峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’2018 > 旧出羽街道(蒲萄峠・雨坂峠・カリヤス峠・小俣峠・堀切峠)



出羽街道は村上城下を起点にして北上し、庄内領鶴岡へ通じる街道です。
途中、猿沢・塩野町を通り、蒲萄峠を越え、北中・小俣を経て庄内領へと続きます。
村上の本庄氏の戦の記録にも度々登場したりと、古くから軍用道として使われ、村上と以北を結ぶ重要な道でした。
しかし、物品の往来はそれほど多いものではなく、奥の細道で松尾芭蕉が庄内から村上に向かった際に通ったことが知られていますが、越後からは出羽三山詣での旅人が中心でした。
現在では街道の大部分が舗装路に姿を変えていますが、蒲萄から大沢の間は途中幅の狭い道や石畳の道など、当時の道のまま、道路改良もされずに残っています。
また、北中や小俣などの集落は宿場の雰囲気を色濃く残しています。(村上市HPより)


今年の東京の桜は、例年より9日も早く、3月17日に開花、24日には満開という異常な状況だった。

あちこちのイベントは、日程を変更することもできず、イベント当日にはすでに桜も散っている、というありさまだった。

急遽予定を早めて花見に出かけたけれど、なんともまあこれでは消化不良気味。

あらためて、たっぷり、じっくり、ゆっくり花見をしようと桜前線を調べて東北の旅を計画してみた。


20万図「村上」を広げてみると、村上から鶴岡にかけて小さな峠がいくつも集中している。

1999年に一度この辺りを巡ったことがある。

瀬波温泉から日本海を北上し、府屋から雷峠(いかづちとうげ)を経て温海温泉へ抜けた。

この時の旅も、東北日本海の静かな雰囲気を満喫する素晴らしいコースであった。


今回は桜の開花に合わせて、村上から旧出羽街道を北上し、峠の縦走というコースを考えてみた。

コースを考え始めると、どんどん欲がでてしまい、コースの北上に合わせて日程も4泊5日という豪華な旅が出来上がってしまった。

いきなり東京駅で、眠気を覚ましてくれた光景がこれだ。一瞬我が目を疑うほどの衝撃だった。

解説不要、写真を見ての通り。

これまで、数々の違反輪行を目にしましたが、この人が断トツ優勝、金メダルですね!


どこから乗車してきたのか? 改札はどうやって通り抜けたのか? 駅員に何も言われなかったのか?

この箱はどこで手に入れ、どう処分するのか? そして、どこへ行くのか? 

これは「輪行」なのか、それとも「納品?」 もう、疑問だらけ。

外国人には「輪行」という考えはないのかもしれないが、それにしても、いくら何でも、これでは・・・

 

新潟で乗り換えて、10:02 村上駅に到着。

今日はあまり余裕がないので、さっそく組み立てて走り出す。

距離的には何とかなるが、合計標高差は1000mを越えるため、初日としてはきついコースだ。


冬装備? 春装備? 一番難しい季節なので、荷物もそれなりに重くなる。

さらに常備の薬が5日分もあって、フロントバッグは、はちきれそう。(この薬がシロップなので重いんです)

 

三面川沿いに出ると、期待通り、満開を迎えた桜が出迎えてくれた。まだまだ十分にお花見が楽しめる。

今日から数日は天気も良く、東北地方はいよいよ春を迎えた。


風もなくさわやかな気候の中、裏道をたどりながら、最初の峠「蒲萄峠(ぶどうとうげ)」を目指す。

国道を避けて走ると、まったく誰にも会わない。

正面に、これから越える峠路が近づいてくる。どこかで食料を手に入れたいが、まったくお店もない。


標高 200〜300mほどの山頂付近には、白く残雪が見え隠れする。

走り始めて1時間、最初の峠に近づいてきた。


蒲萄トンネル手前から旧道が分岐しているが、除雪していないためか通行止めになっている。

しかたなく、トンネルを抜けた先から峠道に入る。

 

登り始めるとすぐに道路脇に雪が現れた。そして、通行止めのバリケードも登場。

さらに登っていくと、除雪された雪が道路わきに壁のように立ちはだかる。

こんな低い所でも、まだまだたっぷり雪が残っていることに驚いた。

しかし、路面は完全に雪はなく、自転車での走行はまったく問題ない。


結構気温も高くなっているが、この雪の壁を通過するときは、冷気に包まれてとても快適だ。

すぐに蒲萄峠に到着。明るく開けた直線が峠のピークだ。

雪解け直後で、周囲も路面も倒木などでかなり散らかっている。

残念ながら峠を示すものは何もない。視界もまったくない。写真を撮って雪の壁の中を下る。

 

下りは道幅もあり、路面もきれいなので快適だ。

と思ったら、その先からダートの登りに変わり、雪解けでぬかるんだ道に四苦八苦する。


昼飯の時間だが、休む余裕も食料も少なく、朝の残ったおにぎりを10分で食べて走り出す。

ダートを抜けて下り、村へ出て、2つ目の峠「雨坂峠(あまさかとうげ)」を目指す。

一つ一つの峠は低く、標高差もたいしたことはないのだが、登り下りの連続がボディーブローのように効いてくる。


雨坂峠は路面もきれいな完全な車道だ。峠直前は勾配もきつく、直線的な登りがやる気を損なう。

この峠も何もなく、ただ勾配を示す標識だけが唯一ポツンと建っていた。

 

しばし川沿いの道で呼吸を整え、小俣地区へ向かう。

途中、地図には載っていない「カリヤス峠」があるが、この峠がなかなか辛い。

乗車できず、押しでの峠越えだ。とにかく、荷物が重い。もう少し軽量ならなんとか乗車できるだろう。


ここの峠も峠名を示すものはない。

3つ目のカリヤス峠に着いた時には、かなりの体力を消耗していた。

何か記念になるものがあればまだ救われるのだが、何もないと疲れも倍増だ。

 

時刻は14:00を過ぎた。

今日はこれからまだ、小俣峠→堀切峠→角間台峠→越路峠 と4つの峠を越えようと計画している。

体力も消耗し食料も全くないので、この先の予定が不安になってくる。

時間に余裕があれば、実にのんびりとした峠越えが楽しめるところだが、時間に追われ始めると様子も一変してくる。


しかし、まったく誰にも会わない。

「ほたるの里 中継 村上市」の案内に導かれて4つ目の峠「小俣峠(おまたとうげ)」を目指す。

道は広く、路面もきれいだ。

しかし、どの峠もみな手ごたえがある。そう簡単に越えさせてはくれない。


この登りでは、さすがに脚に疲労の色が濃くなってきた。

この先、予定を変更せざるをえないと考え始める。

それでもなんとか頑張ってノンストップで小俣峠に到着。

「 小俣2km」の案内が朽ちて落ちていたが、今日越えた中では一番峠らしい雰囲気だ。

 

小俣峠からの下りは、勾配がきつく短いが、雰囲気のある楽しい下りだ。

小俣へ下りてくると日本海側の府屋からの道に合流する。

以前、雷峠へ行くときに通った道だ。なんとなく記憶が蘇ってくる。


今回は、ここからさらに北上して5つ目の峠「堀切峠(ほりきりとうげ)」へ向かう。

何か食料は手に入らないかと探していたら、ようやく小さなお店を見つけた。

やれやれ、なにか軽食と飲み物を・・・とドアを開けようとしたら閉まっている。

中は見えるのだが、カギがかかっていてだれもいない・・・がっくり。


こうなると、もう無理はできない。水も食料も乏しいとなると安全策を考えないと。

今日は、あと一つ堀切峠を越えて、海へ出よう。そして海岸線沿いを走って、本日の宿温海温泉へ、と決定。

予定変更で時間に余裕ができた。そうなると、気分もまた変わってくる。


堀切峠へ向かう途中に、こんな素晴らしい案内図があった。

今日走ってきたルートが写真入りの案内で描かれている。

自転車で越えるのさえ難儀なこのルート、昔の人はいったいどれほどの苦労があったのだろう。

堀切峠への登りは雰囲気がいい。今日のコースの中では一番峠越えにふさわしい感じの道だ。

しかし、やはり勾配はきつい。峠直前まで、また押しが続く。


見えてきたピークには、やはり峠を示すものは何もない。

どこで写真を撮ろうかと思っていたら、ピークを過ぎたカーブの先に、立派な峠の案内が現れた。

新潟と山形の県境だからなのか、他の峠とは気合の入れ方が違う豪華な案内だ。

ようやく記念になる一枚を写真に収めることができて満足だ。

 

時刻は15:00。峠を下って日本海へ向かう。残りの峠を越える時間も体力も残っていない。

海までは快適な舗装路だ。

交通量もまったくなく、前も後ろも貸し切りの道を下っていく。


海へ出てくると景色が一変する。

明るく開放的な海岸線の道は、誰もいない峠路とはまさに正反対だ。

久しぶりにコンビニに出会い、軽食で大海原を眺めながらおやつタイムだ。

ようやくエネルギー補給ができて、宿までの道のりもこれで安心。


予定変更のおかげで、こうして一服する時間が取れた。やっぱり慌ただしい旅は好きではない。

今日の日本海は穏やかだ。ほとんど波もなく、傾きかけた太陽が、日本海にきれいに光っている。

きっと素晴らしい夕日なのだろうな、と想像できる。

 

のんびり、ボケーと海を眺めながら温海温泉へ向かう。

一日のフィナーレにふさわしい景色と、いい疲労感だ。


初日にしては良く走った。

結構きつい登りだったし、ダウンヒルもなかなか楽しめた。

今日一日を振り返りながら、さて温海温泉街へやってきた。


すると、最後に出迎えてくれたのが、温海温泉の桜並木だ。

温海川河畔の見事なまでの満開の桜。思わず驚きの声が出てしまうほどだ。

夕日に輝く温海川。そして温泉街を彩る満開の桜。

うーん、お見事な眺めだ。そして、ほとんど誰もいないという、この贅沢さ。なんて贅沢なんでしょう。


宿に直行ではもったいないので、しばらく温泉街を何周も巡ってしまいました。

いやぁ、いい時に来たもんだ、とつくづく思った。

今日の宿は、創業380年を誇る、大正・昭和の風情を今に伝える 、かしわや旅館。

外観だけでこの風情と迫力だ。


古さを感じさせない部屋の造り、きれいに磨き上げられた廊下の美しさは見事だ。

料理も、もてなしも素晴らしい。納得の宿であった。


さらに、宿のご主人と話をしていたら、お父様(他界)が自分と同じ高校、大学出身とわかってビックリ。

お父様は好きな野球のために東京に出て、高校・大学と野球人生だったらしい。

そんな昔話に花が咲いて、とても心に残る宿となった。

 

距離: 70.2 km
所要時間: 6 時間 43 分 43 秒
平均速度: 毎時 10.4 km
最小標高: 0 m
最大標高: 287 m
累積標高(登り): 853 m
累積標高(下り): 824 m

(2018/4/20 走行)


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