峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’2004 >  松本峠・風伝峠・丸山千枚田


松本峠:熊野市の大泊と木本を結ぶ松本峠は、名勝・鬼ヶ城の山手に位置する。竹林に囲まれた峠には、鉄砲で撃たれたと伝わる地蔵が立っており、途中の梅林からは七里御浜が一望できる。
風伝峠:三重県南牟婁郡紀和町と御浜町の境。紀勢本線新宮駅の北15km(標高257m)
丸山千枚田:丸山地区は、三重県南部の紀和町の白倉山(736m)の山麓に位置し、標高110〜290mの斜面に100段近くの千枚田がひらかれている。面積は7.2haあり、熊野古道・北山道の「通り峠」からは、1340枚ものたんぼが一望に見渡せる。



9月はじめの週末、午前中で仕事を切り上げ、最後の準備を整え川崎港へ向かう。

南紀、カーフェリーの旅。

夜行列車がほとんどなくなってしまった今、旅情満点の旅は船旅しかない。

これから始まる紀伊半島への思いを込め、2等室の乗客となる。

夏休みも終わり、船内は比較的空いていた。

それでも世界遺産に登録された和歌山へ向かう観光客が、すでに車座になって賑やかに酒を酌み交わしている。

 

 

 


観光客、バイクのライダー、長距離トラックの運転手、そして唯一のサイクリスト。

色々な人たちが翌朝、那智勝浦までの旅をこれから楽しもうとしている。

記録的な台風に見舞われた今年の夏。
出発も危ぶまれたが、運良く穏やかな船旅となった。

目覚めれば紀伊半島が前方に迫っている。
さあ、これから9日間のロングツーリングの始まりである。

不安と期待を胸に込め接岸となった。

今回のツーリング、時間はたっぷりある。

しかし、予定もしっかり組み込まれていて、一日として余裕のある日はない。
それだけ和歌山は魅力あるところであり、そして広い。

 


訪れるポイントだけは計画しているが、詳細はその日任せだ。天候、体調、気分、雰囲気で好きなように予定を組み替える。 

走りたいと思えばすぐに車を置いて走り出す。
観光だと感じれば、自転車抜きで歩き回る。

そんな、自由自在の旅ができるのもこのロングツーリングの魅力だ。

今回の旅は熊野那智大社の見学から始まった。

早朝の那智大滝は観光客もいなく、静かな石畳を歩いていくと目の前に豪快な那智大滝が現れる。

落差133mを誇る日本一の直瀑は見る者を圧倒する。

那智大社参拝の後、大門坂を下る。

 

 


樹齢800年といわれる杉木立の間に苔むした石畳が1kmも続く。

かつて熊野詣の人々が通った熊野古道が、当時の雰囲気をそのままに残されている。 

松本峠へ車を走らせる。

松本峠は、紀伊半島東海岸を歩く伊勢路最後の峠である。

自転車で越えた情報は得られなかったため、無理であれば徒歩にしようと考えていた。

近畿自然歩道を大泊側の入口から入る。

様子を伺いに数m階段を登っていくが、すぐに自転車の持ち込みは不可能という結論に達した。
 

 

 


松本峠への道は距離的には短いが、急勾配の石段、石畳が続き、一歩一歩が結構辛い。

海岸に近いため雰囲気は明るく、木立の間から差し込む太陽がまぶしい。

風がなく、蒸し暑く、蝉の声を聞きながらしばらく登り続ける。

万が一自転車を持ち込んでも何の役にもたたず、ただのお荷物となってしまうだろう。

あわよくば、峠での写真の一枚でもと考えていたのだが、まったく無理な話であった。

また、こうした貴重な自然景観、遺産を守っていくためには、この峠には自転車を持ち込むべきではない。

入口から20分ぐらいで松本峠へ到着する。竹林の中、お地蔵さまが迎えてくれる。
 

 

 



峠から鬼ケ城跡方面へのハイキングコースを行けば、眼下に七里御浜を見渡せる展望台へ出る。 

結構、ここまでくると息も弾み、額からは大粒の汗が流れ落ちてくる。

シーズン中であれば、ここも混雑するであろうが、今日は大展望を独り占めだ。

雄大な熊野灘に続く七里御浜、そして海岸線からは紀伊山地が連なる。

展望台からしばらくぼんやりと眺めていると、これからどんな旅が待っているのかと、期待に胸が高まるばかりであった。


 

 

 


初日のスタートとしては、いい準備運動になった。

いきなり担ぎやら、ハードな峠越えでは体が順応できないが、軽い山歩きでいい汗を流し、体調も万全だ。

紀伊半島のスケールは大きく、車を有効に使わなければ、本当に限られたエリアしか訪れることができない。

熊野古道も「紀伊路」「中辺路」「大辺路」「小辺路」「伊勢路」と広がり、すべてを辿るには相当の時間を必要とする。

今回の紀伊半島の旅は、できるだけ多くの熊野古道を辿るため、カーサイでの周回、および輪行を組み合わせた移動手段をプランニングしている。

 

 

 


午後からいよいよ風伝峠へ走り出す。

風伝トンネル手前の町中に車を置き、MTBを降ろす。
短時間の周回コースのため、重い荷物を置いて軽装備で走り出す。

トンネル手前から、旧道が分岐している。
綺麗な舗装路が登っていくが、台風後のため路面には枝木が散乱している。

旧道は、通り過ぎる車も、そして風もなく、静寂の峠路だ。

怪しくなってきた空模様だったが、とうとう降り始めてしまった。

さっそく新品のゴアテックス雨具を取り出す。
新品だけに着心地も最高で、面白いぐらいに水滴を弾いてくれる。 

 

 


風伝茶屋の軒下で雨宿り。ひっそりとした茶屋だが営業しているようだ。
 

できれば、一息つきたいところだが、まだ走り始めて間もなく、そして雨模様ということで先を急ぐ。
 

旧道から通り峠を経て丸山千枚田へと向かう予定であったが、雨足が強くなり始め、路面の状態も怪しいため、舗装路をそのまま紀和町へと入る。
 

通り峠からの丸山千枚田の眺めが素晴らしいと言われているため期待していたのだが、雨の中の山道、石畳は危険のため残念ながら諦める。


 

 

 


次第に、視界が明るくなり始め、左手前方に丸山千枚田が見え始める。

大きく広がる緑の棚田は美しく、幾重にも折り重なった模様が、光の強弱で見事なグラデーションを描いている。

日本棚田100選に選ばれる丸山千枚田には1340枚もの田んぼが広がる。

これだけの規模の棚田を一望に見渡せる所もなかなかない。

生憎の雨ではあるが、この美しい光景を目の前にランチタイムを楽しむ。

 

 

 

 


雨をしのげる屋根下を探し、のんびりとくつろぐ。
周囲はたちこめるもやで真っ白になってきた。目の前の棚田の様子も伺えないほどだ。

まあ、時間もたっぷりあるし、今日はどこまで行こうと、どこで寝ようと自由だから、全くあせることはない。

ようやく雨具が脱げて、しばしの間雨から解放される。

降り続く雨と、流れる雲を眺めながら、のんびり静かな午後のひと時をすごさせてもらった。

十分に休み、天気も回復してきたころ下りに入る。
 

 

 

 


棚田の中に入っていくと、雨上がりでさらに緑が美しく見える。

棚田の写真を撮ろうと、カメラマンが一人太陽の出るのを待っている。

ここのロケーションなら、太陽の光の加減できっと素敵な写真が撮れるのではないかと予想できる。

道は快適な下りだが、一気に通り過ぎたのではもったいない。

絵になる場所があちこちにあるから、ここでは色々な構図で写真撮影を楽しみたい。

広角から望遠まで満たしてくれる28-200mmのズームレンズが 、こうした場面では大活躍する。


 

 

 


水車小屋に、様々な表情の案山子。
顔も面白ければ衣装もユニーク、とても楽しい棚田の光景だ。

棚田を抜け、風伝トンネルを快調に下れば車に戻ってこられる。

距離は短いが、峠越え、棚田の景観を楽しむことのできる素敵なショートコースだ。

紀伊半島初日は、那智大滝に始まり、松本峠、風伝峠、丸山千枚田と、非常にバラエティに富んだ豪華な滑り出しとなった。

車に戻り、本日の温泉、寝場所を検討する。

そして二日目へ向け、瀞峡へと移動する。

本日の温泉:おくとろ温泉 寝場所:おくとろ公園

 

 

(2004/9 走行)


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