峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’2004 >  箸折峠・小広峠


箸折峠:和歌山県西牟婁郡中辺路町。熊野古道の中辺路が越える。鎌倉時代の宝篋印塔や牛馬童子の石像がある。(標高380m)
小広峠:和歌山県西牟婁郡中辺路町。熊野川支流の四村川と日置川との分水界をなす。中世までの熊野街道(中辺路)、現在の国道311号が通る。(標高560m)



昨夜、温泉にて食事中、グラっと大きな揺れが襲った。
宿泊客で賑わっていたレストランは騒然となった。

天井のシャンデリアが左右に大きく揺れたが被害はなかった。
和歌山で震度5、津波警報まで出るほどの大きな地震であった。

とりあえず被害はなかったが、昨今の大雨で緩んだ地盤とこの地震で、道路に影響が出なければいいのだがと願って、その夜はラジオをずっと聞いていた。

さらに0時前に再び震度5の地震が起こった。

キャンプ場ということで、周囲に危険な場所がなくて幸いだった。

今後、地震、水害、土砂崩れなどを考えた上で寝場所を考える必要がありそうだ。

 

 


毎日違った温泉に入り、うまい食事と酒に満足していたのだが、昨日の地震で少々気を引き締めることになった。

あまり危険な場所に入り込むと、思わぬ事故になりかねない。

携帯電話も繋がらない所が多く、ちょっと人里を離れれば、水も食料も手に入らない無人地帯が結構多い。

翌日は、地震のおかげですっかり朝寝坊してしまい、ゆっくりとしたスタートになってしまった。

熊野古道の中でも一番人気のあるコースが中辺路だ。

一泊輪行で巡りたい所であるが、プランニングをまとめあげられず、本日もほぼピストンに近い周回コースとなってしまった。

 

 


小広トンネルを越えた先、小広王子口に車を置く。

使えなくなったMTBの出番はもはや無く、今日もランドナーの登場だ。

舗装路を快適に下る。交通量が少なくとても走りやすい。

前半はどんどん下り、後半は熊野古道に沿って旧道を戻ってくるというコースだ。

道の駅で小休止したあと、トンネルを抜けてからはずっと下りだ。

結構スピードものって、ダウンヒルの様子を何度も撮影する。

中辺路町役場の付近から折り返し、熊野古道に沿って登りはじめる。

 


 

 


熊野古道をどれぐらい自転車で走れるのかと思っていたのだが、実際の道はやはり山道だ。

いくら整備されているとは言え、やはり昔のままの形で残されているため自転車での走行は不可能。持ち込んでも押し、担ぎがほとんどだ。

しかし、熊野古道に沿って車道が続いているため、気持ちよく熊野古道の雰囲気を味わうことができる。

中辺路をゆっくり歩いて見たい気はするが、かなりの距離があるため、体力によっては相当のハードコースだ。

ここは、自転車でのんびり走ったほうがよさそうな感じだ。

 

 

 


日陰を求めて、高原熊野神社でランチタイム。

ベンチで休んでいると、ざわざわとハイカーが現れた。
大学の教授と生徒だろうか、ここの神社の歴史を説明している。

中には熱心に聞いている者もいるが、この暑さの中、首からタオルをぶら下げて、もう勘弁してくれよ、というような顔で携帯をいじりながら歩いていた。

お年寄りがやってきて、「ここは涼しくていいでしょう」と話しかけてきた。

手には鍬を持って、これから畑仕事に行くようだ。

「地震の被害はありませんでしたか」と聞くと、「酒飲んで寝てたから地震は知らなかった」という答え。

なんともまあ、のどかなおじいさんであった。


 


神社のすぐ先に休憩所と売店、展望台が整備されており、ここからは北西の視界が開け、緑豊かな山並が広がる。

熊野古道は、ここから十丈峠を経て、逢坂トンネルの上を越えるわけだが、地図上では破線の山道がしばらく続くため、一旦国道へ降り、福定の先から旧道を逢坂トンネルを目指す。

時間の余裕と、MTBがあればこのまま熊野古道を辿ってもよかったのだが、本日のメインである箸折峠を確実に越えるためにはこの選択しかなかった。

国道までのダウンヒルは、舗装路ではあるが、道幅も狭く、コーナーの連続するスリリングな下りだ。

 

 


 


逢坂トンネルへの登りは、車も全く通らず、緩やかな登りで快適だ。
日差しはきついが、木陰に入れば空気が冷たい。

トンネルまで250mほどの登りであるが、ノンストップで着いてしまった。

トンネル入口が近づくと、はるか先にポツンと出口の明かりが見える。
かなり長いトンネルだ。直線距離で500m以上ある。

かなり雰囲気のあるトンネルだが、中は真っ暗である。

車もすれ違えないほどの狭いトンネルだ。
車が来ないことを祈りながらトンネルに入るが、やはりトンネル中央あたりで闇夜の世界になってしまった。

恐る恐る徐行しながらトンネル反対側へ出た。




 


いよいよ期待の箸折峠が近づいてきた。

峠へは、車道から熊野古道の案内にしたがって山道を行くことになる。

小休止した道の駅から登ってきた観光客がこのあたりから目立ち始める。

皆軽装で登ってくるが、それなりの山道なので、サンダル履きやヒールの高い靴では危険だ。

かつて「蟻の熊野詣」と呼ばれるほど盛んに歩かれていたこの熊野古道。

今ほど道も整備されていなかった当時を思うと、この中辺路、熊野三山へ至る道がどれほど大変なことであったのかが感じられる。



 

 


箸折峠。

牛馬童子と役行者像がひっそりとたたずむ。

牛と馬の背にまたがった童子像は、弁財天に仕える十六童子のひとりとされるが、近年では花山法皇の熊野御幸の姿であるという説もある。

時代は変わり、またがる物も自転車へと変化はしたが、同じ道、同じ景色を辿るにつれ、自分の中で熊野信仰の魅力が次第に大きくなっていくのが実感できる。

歴史の重みを感じられる中辺路、そして箸折峠である。

階段の下りを担ぎ降ろすと、休憩所があり、近露の町並みが一望できる。

実に綺麗な町並みだ。




近露から小広峠へ登り返す。

途中、道路工事のおじさんにつかまって立ち話。

「明日、偉いさんがくるので、この辺でどこがよかったか教えてくれ」という。

どこが良かったかって言われても、この中辺路、熊野古道すべてが良いですよ、としか答えようがない。困った質問をされてしばらく解放されず参ってしまった。

道は、やがて旧道小広峠を過ぎ、トンネル入口に下りて来た。

ぐるりと一周、中辺路、熊野古道の一日は、走り足らないほどとても魅力たっぷりのコースであった。

本日の温泉:龍神温泉 寝場所:龍神温泉駐車場

 

 


 

(2004/9 走行)


峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’2004 >  箸折峠・小広峠