峠への招待 > ツーリングフォトガイド > ’2018 > 仙ノ沢峠・笠取峠
早朝の温海温泉街を散歩する。
昨日の夕日に輝く温海川も素晴らしかったが、やっぱり明るい日差しに輝く姿が美しい。
静かな温泉街に、温海川の流れの音だけが響く。
今日も快晴。雲一つない青空が広がる。
昨日越えられなかった越路峠(こえじとうげ)へ向かう。
本当は、昨日この峠を越えて温海温泉に下りてきたかったが、残念ながら越えられなかった。
越えられないとなると、どんな峠なのか気になるところ。
とりあえず、ピストンでもいいので行ってみることに。
昨晩、宿のTVで、明日の日曜日「温海さくらマラソン」が開催されることを知った。
参加定員 1700名を誇る人気ある大会のようだ。
30kmコースは、温泉街をスタートし、越路峠を越えて、小俣、一本杉峠を経て周回するコースだ。
昨日、自分が訪れたあたりが、多くのランナーたちで賑わうという。
運がよかった。
一日ずれていたら、温泉街も満員、静かに走ることも、桜を眺めることもできなかったかもしれない。
まさかこんな静かな温泉街でマラソンが行われているなんて・・・
朝から温泉街周辺では、看板、簡易トイレ設置、道路へのコース表示など、マラソン大会の準備が進められている。
まだまだ静かなうちに越路峠へ行ってみる。
標高差100m少々だが、カーブがきつく急登の峠だ。頑張って乗っていくが、途中で力尽きる。
この道をランナーが走って下ってくるのではかなり危険だが、登りならスピードも出ず安全だろう。
明日はこの道がランナーと歓声で埋め尽くされるのだろうが、今朝の静けさからは想像できない。
呼吸も乱れながら越路峠のピークに。
昨日この峠を越えなくてよかった。越えていたら、ヘロヘロになって宿に辿り着いたに違いない。
峠は十字路のように分岐しているが、峠を示すものもなく、視界もほとんどない。
天魄山(てんぱくざん)への道を登っていけば、たぶん日本海がよく見えるのだろうが、さらに100m以上登る元気はない。
天魄山は標高290mの山で、あつみ温泉から頂上まで舗装道路が整備されています。
晴れた日には鳥海山、粟島、佐渡島がのぞまれ、日本海の雄大さを満喫できます。山頂には展望台・トイレ・遊歩道が設置されています。
https://www.tsuruokakanko.com/cate/p0211.html
このまま下って行きたいところだが、今日のコースに戻るため、仕方なく登ってきた道を下る。
今日、明日と4月とは思えないほどの気温になるらしい。ランナーの皆さんどうかご無事で。
再び温泉街を通り抜け、本日最初の峠、仙ノ沢峠(せんのさわとうげ)へ向かう。
素晴らしかった温海温泉を後にする。道端の猫たちもお見送りしてくれてるようだ。て
仙ノ沢峠までは温泉街から約300mの登り。温海川の流れを右手に見ながら、緩やかに登っていく。
山形名水100選「大清水」で一服。おいしそうな湧水が祠の下から流れている。
祠の横には歌人、建部山比子が大清水を詠んだ歌碑がある。
「夏かけて 消えぬ氷も あらなくに 冬より寒き 山の井の水」
仙ノ沢峠への分岐まで、静かに桜並木を眺めながら緩く登っていく。
明日はマラソンランナーがゴール目指してラストスパートするあたりだろうが、今日は誰一人姿が見えない。
仙ノ沢峠までは、距離3.4km 標高差250m 平均勾配7.3%の登りだ。
峠路の雰囲気は最高だが、やはりここの登りもきつい。九十九折れを登るごとに、真下に今登ってきた道が見え隠れする。
時折勾配が緩くなると、周囲の山々の景色が視界に入ってくる。
途中、目の前を野生の猿10頭ぐらいが現れ、道を横切って行った。
猿も人間が怖いようで、あっという間に姿が消えてしまった。
暑さと勾配にダウン。最後は押しての峠到着となった。
峠は左カーブを曲がった先に現れる。広く、明るい峠だ。視界もいい。
峠を示すものはこの峠もないが、昨日から越えてきた峠の中では、一番峠越えの雰囲気を味わえる峠だ。t
峠を後にして下りに入る。
道幅が結構あるので、快適なダウンヒルを楽しめるが、コーナーがきつい。
ブラインドコーナーが多いが、まず車がやってくることはないので安心してダウンヒルできる。
それにしても天気が良く、そして暑い。下ると熱風が吹いてくる。まるで7月の陽気だ。
昨日は慌ただしい一日だったので、今日はゆっくりランチタイムを楽しみたい。
この先、どこかで食料を調達して、絶景の笠取峠(かさとりとうげ)で鍋でもグツグツやりたいな、と考えていた。
五十川(いらがわ)に沿って日本海へ下る。
たまに追い抜いて行くのは、地元の軽トラックぐらい。
小鳥のさえずりと、川の流れをBGMに静かで快適な田舎道を行く。
前回笠取峠へ来たときは、やはり食糧調達で苦労した。
今回は同じ失敗はしないぞ、と海岸線に出てからは慎重にお店をさがしていたのだが、やっぱり同じことになってしまった。
小さな町ではまず食料品店もなければ、へたすると自動販売機さえない。
国道ならそのうちコンビニもあるだろうと思うが、何キロも戻ったり先だったりする。
こうして地方を走っていると、なんだか年々お店の数が減ってきている感じがする。これも過疎化の影響なのだろうか。
結局、小波渡の町でも何も手に入らず、笠取峠への入口に来てしまった。
仕方ない、今日も非常食とおつまみだけのランチタイムにするしかない。
せっかく持ってきたストーブも使う機会が全くない。
線路をくぐると、笠取峠の登りが始まる。
前回ここを訪れたのが1999年。 もう19年も前になる。
あまりの展望の良さに、いつかまた来たいと願っていた。
月日の流れの早さに驚きながらも、当時の様子が鮮明によみがえってくる。
この峠の入口も全く変わっていないし、徐々に広がる日本海、道路、線路の様子も全く同じだ。
約20年前にタイムスリップしたかのような錯覚だ。あれからこんなに歳を重ねたのか・・・
驚いたことに、写真を見比べると、当時と同じ自転車、同じフロントバッグ、同じサドルバッグだ。
約20年間、変わらず同じことをやり続けている証拠のようだ。
珍しく、若い女性のハイカーが上から下ってきた。
こんなところで人に会うのは滅多にない。一眼カメラをぶら下げているところを見ると、写真好きのようだ。
登るにつれ、さらに視界が広がる。
見事な構図だ。
峠路と線路、小波渡の町並みと道路、そして日本海。遮るものがなにもなく、すべてが目の前に広がる。
満開の桜が咲き誇る。
なんて素敵な峠路なのだろう。そして、なんていい色をした峠路なのだろう。
やはり惚れ込んだ峠の一つである。
強い海風で、笠を飛ばされることから笠取峠と呼ばれるようになったと伝えられるこの峠。
その名の通り、次第に吹き抜ける風が強くなる。
峠のピークまでは、標高差も僅かで、距離も短いのでゆっくり展望を楽しむことにする。
一番眺めのいい場所に、最高の東屋が整備されている。
前回も、この場所でたっぷりと最高のランチタイムを満喫した。
ここからの展望はとにかく素晴らしい。
紺碧の大海原、一直線の水平線、果てしなく広がる青空、目の前に迫る残雪の鳥海山、見下ろす町並み、車の流れ。
動けませんね、しばらくは。
ここへ来るといつも思うことが、ここで夕日を見てみたい・・・やっぱりもう一度ここに来ないと・・・
気が付けば、熊出没注意の看板が建っていた。こんな所にも熊が出るのかと驚きだ。
熊も、この絶景を見たくてやってくるのかもしれない。
惜しまれつつも峠を後にする。
下りの道はスリリングだ。ガードレールもない、ダートの絶壁を下る。
転落したら一発でアウトだ。暗くなってからでは恐ろしくて走れそうもない。
どこかの離島の山道を下っている感じで、何か礼文島の景色に近いものがある。
三瀬の町へ下りてきてようやくコンビニを発見。食料を調達して海岸で休憩。
本日後半戦は、海岸線沿いに酒田を目指す。
交通量が多い中を走るのはいやだと心配していたが、意外と車が少なく、広い歩道のおかげでとても気楽に走れる。
穏やかな日本海と、次第に大きく近づく鳥海山を眺めていると、単調なコースも飽きることがない。
湯野浜温泉までやってきた。
時間も早いので、善宝寺〜湯野浜サイクリングコースに寄り道してみる。
この自転車道は、1975年に廃線となった庄内交通湯野浜線の跡地を整備した自転車道だ。
ゴルフ場脇の名もなき峠、「旭峠」を越えると周回できるらしいので、温泉街からルートを探す。
しかし、詳しく調べてこなかったためルートも不明。地元の人に聞きたくても誰もいなく、諦める。
しかたなく善宝寺鉄道記念館まで行って、反対側から越えることに。
自転車道と言っても、公園内の遊歩道ような道で、距離も短くすぐに終点についてしまう。
それでも、多少のアップダウンがあるので、できれば周回して湯野浜温泉に戻りたいところだ。
善宝寺鉄道記念館は、完全に閉鎖されていて、建物も残された車両も朽ち果てている。
1999年頃まで利用されていたそうだが、その後はこんな状態のまま放置されている。
せっかくの記念にと、中に入って車両の写真を撮ってきたが、あまりの荒廃さに悲しくなるばかり。
もう少しなんとかならないものだろうか。このままの姿にしておくのも、あまりに残酷な気がする。
さて、旭峠への道を探るべく、貝喰の池へ向かう。
しかし旭峠へ至る道など、どこにも案内がなく道も行きどまりだ。唯一、石畳が杉林の中に続いているだけだ。
まさか、この石畳を行くのかと戦意喪失。いまさら担ぎたくないと、ここでもまた諦め、湯野浜温泉に戻ることに。
(後になって調べると、この石畳横の山道を行くと旭峠だということがわかった。残念)
今日の宿、酒田まではいい裏道がない。しかたなく国道を我慢して走るが、やはり面白くない。
海岸線沿いに走れそうな道もなく、一息つく所もない。
やっと見つけた赤川の河口で、広がる砂浜を眺めながら休憩する。
最後は、かんぽの宿酒田を目指して街中を走る。
今日もたっぷり東北日本海の景色を堪能した一日だった。
暑かった一日。うまいビールと、美味しい料理が待っていてくれた。
距離:
69.0 km 所要時間: 8 時間 8 分 30 秒 平均速度: 毎時 8.5 km |
最小標高:
1 m 最大標高: 346 m |
累積標高(登り): 819 m 累積標高(下り): 832 m |
(2018/4/21 走行)
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