峠への招待 > ツーリングフォトガイド > ’2016 > 木曽越峠
標高1270m。岐阜県恵那郡加子母村。高山本線下呂駅の南東16km。
御嶽山登拝のための美濃側からの主要路が通じ、峠に地蔵尊が安置されている。
木曾義仲が越えたという伝説に由来する。山麓に渡合温泉がある。
静かな朝を向かえた。
車の音も、川の流れも、風の音も聞こえない。本当に人里離れた秘境の一軒宿だ。
7時に朝風呂へ行く。宿泊客と一緒に、熱い湯につかる。冷えた体が芯から温まる。
朝食の準備が忙しい中、ご主人遊び好きで、すぐに我々の相手をしてくれる。
まずは鉄砲(BB弾)だ。「いいですか〜、ここからあそこの空き缶狙ってくださいね〜」「3回で当たったら景品が出ますよ〜」なんて言ってたら、
「ちょっと! 何遊んでんの! 忙しいんだから運んでちょうだい!!」と女将さんに怒られてました・・・
何だこんな鉄砲なんて・・・くだらん・・・なんて思ってやり始めると、楽しくなっちゃって・・・ついつい・・・
なんたっていろんな遊び道具がいっぱいで、壁には古い一眼レフやら、ラジウスやら、LPレコードまで展示してある。
お客さんがいろいろ持ってきて、ここに置いてっちゃうんだそうです。でも、いいインテリアになって雰囲気がでてますね。
朝食も豪華。まあ、とにかくこの宿、料理は文句なしですね。食後にはコーヒーのサービスも。
頼んでおいたお昼のお弁当を受け取り、本日の会計係は昨晩迷惑をかけた方のお役目。
これだけ食べて、飲んで、さらにお弁当付きで、納得の料金でした。
全員で記念撮影。
「これ持って撮ったらどうですか」とランプを手渡され、ご主人にお願いして撮ってもらう。いい一枚が撮れました。
さてさて、朝になっての話題はこの一台です。
毎回、参加者を釘付けにする1台を披露していただけるY氏の愛車です。
昨年はモトベカン、今年はなんと、「エルス様」で単独で真弓峠を越えてきた。
朝の陽を浴びて、渋く輝くそのフォルムは、他のTOEI、SWの中でも圧倒的な存在感だ。
いい色だ。なかなかいい。とてもいい。もう、話題はこの1台で持ち切り。例によって長い長い品評会の始まりだ。
「いいねぇ〜」とO氏。かなりのお気に入り。エルスから離れません。やはり、オーラが違うのでしょうね。
昨日の白巣峠を越えて、今日はかなり気が緩んでいる。ついついスタートが遅くなる。
本日のコースは3つに分かれることになった。
本隊5名は、木曽越峠から中津川方面へ。分隊3名は、車回収もありラクチン中津川コース。そして単独Y氏は白巣峠を越えて木曽福島へ。
総勢9名は、「5・3・1」 とフレームパイプみたいに別れることになった。
本隊組の中には、明日も休みだから、「鞍掛峠行きましょうよ〜」「じゃ、真弓峠行きましょうよ〜」と一人元気な意見もあったが、とてもあの荒れたダートを延々登るのは、距離的にも 時間的にも無理なので不採用。
そこで、宿からすぐの木曽越峠に林道が開通したということで、おとなしくこの小さな峠越えを楽しみましょうということになった。
今日も快晴。文句なしの青空。 見渡す限り紅葉の盛り。何もかも色づいて錦秋の世界。
「それでは皆さん、お気を付けて」「また次回、お会いしましょう」ということでそれぞれ分かれて行った。
赤いウエアのI氏が乗るTOEIは、H隊長が20年前ここを訪れた時に乗っていたランドナーを譲り受けたものだ。
20年後再び同じ地を訪れ、オーナーは変われど、実にいい自転車”輪生”を生きている一台だ。
木曽越峠への道は、宿からいきなり登りだ。勾配もきつく、路面も完全にダートなので乗ることができず押しとなる。
まあ、 スタート直後の重い体には、こうしてのんびりと押して歩く程度がちょうどいい。
久しぶりだ、こうした峠路は。最近は細いタイヤで舗装路ばかり走っていたから、この荒れた路面がなぜか心地いい。
木々の間から漏れる日差しがダートの路面にきれいな影を描く。
逆光に光る水たまり、キラキラと輝くガード。
ここぞとばかりにいい一枚と思うが、なかなか「サイクリング写真集団」のようにうまく撮れませんね。
乗車率は低い。ほとんど歩きの状態が続く。
すぐにゲートが現れる。一人だと少々苦労するかもしれないが、メンバーがいれば自転車の手渡しで簡単に突破できる。
基本はゲートの横を抱えて突破だが、危険な場合には、ハンドルさえ通ればゲートの下を通過するという手もある。
二日目がこんなダートになるとは全く予想していなかった。(聞いてないよ〜 )
登りがこの荒れ方であれば、下りはかなり大変そうだ。
果たして無事に乗っていけるのであろうか? 何たってタイヤ細いんですから・・
落ち葉が降り積もる中、サクサクと踏みつける乾いた音が、最高のBGMに聴こえてくる。
前を見ても、後ろを振り返っても、空を見上げても、足元を見ても、何もかも最高のツーリングの世界。
見事な色彩と、目の前に続く峠への明るい道筋が徐々に峠への期待を膨らませる。
どんな峠だろうか? そして、どのあたりが峠であろうか?
5万図には旧道しか載っておらず、林道の詳細は不明だ。ポタナビも通信できず、峠の位置を検索できない。
峠周辺には細かな林道がいくつも派生しているらしく、注意しないと分岐を間違える可能性がある。
まあ、峠からは南方面へ下れば問題なく下界へ降りれるから、地図が不明でもそれほど心配はいらないだろう。
携帯がまだ通じない。昨日から、これだけ長い時間携帯が通じないという経験も珍しい。
相変わらず人間界との連絡は途絶えたままだ。連絡がつかなくて、ひょっとしたら家族が心配しているかもしれない。
さすがに峠へ出れば視界も開けるだろうし、携帯も通じるだろうと予想していた。
★★ 突然ですが スペシャル企画 今日は元気だぞ〜 ★★
”42Bだとこんなに速いんだぞ!” ”見事なダートのテクニック!” ”おりゃぁ〜〜” ”どけどけぇ〜”
電子機器が使えない、地図にも載っていないとなれば、いよいよアナログ知識、経験の出番となる。
地形、方位、などから現在地、進行方向の確認をする。まあ、こんな簡単な峠越えは間違えようがないから安心だ。
ポタナビの標高データから、峠が近いことがわかる。
相変わらず、乗車できない峠路が続く。 時々勾配が楽になれば乗車できるが、それでもすぐに降りて押すことになる。
十分なアプローチ。適度な勾配。適度な標高差。そして見事な紅葉。楽しい仲間。
峠越えに必要なすべての要素が見事に揃った上質の峠、木曽越峠がようやく見えてきた。
峠らしい。
明るい空が見える。達成感、充実感を感じられる峠だ。
最後は またしてもゲートだ。もう慣れたもので簡単にクリア。
これほど、入口も出口も完全に封鎖されている林道も珍しいのではないか?
まあ、そのおかげで完全に貸し切り状態の林道を楽しめていいのだが・・・
しかし、万が一のトラブルの際には車が入ってこれないことがデメリットにもなりかねない・・・
ゲートを越えた先には、なんとも素晴らしい、これぞ木曽の峠と言わんばかりの風景が待っていてくれた。
旧道と林道が交差するこの場所には、お地蔵様が祀られている。
「木曽越峠」の標の先に御岳山の姿が見える。
「信州百峠」の本にでも出てきそうな、見事な構図、見事なロケーションである。
いい峠ですね。一発で好きになりました。
こういう基本通りの峠がなかなかないんですよ、最近。 期待外れだったり、雰囲気が悪かったり、展望がなかったり・・・
その点、もうお見事ですね、「木曽越峠」! 文句なしです!
いろいろ構図を変えて撮影会。うーん、あの御岳山にかかる木が邪魔だなぁ・・・ちょっと残念。
最高の雰囲気の中でランチタイムです。御岳山を遠くに眺めながら、暖かい日差しの中、林道に座って開始、開始〜!
宿で作ってもらったお弁当が、これまた素晴らしく、その他ラーメンやらハンバーグでいつものように盛り上がる。
楽しくくつろいでいると、前方から2台のオフロードバイクがやってきて、峠のゲート横の分岐を登って行った。(赤矢印方向)
この道は高時山へ行く道と考えられ、我々の目指す方向ではない。
どうせ、すぐに戻って来るよ、と噂していたら案の定、バイクは戻ってきて来た道を引き返していった。たぶんそっちの道もゲート封鎖されているのではないだろうか。
我々の目指す方向は、峠から南へ下って一般道へ抜ける予定なので、高時山方面へ行ってもしかたない。
なんたって、登ってますから、まさかこの道を行こうなんて誰も思いませんね。
峠からは下るもんだ、と思ってましたから・・・
実際の5万図です。旧道は峠から南へ一気に下り、下界の街へとつながっている。
どこかに新しい林道ができて、てっきり南へダウンヒルできるだろうと思っていたのだが・・・
右側の地図は、実際に走ったポタナビのログをルートラボに転送したもの。
さて出発。
木曽越峠からは、バイクがやってきた道を行くと、なんとなんと、下るどころかますます登り返し、とんでもない方向へ・・・
まさか、あの高時山へ行く登りの道が正解だったとは・・・
気が付くころには、かなり先まで進んでしまい、いつか南へ降りれるだろうという期待を抱きながら、ますます深みにはまって行った。
この先、林道がどう分岐しているのかも不明だが、南側には下界の街がよく見えるので、まあそのうち下りになるはず・・・
が、なかなか下りにならず、ますます登り返すはめに・・・
おかしい・・・なんだこの道は・・・どこに向かっているのだろう・・・
ランチタイムの陽気さはすでに消えかかり、止まっては地図を眺めて作戦会議。なんでこの道下らないの?
ここまで走ってきて、さすがにあの高時山への道が正解だったと気づく。
たぶん、バイクは戻ってきたが、あの先で南側へ下る林道があるのだろう。
上り坂、下り坂、そして「まさか」である。
もう戻れない。行くしかない。どこかに出れる。そんな時、軽トラックが1台前方から走ってきた。
こりゃチャンスとばかりに、車を止めて、5万図を見せながら、
「この道を行くと、どこに出るんでしょうか?」
「そうね、我々はこの小和知という所から入ってきたよ」
「えぇ! こんな先ですか・・・」とまったく予想外の場所を示してくれた。
我々は、峠から北西方向に山を巻いて進み、そのまま西へ進んでいる。どうりでいつまでたっても下らないはずだ。
南側への分岐が全くないので、もうその小和知という所まで行くしかない。
中津川へ行くつもりが、まったく反対方向へ向かって進んでいる。ありゃりゃ、無事に帰れるでしょうか・・・
とりあえず出口がわかったので、もう迷うことはない。あとは、下界に降りてから考えよう。
道はいつまでたっても下ることなく、登り返したり、平坦になったり・・・結局、峠から100mも登り返した1360m付近がピークだった。
やっと分岐が現れ、一気に下り始める。
しかし、予想通りの荒れたダートだ。大きな石がゴロゴロ転がっている。砂利も深い。
まともに乗車していられない。スピードも出せず、常にブレーキングしながらの低速、中腰での下りはかなり辛い。
肘、手首、指先、膝、腰、首・・・至る所に負荷がかかり、止まってしまいたいほどだ。
太いタイヤならまだしも、28Cではより慎重にならざるをえず、サイドカットの恐怖もあり、まったくスピードが出ない。
ああ、MTBのタイヤだったら・・・カッ飛んで、ジャンプして、コーナリング楽しんで・・・できるのに。
緊張感の持続もそうは長く続かない。疲れてくると、注意力も散漫になり、大きな石に乗り上げたり、ガツンとリム打ちしたりと大変。
そんな時、やってしまいました。またサイドカットです。
「シュー・・・」という音とともに、フロントのエアーが抜け、すぐに気が付いた。
最後尾を走っていたが、幸いすぐ目の前にメンバーがいたので、「パンク〜!」と大きな声をかけ止まってもらう。
すぐに修理開始。チューブを見ると、きれいな切り口だ。場所はどこだろうと、タイヤを見ても何も異常はない。なんで切れた?
納得いかなかったが、予備チューブに交換して素早い修理で走り出す。
ああ、またやっちまったか・・・しかし、注意していても無理だよな、これ。運だよね。
再び下り始める。先頭のメンバーが待っていてくれた。
「やっちゃったよ」「パンクにしちゃ早いですね〜」なんて一息ついて休憩。
そこで、フロントタイヤを見た瞬間ビックリした! ちょうど視界に入ってきたものは・・・
タイヤサイドから、パックリ口を開けてチューブが飛び出そうとしているじゃありませんか! ゲゲッ!
やっぱりサイドカットだったんだ。エアーを入れたから、高圧で傷口が開いてチューブが顔を出し始めていた・・・
あまりにスパっと切れていたので、タイヤを調べたときにはまったく気が付かなかった。
よかった、なんて運がいいのだろう。気が付かなかったら、この先大変なことになっていた。
やっぱり「運だ」そう思った。
この手の修理はお手の物。タイヤブートで簡単修理。
エアーを入れても、よく見ないと傷口がわからないほどだ。ガムテープとタイヤブートはダート走行には必需品だ。
下っても、下っても終わらない、それはそれは長いダートの連続だった。
これほど、疲れるダートも久しぶり。
もう、いいです、と言いたくなるほどのダートも久しぶり。舗装路が恋しくて恋しくてたまらなかったダートも久しぶりだった。
ついに見えた舗装路。ホッとした。「もうしばらくは、ダートはいいや・・・」ほんと、もうこりごりでした。
さて、どうしよう? 時間と、距離と、勾配と、時刻表を検討して、中津川ではなく下呂へ行くことに決定。これは全くの予定外。
くしくも、20年前も同じように下呂から輪行していたことを思い出す。
舞台峠まで登り返し、一気に下呂温泉まで豪快なダウンヒルだ。
この高速ダウンヒルのおかげで、早めの特急に乗れることに。いい判断、いい行動、いいフィナーレであった。
さっそく分解する。
すると、我々の自転車をジロジロと眺める若者二人。なんだこいつら怪しいな、大丈夫か?
と警戒していたら、どうやらランドナー愛好家のようで、我々のランドナー勢ぞろいに驚愕している様子。
自転車の仕様、我々の姿恰好、そして輪行の仕方まで、
何もかもが驚きの連続だったようだ。
フォーク抜き輪行など初めて見るらしく、
「あっ、抜けた! すごい!」と歓声が。
さらにデモンタが分割されると 「うわっ!」「すげ〜!」
「初めて見た〜!」と感激の嵐。
「え? なにこれ? 見たこともない部品ばっかり!」
「友達に教えようぜ、生中継しろよ!」とか、なんだか凄く感激している。
「これだけ、ランドナーが揃っているのを見たことないんです」
「我々もランドナー好きですが、恥ずかしいような自転車で・・・」
「恰好がいいですよね。この昔風の恰好が・・・」
名古屋から来たそうで、話はカトーサイクルの話になったが、彼らより我々のほうが内情に詳しく、さらに驚きの連続だったようだ。
ロード全盛時代に、こうした若者の存在はうれしい限りだ。
おじさんたち、ここぞとばかりに部下を教育するように、
「いいか、君たち、ランドナーの将来は君たちにかかっているんだぞ!」
「しっかりと伝統を守るように頼むよ!」 なんて嬉しそうに語っていました。
いやあ、ここまで褒めちぎられるといい気分ですよね。
久しぶりでしたよ、こんなにランドナーを喜んでもらえるなんて。
「お名前教えていただけませんか?」なんて隊長に聞いてましたが、さすが大物は名を明かしませんでしたね。さすがです。
下呂から名古屋までの1次会。名古屋でK氏とお別れして、東京までの2次会。
延々飲んで語って、ぐったり疲れ切って帰ってきました。
今回のツーリングも、いろんなことがあって、また思い出に深く刻まれることでしょう。
いい峠でした。そしていい宿でした。
楽しい二日間を、皆さん本当にありがとうございました。
(翌日は、全身筋肉痛で動けないほど疲れていました。)
(2016/11/13 走行)
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