に霧が立ち込め出した。

最初は雰囲気があって楽しかったのだが、すぐに一寸先も見えないほどの濃霧へと変わり、視界はほとんど数mという事態になった。当然スピードも出せず、体を乗り出して前方を確認しながら走るというスリル万点のドライブとなってしまった。ようやくなつかしい野反湖の駐車場に着くと、ポツンと一台車が取り残されていた。休むまもなく再び濃霧の中を2台の車は野反湖を後にした。


車を止め、すっかり暗くなった中をライトを持って川原へ降りた。真っ暗な中温泉を楽しむ人達の声が聞こえてくる。T氏はすでに長いこと温泉に浸かり、すっかりいい気分。
相棒が頭にヘッドライトを装着して川に入った。相棒はここの温泉を熟知しており、何を持っていくべきかを心得ている。以前からここの川原露天風呂に一度入りたいと思っていたのだが、ようやく今回念願がかなった。


全くの自然そのままの川の底から温泉が沸いている。川幅はかなり広く、周辺は適度な温度でぬるくもなく熱くもない。一度入ったらなかなか出たくない温度がまたいい。場所によっては深いところもあるが、流れも穏やかなため安心だ。 明かりがないと全くの暗闇で、一体何人の人がいるのか見当がつかない。
楽しそうな声があちこちから聞こえ、我々も湯に浸かりながらのんびりとした時間を過ごす。

最後にこんなに野性味溢れる温泉を満喫して、もう何も言うことはなかった。この三日間のツーリングは、そのコースといい、内容の濃さといい、そして温泉といい、すべてにおいて満足いくものであった。こんな素敵なツーリングを経験してしまうと、これを越えられるプランをなかなか計画できそうもない。そんな思いが浮かんでくるほど充実したツーリングであった。

すっかり長湯してしまった。今から本当に東京へ帰るのかと思うと気が重く、いつまでもこの川の中で、足を投げ出し星空を眺めていたいと思うばかりであった。


距離: 33.2 km
所要時間: 7 時間 34 分 00 秒
平均速度: 毎時 4.3 km
最小標高:   858 m
最大標高: 2169 m
累積標高(登り):   714 m
累積標高(下り): 1525 m

(2000/10/16 走行)


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