峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’2006 >  細尾峠・足尾銅山



やっぱり紅葉を見るには日光へ行かねば、と10月も半ばにランドナーを車に積み込む。

今回は、ニューサイNo.239の「旧道を探る」を参考に、この付近を走ってみようと計画した。

前日18時に出発し、21時に日光口PAで就寝。

ここまで来ていれば、早朝ちょっと移動すればたっぷり走れそうだと車内で夜を過ごした。

ところが、目覚めてたまげた。いきなり目の前の走行車線が大渋滞だ。まったく動いていない!

やっぱり秋の日光は尋常ではない。ちょっと甘かったか・・・


日光口PAからは延々と渋滞に悩まされ、ノロノロ運転のまま時間ばかり過ぎる。

ようやく現地に到着した時はすでに10時。もう今日の予定は変更せざるをえなかった。

やっぱり日光に行くときは、早朝には現地に着いていないとだめだとあらためて反省した。

できれば「旧道を探る」のコースを、うまく車を使って走ってみたかったが、今日は細尾峠だけと諦める。

細尾峠の周回コースに変更し、日足トンネル手前の駐車場からスタートする。


ここまでくれば車の数も少なく、ようやくツーリング気分も盛り上がってくる。

車のデポ地からすぐに右に分岐がある。「長い長い峠道」と書かれた細尾峠への旧道だ。

残念ながら雲が多く日差しが少ない。それでも周囲の山々は見事に色づいている。

日足トンネルが開通して、この細尾峠への道はほとんど利用する人がいなくなった。

確かに、こんな山道をくねくね行くのに比べ、直線のトンネルであっという間に通過できる。

よって、旧道はこんなに静かで美しい峠道が残っている。

分岐してしばらくは川を挟んで車道が並行しているので、車の騒音も聞こえてくる。

しかしやがて車の音も聞こえなくなり、九十九折れの峠路が目の前に迫ってくる。

周りはすっかり秋景色。いや、すでに落葉の積もり方を見れば晩秋の気配を漂わせる。

きつい登りだ。物凄いヘアピンカーブの連続だ。見上げれば白いガードレールが次々と見えてくる。

なんでこんなすごい道を作ったのか、と疑問になるほどの九十九折れだ。

ほとんど乗車できず、ゆっくりと押していく。

雰囲気は最高だ。これぞまさしく、秋の峠越えだ。

静かだ。誰もいない。車も来ない。そして山が美しい。

「峠沢」なんて書かれた小橋を渡る。もう、間もなく峠に近いのかと感じさせる。

空が見えてきた。もう峠も近い。

何とも味のある、そして美しい峠路なのだろう。

距離は短いが、峠越えの魅力がぎゅっと詰まった感じのする道筋だ。

峠はひっそりとしていた。

峠のピークに「細尾8km 足尾4km」の案内がポツンと建っている。

細尾峠の名前は、その先に小さく表示されていた。

こっちの方が峠の趣があっていい。

誰もいないと思っていたら、峠の周囲は駐車している車が列をなしていた。

どうやらここからがハイキングコースになっているようだ。


日光と言えばいろは坂になるが、あんな大混雑に時間を奪われるより、こうした静かな峠の方がはるかにいい。

車はたくさん止まっているけれど、人の姿はまったくない。

静かな峠でランチタイムだ。

さすがに10月も後半、日差しもない中、標高も1200m近い峠では吹き抜ける風が冷たい。

こんな時はグツグツとホルモン焼きでも食べながら、秋景色を楽しむ。


今日はショートコースなので時間に余裕がある。しばらく峠で休んでいたら、ちらほらとハイカーが戻ってきた。

ようやく人の姿を見ることができた。話し声が聞こえてくると、峠の雰囲気もようやく賑やかになった。

下りも貸し切りだ。下って行く車も、登ってくる車もいない。

きれいな舗装路に深く落葉が積もっている。

タイヤで踏みしめると、”サクサク”、”シャリシャリ”という乾いた音が響き渡る。

下りも九十九折れの連続だ。あまりにカーブが続くので、スピードも出せない。

一気に下ってはもったいないほどの眺めだ。ゆっくり、ゆっくりと味わいながら下って行く。


350mの標高差を気持ちよく下って行くと、日足トンネルに降りてくる。

静寂の世界から、騒音、轟音の世界に引き戻される。あまりの変化に戸惑うばかりだ。

このトンネルは走りたくなかった。地図を見ただけで勘弁してくれと言いたくなる長さだ。

トンネル内は明るい照明で車のドライバーにとっては快適だ。

しかし歩道は狭く、その横を見通しがいいおかげで猛スピードで車が疾走していく。


狭い歩道、上り坂、迫る横壁、轟音、風圧の中、よろよろしながら走るのは危険だ。

車道に落ちたらひき殺される。結局、2765mをひたすら押して歩くことになった。

あと少し歩道の幅を広げてくれたら・・・と思うが、逆に歩かせるために狭くしたのかも・・・とも思った。

 

長い長いトンネルだった。もう二度と通りたくないと思った。

車に戻って足尾銅山へ移動する。しかし、道路はこのありさまだ。紅葉狩りの車で大渋滞。

自転車ならスイスイ走れるのに、延々続くノロノロ運転。まあ今日は帰らないから余裕で運転する。


今夜は、足尾銅山観光の駐車場に車を止めての車中泊。こんな所で寝る奴は誰もいなくて静かでいい。

この時期は車内で寝袋に入って寝るのにちょうどいい気温だ。


車内はちょっと狭いけど、テレビも見れるし冷たいビールは飲めるし、不便なことはあまりない。

換気に気を付けながら、車内で料理を楽しむ。こんな時間が贅沢なんだなぁ。

翌日は朝から雨。こんな天気ではツーリング気分も盛り上がらない。

車を走らせ、足尾銅山周辺を散策してみる。

日本近代化の歴史を物語る足尾銅山。

ピークには東洋一の銅生産量を誇っていたほど、その繁栄ぶりはすさまじかったという。


初めて訪れたが、その風景は異様な雰囲気に包まれている。

町全体が”岩”の色のように暗く、黒く、そして山には樹木がないハゲ山が多い。

亜硫酸ガスによって山林は消滅し、いまだに復旧途上にある。

舟石峠までゆっくりと登って行く。

旧社宅跡には立派な石垣が延々続き、かなりの人が暮らしていたことがうかがえる。

それでも野生の猿が道路に現れ、少しずつ自然が戻ってきていることがわかる。

峠から下って銀山平、小滝を経由して鋼親水公園へ向かう。

途中から見える精錬所跡の景色は、もう絶句に値する。言葉が出てこないほど衝撃的な色だ。

昨日たっぷり味わった、細尾峠の素晴らしい赤や黄色などどこにもない。

煙突を高く伸ばす公害対策を取ったら、さらに被害が遠くまで拡大した・・・なんて解説もある。


すごいことだっただろう、当時は・・・足尾鉱毒事件は、いまだに続いている。

この写真は、とにかく「重い」一枚だ。

足尾銅山の歴史をさらに学ぶため、足尾銅山観光へ向かう。

年配の団体さんと一緒に、トロッコ電車に乗って全長700メートルの薄暗い坑道に入っていく。

よくできた電気仕掛けの人形や、銅採掘の様子などが楽しめる。大人でもなかなか楽しい見学ツアーだ。

すっかり足尾銅山観光の一日になってしまった。しかし、とても勉強になる一日であった。

ツーリングに行っても、なかなかゆっくり観光する時間もない。今日は実にいい機会だった。

すでにお昼。天気も冴えず、今更走る気も起らない。


ほとんど自転車で走れなかった代わりに、帰り道に二つの峠、「藤坂峠」と「馬打峠」を車で越えてみた。

どちらの峠も、舗装路の静かで小さな峠だが、車で越えてはまったく雰囲気がつかめない。

もし機会があれば、再度この周辺を訪れてみ たいと思いながら帰路についた。

 

(2006/10/22-23 走行)


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