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切込湖・刈込湖は原生林に囲まれ、刈込湖の湖畔にはオノエヤナギとオオバヤナギのヤナギ林が見られる。 切込湖は水際まで原生林が密生しており、道もなく湖には近づけないが、刈込湖には砂浜もあり、ハイキングの途中で休憩する絶好の場所となっている。



秋、1年で最も好きな季節。

毎年、10月の暦を迎えると、さて今年はどんな秋景色が見れるのだろうとワクワクしてくる。

最近は、インターネットのライブカメラで、観光地の様子を見ることができ、日光の紅葉の様子も数時間おきに映し出され、次第に色づいていく様子が自宅でよくわかる。

相当の渋滞を予想し、前夜に奥日光に入ることにした。

夜のいろは坂を登り、戦場ヶ原の駐車場に車を止める。


さすがに気温は低く、車の外へ出ると一気に体が冷えてくる。 

 

 


寒い車内で何とか過ごし、翌朝早く戦場ヶ原を散策する。

ここ、奥日光でさえ早朝から何組ものハイカー、観光客が次々と現れる。

やはり日光は並大抵の混雑ではないことを感じさせる。

ランドナーを組み立て、戦場ヶ原から湯元へ向かう。

自転車の姿は自分だけで、男体山を右手に、戦場ヶ原を左手に見ながら秋景色の中を行く。

戦場ヶ原を抜けるとしだいに勾配がきつくなり、湯滝から湯元温泉入り口を過ぎ、金精峠方面へ進む。

すぐに刈込湖・切込湖への入口が右手に現れる。

 

 


今回、このルートをインターネットで調べたのであるが、思いのほか自転車のレポートが少ない。

その中で見つけたレポートには、ほとんど乗車が可能で、等高線沿いに走れる、というようなことが書いてあった。

すっかり信じた自分が悪かったのだが、結果としては、最悪の担ぎ80%のルートであった。

さすがにこれほどまでにレポートと違うとなると、少なからず憤りを感じてしまう。

ランドナーで来てしまったから余計に難儀になってしまったのだが、すれ違うハイカーの驚きがいつもと違うのをひしひしと感じる。 


 

 


「わっ!、自転車ですか!」
「歩くのでさえ心臓バクバク言っているのに、自転車 ですか! すっごいですねえ!」
「いったい、どこ走るのですか?」
「走れるところあるんですか?」

こんな調子で、ハイカーは全員たまげた様子で行き交う。

無理もない、自分でさえこんな予定ではなかった。

階段は当たり前、大きな岩、木の根、担ぎ上げるような段差、次の一歩をどう踏み出そうか悩むほどの荒地。

いったいここの何処を走ったというのであろうか。

どんな上級者でも、トライアルの選手でも不可能だ。

ポタリング気分で来たが、一気に本格的な山岳ツーリングになってしまった。

 


小峠から刈込湖へは、多少乗車が可能で、地図を見れば緩やかな山道なのであるが、実際はさらに100m近く担ぎ上げ、それから一気に刈込湖へ落下するという山岳ルートだ。

GPSの軌跡を後で見ても、確かに地図上のルートをはずれ、かなり登っている。

いったいここの地図はどうなっているのであろう。

ルートを間違えたとは決して思えない。

いい加減疲れ果てて、ようやく刈込湖へ降りきる。

そこには静かで美しい湖面が広がり、突然、地獄から楽園の世界へと激変した。

かなり体力を消耗し、空腹だったものだから、さっそく湖畔で食事にする。

風もなく、鏡のように周囲を映し出す湖面を前にして疲れをいやす。

 

 


刈込湖で十分に体を休め、切込湖へ向かう。

等高線沿いでほとんど乗車可能というレポートに期待して進む。

ところが、ここからも、まったく乗車不可能の状態が続く。

どこまで行けば乗れるのかと、期待しながら進んでいくうちに、涸沼に出てしまった。

結局、ランドナーを持ち込んで、まったく何の用もなさなかった。

さんざん担ぎすぎて肩が痛くなり、最後はシャツをフレームに巻きつけるほどだった。

余裕があれば、こんな荒地を写真に収めるところであるが、辛さばかりで、険しいところの写真が今となっては一枚もないのが残念だ。

そして、ここのとどめを刺してくれのが、山王峠への階段担ぎだ。 

 


直登約100m、弱った足腰には一歩一歩がやたらきつい。 

10歩進んでは肩から降ろし、また10歩進む。

真上に見える車道がなかなか近づかない。

車の音は聞こえるが、ガードレールがまだまだ遠い。

やっとの思いで山王峠、車道へ担ぎ上げる。まったくお笑いで話にならない。
これほど自転車が無用に思えたコースも珍しい。

しかし、今までの不満も、光徳牧場への舗装のダウンヒルが解消してくれる。

待っていてくれたのは見事な色彩のダウンヒルだった。

ちょうどこのあたりは色づきも最高で、コーナーを曲がるたびに次々と感動の「絵」が飛び込んでくる。 

 


おかげで、ダウンヒルもほとんど止まりっぱなしで、何度も何度も立ち止まってはカメラを構える。

光徳牧場へ気持ちよく下っていく。
自転車のありがたさを、今日はじめて味わうことができる。

本当は、もう一日日光を走る予定であったが、残念なことに天気は下り坂で、明日は本格的な雨になるという。

そこで急遽、明日楽しむ予定だった小田代原〜弓張峠をショートカットで行く事にした。

デポ地に戻り、一般車は入れない小田代原への道へ進む。

ここはゲート封鎖されているため、ハイカー以外は入ることができず、自転車のための最高の道であった。

静まり返った森林内は、きれいな舗装が真っ直ぐに続く。 

 


ゆるやかな登り坂を行くと、前方からバスがやってきた。

このバスは、この美しい森林内をハイカーのために巡回している低公害バスだ。

歩くには距離があるため、ハイカーはバスで移動しなければならないが、自転車には最適のポタリングコースだ。

しかし、ポツポツと雨が降り始めた。最近の天気予報の精度は素晴らしく、本当によく当たる。

小田代原は、周囲が大きく広がり、風景が一変する。

湿原は茶色一色に色づき、静けさの中に、寂しさと、そしてとてつもない美しさを感じさせる。

弓張峠まで来て、雨が強くなってきた。
西ノ湖を諦め、バス停で雨宿りしながらくつろぐ。

 


巡回バスがやってきた。結構ハイカーが乗っている。
邪魔にならないようにおとなしくしていたが、突然バスの中から声をかけられた。

「あっ!、さっき、刈込湖で会いましたよね!」
「もうこんなところにいるのですか!、すっごいですね!」と、またまた驚かせてしまった。

こちらはいちいちハイカーの顔を覚えていないので気が付かなかったが、向こうからしてみれば、歩きの感覚からしてみれば信じられないのであろう。

結局、今回のツーリングは天候も冴えず、これで戻る事になった。

前半は、本格的な山岳、後半はのんびりポタリングと、バラエティに富んだ内容になった。

しかし、やはりこの季節の日光は訪れるだけの価値がある。


 

(2002/10 走行)


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