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日経新聞 2017年8月26日朝刊 日経プラス1 「コメ作りが生んだ棚田10選 里山の絶景を見に行こう」

この特集で第1位に輝いたのが星峠の棚田だ。

見事なまでの棚田の美しさと幻想的な風景に魅了され、いつか必ずこの目で見たいと機会を狙ってきた。

そして過去二回、雪に阻まれ越えられなかった野々海峠と深坂峠。

この3泊4日のツーリング、前半の目的は、この3つの峠(星峠・野々海峠・深坂峠)を越える事だった。
 


2020年11月21日

目覚めれば今日も朝から雨。天気予報が見事なまでによく当たる。

最大の楽しみ、そして今回一番ハードな一日もやっぱり雨となってしまった。


ルートは厳しい。距離、標高差、冬季通行止めの道路状況・・・どれも不安だ。

直前までいろいろ悩んだ。コースを変更して危険を避けるか・・・輪行するか・・・やはり走るか・・・


走行距離80km、獲得標高約1200m・・・日没の早いこの季節、雨の峠越えは自分の体力でギリギリだ。

とりあえず星峠の棚田まで行くことに。その後どうするかは状況次第ということに。


今日はスタートから完全防水体制だ。可能な限り雨からすべてを守る。

フロントバッグをすっぽり覆い、使い捨て手袋、ビニール袋で手足を守る。もう、これで限界だ。

ペダリングも、ハンドル操作も、写真撮影も、何もかも不自由だ。もうダルマ状態。
 


事前に調べてきた、まつだい付近の棚田マップだ。

http://www.city.tokamachi.lg.jp/kanko/K007/K013/1454068601772.html


なるべく多くを見て回ろうと思っていたのだが、この天気で諦める。


芝峠温泉裏手に広がる棚田。ここも絶景のはずなのだが、この天気で何もかも台無しだ。

冷たい雨が容赦なく降り注ぎ、もう棚田鑑賞なんて呑気なこと言ってる状況ではない。


芝峠温泉から、菅刈の棚田へ下る。人の姿も車の姿も見えない。

こんな寒い雨の中、晩秋の頚城地方を自転車で走っている姿はちょっと異常かもしれない。


下りではブレーキが全然効かない。クールストップでもブレーキシューがどんどん削られていくばかりだ。

これでは写真も映えない。明るい晩秋の棚田風景はどこへ行ったのやら・・・
 


まつだい駅まで降りてきた。コンビニに逃げ込む。

昨日もらったクーポン券が使える店を調べたら、なんとセブンイレブンで使えるとわかり大喜び!

今日の食料調達はここで済ませることに。


たったこれだけ走ってホイールはこの状態だ。せっかく綺麗にしてきたタイヤも真っ黒だ・・・

雨具のフードが風でバタつくので、クリップで帽子のつばに固定する。とっても快適。(オススメです)

さあ、いよいよ念願の星峠への分岐が現れた。こんな天気だが、期待に胸が高鳴る。
 


雨が一瞬上がって、晴れ間も見えてきた。そのまま回復するかと期待したが再び雨雲が広がる。

観光地としてすっかり有名になったこの星峠の棚田。さすがに観光客の車が時折やって来る。


静かな細い山道を登り詰めると、目の前にあの棚田がどーんと飛び込んで来た。

うーん、確かに素晴らしい眺めだ。こんな天気でなければ感動も桁違いだろう。

新聞に掲載された幻想的な絶景には程遠いが、それでもこの眺めは感動的だ。


棚田というのは、やっぱり美しい。高台から見下ろす棚田が最高だ。

これだけ視界が広く、美しい棚田が眼下に広がる星峠は、やはり第1位に違いない。
 


星峠の棚田の先は小さな小豆峠へと繋がる。

観光客の多くは星峠が目当てなので、ここで戻ることになる。
 


何の標もない小豆峠だが、ここからの眺めもまた素晴らしい。

観光客がやってこない分、絶景を独り占めできる。

自分だったらここに車中泊して、朝から晩まで棚田の風景を満喫したいと思うぐらいだ。
 


小豆峠はただの分岐になっていて、道の片隅に小さなお地蔵さまが佇んでいるだけだ。

地図には「星がきれい」と記されている。たしかに、夜ここからの星空は最高だろうな。


時刻は予定より30分遅れだ。この状況なら予定通り走り切れるかもしれないと思い始めた。

ここまで来て、3度も野々海峠・深坂峠を諦めるわけにはいかなかった。

もう次の機会はないかもしれないと感じていた。
 


小豆峠を下って時刻は10:50。ここから野々海峠まで約900mの登りだ。

果たしてどれだけ時間がかかるのか・・・そして天気は、道路はどうなっているのだろうか・・・

登りのスタート地点、激流の川を眺めて本格的な登りが始まった。


標高差900mということは、1時間300mのペースで3時間。14時に峠に到着できる。

それでもギリギリの時間だ。その後の林道の状況次第ではナイトラン間違いなしだ。

野々海峠まで果たしてどれぐらいで登れるか・・・必死の闘いが始まった。
 


もっと若くて、もっと体力があった頃、登りの目安は1時間400mだった。

どんな路面状況でも、だいたいこれで計算しておけば間違いなかった。

やがて歳を重ね、体力が落ちてくると、1時間300mが限界となってきた。


よっぽどの好条件でない限り、なかなか1時間300m以上は難しくなっていた。

ガーミンが冷酷に残りの距離を告げてくる。励まされるやら、落胆するやら・・・

しかしこれがなければペース配分も、現在位置もわからない。ひたすら画面とにらめっこが始まる。


頑張れば頑張っただけ結果が画面に現れる。標高がどんどん増えていく。

次のカーブまで、次のカーブまでと自分に目標を与えれば、ちゃんと数字で結果が帰ってくる。

こういうことなんだよ、見える化って。結果がちゃんと帰ってくれば頑張れる。だからGPSはありがたい。
 


いいペースだった。1時間300mをはるかに越えるいいペースで登り続ける。

こんな悪天候のせいか、展望もなく写真を撮る機会も少ない。ただただ高度との闘いだけであった。


手足もしだいに冷たくなってきた。いくら防水しても、やはり雨に濡れる。

体は必死の登りで汗だくだ。雨具のファスナーを開けて換気したところでたいした効果はない。

とにかくエンジン全開、14時前には峠に尽きたいという気持ちばかりだった。
 


辛かった。5分間の休憩が欲しかった。

一息ついてもすぐに走り始める。乗れない勾配はひたすら押す。

とにかく止まっていてはダメだ。降りたら押す。この連続だった。


幸い完全舗装だったおかげで頑張れた。これでダートだったらもう無理だった。

まあ、とにかく状況は最悪だった。


気がつけば気温はかなり低く、指先はまともに動かないほどだ。

みぞれになってもおかしくないほどの気温で、これで風でも吹いていたら危険な状況だった。
 


もう限界直前だった。登りも辛いし、手足も痛いほど冷たくなっていた。

ようやく勾配が緩くなって生き返った。


全くの無人地帯。周囲の視界も全くない。

こんなに寂しい所ではないはずなのだが、とにかく明るい気配は何一つなかった。


13:22  とうとう念願の県境、野々海峠へ到着した。自分としては素晴らしいペースだった。

もう、うれしいというよりホッとした気分で満たされた・・・これでもう登らなくて済む・・・

そして、ここで30分の余裕ができたことがなにより嬉しかった。
 


ようやく駐車している1台の車を発見。久しぶりに人の気配を感じることができた。

勾配が緩やかになって、今度は急に寒さが襲ってきた。

野々海池でゆっくりランチタイムを楽しむ予定でいたのだが、全くそんな状況ではない。


池の様子も視界が悪くてよくわからない。それより、とにかく雨をしのげるところがない。

しかたなく、そのまま深坂峠へ向かう。


野々海池から少し登り返し、とうとう3度目の挑戦で深坂峠へ到着することができた。

いやはや、大変な登りであった。もう疲れ果てた。


ここで、先ほど駐車していた車の中高年の女性ハイカー二人と遭遇した。

人に会うのが珍しく、お互いに驚きの表情だ。こんな天気の中、会話して苦労を分かち合う。
 


ネットから拝借した写真によれば、本来下の写真のような絶景が目の前に広がるはずなのだが・・・

なーーーんも見えない。
 


峠から先は、長いこと通行止めが続いている。道路状況がどうなっているのか不明だ。

寒くて峠に長居することができなかった。こんな状況ではランチタイムなど不可能だ。

空腹のまま早々と下りに入る。


野々海池を後にすると、野々海温井林道の入口が現れる。

当初計画したルートはこの林道を西へ行き、照岡牧場へ抜けるつもりだった。

しかし、この林道はいきなりダートから始まった。


これまでずっと舗装路だっただけに、この先のダートが少々心配になる。

それでも走りやすそうな林道なので、予定通り行くしかないと決心する。


少し行くと、ここにもゲートが現れた。車両は完全に通行止めだ。

天気が良くて、時間があって、空腹でなければ問題ないだろう。しかし、今の状況は相当まずい。


行けたかもしれない。しかし、ソロであるリスク、体力の低下を考えると危険な挑戦だった。

この旅はまだ二日も残っている。ここで無理するわけには行かないとコース変更を決断する。
 


林道入口に戻って一息つく。すると、急激に寒さが全身を襲い、体がブルブルと震えだした。

ちょっとした寒気かと思ったが、鳥肌が立ち震えが止まらない・・・やばいぞ・・・


濡れた体が急激に冷え始め、空腹とともに体が危険信号を発していた。

寒い中、頑張って濡れた体を拭き、さらに着こんで暖を取った。おかげで震えも収まり、寒さもやわらいだ。

ここにいては危険だと感じ、とにかく下界へ下ろうと判断する。


下り始めてようやく空が明るくなってきた。

極寒の中、ダウンヒルの景色はこれまで見たことのないような美しさだった。
 


高度が下がるにつれ気温が少しづつ上がってきた。ようやくこの寒さから逃げることができた。

視界も明るくなり、路面も、周囲の山並みも良く見えるようになってきた。


いい雰囲気の下りだ。こんな天気で本当に残念で仕方がない。

時刻は14:50にもなろうとしている。もう空腹で限界だ。
 


平滝の駅まで降りてきた。すると祝福してくれるかのように明るい太陽が見えてきた。

「あぁ暖かい・・・」なんて太陽は暖かいのだろう・・・本当に心の底から感じるほどだった。


駅を見下ろす高台の畑に陣取り、ようやくランチタイムにありつけた。

ついさっきまでの極寒が嘘だったかのような、穏やかな日差しが降り注ぐ。
 


コースを変更して正解だった。あのまま林道を行っていたら、食事を取る余裕もなかっただろう。

これで本日のゴールが見えてきた。あとは平坦な道をひたすら走るのみだ。


ランチは得意の棒ラーメンだ。寒い時期にはこれが一番だ。

棒ラーメンのレシピ本から選んだのがこのメニュー、「いか天ラーメン」だ。


コンビニで買ったいかフライと乾燥ネギを投入。さらにスライスにんにく、餅をいれれば完成だ。

温かくておいしくて、ボリュームがあるお気に入りの一品だ。
 


すっかりくつろいでいたら再び空模様が怪しくなってきた。そしてまたポツポツと降り始めた。

もう、いったいどこまで意地悪なんだ、この天気は・・・

お腹も満たされたので急いで片づける。本当に今日はゆっくりできない一日だ。


時刻は15:50。飯山の宿まで残り25km。やっぱり最後はナイトランになりそうだ。

千曲川と飯山線に沿って最後のフィナーレを楽しむ。

結局、一日中雨に降られた。これで二日続けて雨に見舞われた。こんなツーリングも経験がない。
 


本日の宿は飯山の街中に佇む、「ホテル ほていや」。

歴史ある広々とした宿だが、家庭的で話好きの女将のもてなしが魅力だ。

今日の夕食はしゃぶしゃぶ食べ放題。一人では食べきれないほどのボリュームに大満足。


そして今夜も「大乾燥大会」だ。

もう、何もかもビショビショだ。特に靴とグローブは乾かさないと使い物にならない。

さっそくお得意の乾燥機の登場だ。石油ストーブとビニール袋でどんどん乾かす。


毎日宿に着いてもこんなことの繰り返しだ。

さて明日はクラブランの本番だ。集合場所の飯山駅まで近いのでゆっくりできる。

明日こそ天気が回復して欲しいと願うばかりだった。

 

 

距離: 78.5 km
所要時間: 9 時間 2 分 11 秒
平均速度: 毎時 8.7 km
最小標高: 145 m
最大標高: 1072 m
累積標高(登り): 1434 m
累積標高(下り): 1548 m

(2020/11/21 走行)


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