峠への招待 > ツーリングフォトガイド > ’2016 > 白巣峠・渡合温泉
標高1400m。長野県木曾郡王滝村と岐阜県恵那郡加子母村の境。高山本線下呂駅の東南東16km。
美濃側からの御嶽山登拝のための道が通り、古くから修験者の往来があった。山麓に渡合温泉がある。
今年の紅葉ランは、最高の天候になった。暖かく、雲一つない快晴だ。
事前のプランニング段階で、例年のナイトランの反省からか、出発前のコンビニ立ち寄りは禁止、休憩・昼食は短めに、ランチの鍋は禁止、峠着15:00目標、熊鈴必携・・・
と、何かと厳しいお言葉を埼玉方面の「キングオブ王滝様」からいただく。
確かに、最近熊による被害も多いので、急きょヨドバシ特急便で熊鈴を購入。
自分は、前泊だったので、朝はゆっくり木曽福島の街をお散歩してから、駅で皆さんの到着を待った。
まもなく千葉・埼玉組が到着。皆さん、最高の天気に上機嫌。さっそく組み立てる。
そして京都から1名到着し、合計7名が木曽福島駅に勢揃いした。
いつもなら、ここでダラダラ、あれこれと自転車談議で時間をロスするが、今回、しっかりとした目標時間が設定されているので、おしゃべりしている暇はない。
昼食は、地元で買って持ってこい、という指令を真面目に守った人もいて、この旅立ちはいつもにない「緊張感」に包まれていた。
本日のコースは、木曽福島から白巣峠を越えて、ランプの宿、渡合温泉へと辿る。
この渡合温泉、実は20年前の1996年、真弓峠越えの際、日没で到着が夜10時になってしまったという、大変迷惑をかけてしまった宿だ。
今回はその時のお詫びと、思い出を再び、そしてこの白巣峠で王滝三峠制覇という目的が込められている。
距離、標高差ともそれほどハードな内容ではないが、出発時間が10時と遅く、日没時間、トラブルを考えると余裕はあまりない。
いつものペースで走っていると、例年通りのナイトランとなる危険性は十分に考えられた。
結局、駅そばのコンビニで食料を調達したが、いつもよりスタートも早く、メンバーには緊張感がしっかりと埋め込まれていた。
前半は緩やかな勾配の中、快適な舗装路を順調に飛ばす。昼食までに、どこまで距離を稼ぐことができるかがポイントだ。
抜けるような青空、見事な紅葉に撮影ポイントは多い。ランドナーと紅葉の組み合わせは、サイクリスト憧れのシーンだ。
これだけ天気がいいと、もう気分は最高潮だ。
ランデブー走行で、楽しく愉快に会話しながらの走りは、やはりクラブランならでは。
風もなく、交通量も少なく、なんて走りやすい道なのであろう。
気温も上がり、額にはうっすら汗がにじんでくる。 休憩も少なめに、快調なペースで進む。
何度か走っている道のりだが、季節が違うためか、あるいは年月が経って景観が変わったのか、同じ道だが記憶が蘇ってこない。
滝越まで予定通りに走ってきた。今までにない、順調な、予定通りの行程に全員笑顔がこぼれる。
「やればできるじゃん!」 と キングオブ王滝様。
ちょうどいい具合にキャンプ場があり、そこをお借りしてランチタイムの始まり始まり〜♫♫
例によって例のごとく、各自趣向を凝らしたメニューを披露してくれる。
本当は、もつ鍋でもやりたいところだが、禁止令がでているので、自分はおでんでおとなしく・・・
カップラーメン、棒ラーメン、レトルトハンバーグなど、いろいろ見ていて楽しい限り。
しっかりラーメンの具まで切って持ってくる強者もいて、準備の良さに恐れ入りました。
昼飯は30分と宣告されていたが、いい走りのおかげで少々時間延長のご褒美。
絶好のロケーションの中、いつもよりちょっと短かかったが、ワイワイ賑やかな、最高のランチタイムであった。
(これがあるからツーリングはやめられない・・・ホントです・・・これが楽しみなんです)
さて、白巣峠への本格的な登りが始まる。
6.6kmで330mの登りだから、平均勾配は、ちょうど5%だ。
峠までは完全舗装であることは、Google ストリートビューで調査済なので、まあ、予定通り3時までには到着できそうだ。
いよいよ、秋の紅葉ラン初の、ナイトランなしとなるか?
これは凄いことだぞ! やればできる! と盛り上がる。
それほど、ここ毎年パンク、トラブル、雨、疲労困憊に見舞われ、到着はいつも日没というツーリングばかりだった。
これほど、順調に予定通り来れたのは、やはり事前の気合入れ、脅しが有効だったということみたいだ。
さて、そろそろ熊鈴をぶら下げる。
中には猫鈴でごまかしている者もいて、静かな林間に様々な音色が響き渡る。
やはり、高級な熊鈴は素晴らしい音を奏で、遠くまで澄み渡るような音が響く。
適度な勾配と、きれいで走りやすい路面が峠まで続く。
時間に余裕があると、苦しい登りも、何もかもが楽しくなってくる。
時間に追われ、日没に追われながらの峠越えでは、こんなに楽しく走ることはまずできない。
やはり、時間の余裕、心の余裕は大切だ。
今回、順調に飛ばすOさん。先頭ばかり走っているから、あまり映像に登場してこない。
どうしているかと思っていたら、なんと走行中、目の前に野生の猿が現れたらしい。
野生の猿は危険なのだが、Oさん威嚇したところ、猿のほうが驚いて木の上に一目散に逃げ出した。
自分が後から行った時には、3、4匹の猿が怯えて木の枝から、次々に飛び移って逃げて行った。
まあ、これだけの変な軍団が現れ、熊鈴鳴らされ、そして威嚇されてはさすがの猿たちも驚いたのだろう。
道は、蛇行しなければならないようなきつい登りもあるが、押すこともなく、乗車率100%で峠まで行くことができる。
ここまでの道のりであれば、太いタイヤは全く必要ない。
新品の42Bを履いてきた人には、かなり重労働であっただろうが、本人はいたって普通の顔をしてグイグイ登っている。
そして、前方にようやく峠の標が見えてきた。先行のメンバーがすでにポーズを決めて記念写真を撮っている。
人が頑張って登っているのに、記念写真撮ってる姿を見るとムカつきますねぇ〜
「がんばれ〜、あと少し〜、やりました〜」なんて言って欲しいんですけど・・・
まあ、そんなこんなで、予定よりも早く峠に全員到着。すごいことです。ギネスものです。明るすぎます!
再び「やればできるじゃん!!」
こんなに明るい峠は久しぶりだ。太陽が眩しすぎる。
御岳山が遠くに見える。かすかに噴煙が上がっている。白く見えるのは雪ではない、火山灰だろう。
穏やかに見える御岳山だが、あの大噴火の衝撃、映像はいまだにショックを隠せない。
大自然を前に、ほんとに小さな人間が自然のフィールドをお借りして遊ばせてもらっている。
自然は偉大で、時には脅威だ。そのことを忘れてはいけない。そう思った。
本日の行程、残すは宿までのダウンヒルのみ。
いつもなら、ここから何かアクシデントが起きて、やっぱりナイトランになったかぁ・・・となるのだが・・・
今回は、何もかも順調でしたね。そう毎回毎回、遅くまで走ってられませんって。
白巣峠からの下りはダートだとわかっていたので、下りを重視した人はそれなりに太いタイヤを履いてきている。
しかし、ダートの下りも距離は短く、そのためにわざわざ太いタイヤというのも嫌なので、自分は700*28Cでやってきた。
メンバー7人のタイヤは、42B*1人 38B*1人 35C*2人 28C*3人
昨年、寸又峡へ行った時に、軽量タイヤのサイドカットを初めて経験して、軽すぎるタイヤは危険と心に刻み込まれた。
一人のトラブルが全体の行程に影響し遅れにつながる。致命的なトラブルは極力避けなければならない。
28Cとはいえ、サイドの強さには定評のあるタイヤなので、慎重にダートをクリアしていけば問題ないはず。
42Bは、ここぞとばかりに元気になり、倍のスピードで下っていく。
簡単そうなダートなのだが、見た目以上に走りにくく、間違えたラインに入り込むと抜け出せなくなったり、大きな石に乗り上げたり・・・
こうしたダート走行が久しぶりだったので、楽しくもあり、苦痛でもあり、ホイールが心配でもあり・・・やっぱりつらかった。
すると、先行していたT氏がパンクだ。チューブを見るとハの字(スネークバイト)だ。
自分と同じタイヤの28Cなので、やはりこうした路面では不利だ。10分で修理完了。自分も慎重なハンドリングになってしまう。
まだまだ時間は十分だが、こうしたトラブルの積み重ねがナイトランへとつながる。
その後、大きなトラブルもなくダートを下りきる。
まだまだ日没までは十分な時間を残しての到着だ。 30分ぐらいコーヒー休憩でもできそうな余裕だった。
いやぁ、この時期のツーリング、これでいいと思いますね。
日没ぎりぎりまで走っているより、余裕で宿にゴールインのほうがよっぽどいいですね。
たっぷりダートのダウンヒルを楽しみ、落ち葉と戯れ、本日の宿、渡合温泉に降りてきた。
20年ぶりの渡合温泉。いろいろな思いが蘇る。
とにかく、辛く、苦しく、終わりのない試練の数々が脳裏に浮かんできた。
ああ、なつかしい。何もかも、ほとんど変わってない。昔のままだ。
時間が戻ったような錯覚を覚える。
宿の玄関まで自転車を担ぐ。
すでに別部隊2名が到着していて、くつろいで一杯飲んでいる。
「20年前は、大変ご迷惑をおかけしました」とお詫びを言って玄関の中へ入る。
世代交代だろうか、宿の主人も女将も若返り、当時の我々の事はいろいろと話を聞いている、と言っていた。
今でもサイクリストのトラブルは数多く、ほとんどがタイヤのトラブルだそうだ。真弓峠を甘く見ると、我々と同じ運命になるらしい。
本日の宿泊客、我々9名を含めて19名。すでに皆さん風呂も済ませ、夕食を待つばかり。
賑やかな7名が到着して、一気に宿はは忙しくなる。
とりあえずの一杯だ、風呂は交代じゃないと入れないとか、うるさいおじさん連中がご主人を困らす。
先発風呂組をほっといて、残りのメンバーでまずはさっそく祝杯だ。
多くのランプと、レトロなアイテムに囲まれた玄関ロビーでくつろぐ。
20年前の記憶がほとんどない。
あの時は、 到着と同時に風呂、食事、バタンキューだった。宿の造りも、雰囲気も味わうことなく倒れこむように夜が過ぎた。
今日初めて、ゆっくりと宿を隅々まで見ることができ、ようやくこの宿の雰囲気を味わうことができた。
ランプの宿。 電気もない。 携帯もつながらない。 現代の秘境。
あえて、それを求めて泊まりに来る。 ランプの宿とはいったいどんな雰囲気なのか。 人はそれを求めてやってくる。
しかし、そんなロマンチックなものを求めてやってくると、ほとんどの人が驚き、騒ぎ、そして場合によっては後悔する。
電気がない。テレビがない。10時消灯。暗い。携帯がつながらない。充電ができない。シャワーが出ない。そして、やることがない。
本当に不便だ。日常の生活からは想像できないほど、不便だ。それだけ、我々の日常は便利になり過ぎている。
さすがに、充電できないことには困った。
夜10時までは自家発電の電気があるので、充電できるだろうと思っていたが、コンセントなどどこにもない。当然だ。
部屋で電気機器を使うことがないのだから、コンセントなどない。天井からはLED電球がぶら下がっているだけだ。
モバイルバッテリーがあるので、携帯、ポタナビの充電は大丈夫なのであるが、問題は動画撮影ザクティの電池だ。
予備電池も使い果たし、明日の撮影用電池がない。これだけはなんとしても確保しなければツーリングの記録が台無しだ。
なんとか必死で探すと、玄関脇に業務用で使用中の電源を発見! これをちょっとお借りしましょうということで充電開始。
ここは携帯通じないんだよ・・・という話になったときに、
「え、うそ? 今日7時に会社に電話しないといけないんだけど・・・」
「あ、それなら宿にお願いして衛星携帯電話借りれば?」
「いや、自分の携帯からじゃないとまずいんだ・・・」
「なにそれ?」「なんで?」「どーして?」
「いや、実は・・・という新しいシステムのテストが7時から・・・」
どうやら社員の安否確認を行うためのシステムテストのようだ。最近、各企業が導入していて、自分の会社も同じことをやっていた。
「そんなの無視したって、大したことないよ。第一つながらないんだから」
「でも、やらないと、始末書と本社へ呼び出しが・・・」
さあ、夜の大宴会開始というときになって、一人沈み込む。いつもの表情ではない。
これじゃ、楽しくお酒飲めないということで、思案の結果、宿の車を借りて、携帯が通じるところまで夜のドライブして、片づけてくるということに。
車を借りる算段をし、とりあえずノンアルコールビールで乾杯し、時間を見計らって、一人寂しく夜のドライブに出発していきました。なんてこった、ご苦労様です。
元気いっぱいの”キング”様も、この一件ですっかり小さく、おとなしくなっていました。
料理は豪華絢爛、食べきれないほどのご馳走だ。
特に、一人1本のわらじ五平餅は強烈! 見た目のインパクトも凄いが、味、量とも超絶!
一口食べて、皆一様に 「うまぃ!」「でもこれだけでお腹いっぱいになっちゃう・・・」「でも、やめられない・・・」
これだけで、茶碗2杯分はあろうかというボリューム。暖かいうちに食べてくださいということで、先に食べないことには・・・
食べても食べてもなかなか減らず、そして後半になって今度は山盛りの天ぷらが登場してきたぁ〜、もうお腹爆発寸前。
さらに、さらに、白飯もど〜ぞ〜 とお櫃を持ってきた。すごい料理にただただ驚くばかり。満腹でーす。
そんなところへ、夜のドライブから無事に戻ってきた。8km走って携帯が通じ、無事に業務遂行だそうです。笑顔になってました。
食事が終わったら、全員集まってくださいとのこと。ランプの講習会を行うとのこと。
10時になると消灯し、後はランプの灯りが頼りだから、つけ方、消し方の説明だそうだ。
全員輪になって玄関に集まり、ランプの構造から始まり、つけ方、消し方、トラブルの事例などを丁寧に説明してくれた。
初めての体験に、皆さん興味津々。うまく灯りがつくとやはりうれしいし、一発で火が消えると、やった、という感じになる。
さて、ランプの講義が終わって終了かと思ったら、続いて火打石で火を起こし、それでランプを灯しましょう、ということに。
今度は、皆でカチ、カチやりながら一生懸命に火花を飛ばす。誰も文句も言わず、頑張って石をたたく。
うん? なんだこの時間は? と次第に疑問がわいてくる。
食事も済んだし、部屋に戻ってゆっくりしたいんです・・・が、部屋に戻ってもやることがない・・・だからこれなんだ、きっと。
火打石が終わると、さらに知恵の輪や、ゲームボードなど次々と遊び道具が登場してきた。まるで、ユースのミーティングだぞ〜。
それでも、泊り客が一同に集まって、いい大人が頭使って遊ぶ様子は、何か新鮮で、アットホームな感じで満ちていた。
ようやくミーティングから解放されて、お待ちかねの二次会となった。
気温もどんどん下がってきて、廊下も部屋も冷えてきた。
部屋には、豆炭入りの炬燵があるだけだ。さすがに寒く、石油ストーブに点火する。
炬燵を囲んで、またまたビールとなるが、さすがにあれだけ食い尽くしたので、今一つノリが悪い。もう、飲めない、食えないよ〜
朝が早かった人は、すぐに寝息をたててバタンキュー。
狭い部屋に全員集まって、豆炭炬燵、石油ストーブ、灯油ランプでは酸欠の危険が・・・
時々換気のために障子を開けると、冷気が一気に部屋の中に流れ込んでくる。
豆炭炬燵は暖かい。寝るときは、脚を炬燵の中に突っ込んで寝るように、布団も炬燵に向かって敷かれている。
携帯が通じないから、家に連絡することができない。SNSに投稿することもできない。
メールもこないし、ニュースもわからない。昔はこうだった。何もなくたって、問題なく生活できた。
不便こそ、あらためて自分の生活を見直すいい機会なのかもしれない。不便こそ、現代人にとって贅沢なのではないか、と思う。
10時を少し過ぎた頃、LED電球が消えた。
枕元の灯油ランプがいよいよ、ゆらゆらとその輝きを見せ始めた。
もう、やることがない。寝るしかない。おやすみなさい。
楽しく、長い一日が終わった。
(2016/11/12 走行)
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