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2021年11月14日(日)


二日目も快晴に恵まれた。

宿の窓からは、冠雪した後立山連峰が朝日を浴びてキラキラと輝いている。

丁寧なおもてなしの中、素晴らしい朝食をいただく。


「湯あがりたび」最近の宿はこうした気配りがされているようだ。

館内の移動は共用のスリッパではなく、こうした「たび」を履いてもらうようにしているようだ。


冷蔵庫には雨飾山の湧水が冷やされている。せっかくなのでボトルに冷水を入れていく。

本日の予定を確認する。ほとんど下りだが距離は相当ある。まあ、それでもなんとかなりそうだ。


今回参加した全員で記念撮影。ここで全体は3組に別れることになった。

本隊組8名は湯峠を越えて姫川温泉へ抜ける。カーサイご夫妻はここでお別れだ。


さらに単独で参加し、昨日乙見山峠を往復したカーサイメンバーもここでお別れ。

短い時間であったけれど、昨夜は思い出に残る楽しい宴を満喫できた。


宿からはすぐに登りが始る。朝食後いきなり登り始めるのはやはりつらい。

それでも、この素晴らしい秋晴れと爽やかな朝日を浴びて、今日も最高の気分だ。

なかなか好天が続かない新潟地方だが、これだけ穏やかな天気が続くことに驚くばかりだ。


サポートカーがいないとなると、一気に荷物が元に戻る。

たった数キロの荷物だが、非力なサイクリストにとっては大きな差が出る。


サポートカーの有難さに慣れてしまうと危険だ。

下手をすると運び切れない程の荷物を抱えることになってしまう。


湯峠までの道は綺麗な舗装路が続く。

工事中や通行止めの情報があるので懸念していたが、メンバーの一人が事前調査済なので安心だ。


日曜日は工事もお休みだそうなので、安心して峠越えを楽しめる。

峠を越えられないとなると大幅な予定変更になるため、この事前情報は本当に有難い。表彰状ものです。


標高差約300mをいいペースで登り詰め、湯峠に到着。

事前調査では大きな扉のゲートがあったらしいが、きれいに撤去されている。


自分にとっては2度目の湯峠。前回は夕暮れ間近の峠到着だった。

大雲海が眼下に広がる幻想的な景色が今でも記憶に残っている。

今回は快晴の、眩しいばかりの湯峠となった。


結構観光客の姿が目立つ。車でここまで登ってきてUターンして戻っていくようだ。

さっそくここでも記念撮影。やはりこうした集合写真は、各自の表情が残る貴重な思い出だ。


峠から道はダートへと変わる。

早い時間に今日のピークを越え、後は延々と下りを楽しめる。

昨日の極寒の辛さはとうに忘れ、暖かい日差しの中、晩秋のダートの下りを堪能する。


峠から50m程下った辺りで、西側の展望が大きく開けてきた。

前方の深い谷に向かって、林道は一気に姫川温泉まで高度を800mも下げる。

これから下る道筋がほんのかすかに確認できる。スケールの大きいダウンヒルに身を引き締める。


正面に雨飾山を迎え、小砂利の走りやすい林道を下っていく。

カラフルな各自のウェアが晩秋の林道を彩る。

路面に集中していて、正面の美しい雨飾山を眺めている余裕はない。


せっかくなので、深田久弥「日本百名山」の31座目に登場する、雨飾山の書き出しを紹介しておこう。

「雨飾山という山を知ったのは、いつ頃だったかしら。信州の大町から糸魚川街道を辿って、佐野坂を越えたあたりで、遥か北のかたに、特別高くはないが品のいい形をしたピラミッドが見えた。しかしそれは、街道のすぐ左手に立ち並んだ後立山連峰の威圧的な壮観に眼を奪われる旅行者には殆ど気付かれぬ、つつましやかな、むしろ可愛らしいと言いたいような山であった。私はその山に心を惹かれた。雨飾山という名前も気に入った。」


ほどなく、標高1130m付近から舗装路に変わった。

近いうちにこの林道も、湯峠まで舗装されるのかもしれない。

もう少しダートのダウンヒルを楽しみたい気持ちもあったが、今日は距離もあるので嬉しい誤算だ。


ダウンヒルの途中で、メンバーの一人が急停車して山ぶどうを拾ってきた。

”すっぱいよ”と言われ食べてみると、たしかに酸味が強かったがなかなかおいしかった。


行き交う車はほとんどなく、林道全線にわたって我々だけの貸し切り状態だ。

車が通らないため、路面はかなり滑りやすい状態になっている。


見た目は何ともない舗装路だが、苔の付着や砂、落葉、小枝などが溜まっている。

ラインをしっかり見極め、まっすぐに下っていかないとツルっと持っていかれそうだ。


ブレーキの効きが悪いメンバーは、どうしたの?ってぐらい遅いスピードで下っていく。

自分もさすがにこの下りはスピードが出せず、カーブを曲がる際はかなり減速し、ゆっくりとクリアしていく。


長い長いダウンヒルだ。そして思った以上に時間もかかる。

ずっと同じ体勢を続けているので、体のあちこちが痛くなってくる。


標高600mまで下ってくると、周囲の色づきが急に鮮やかになってきた。

峠付近の初冬の雰囲気から、明るく美しい秋景色へと変化してきた。


昔の記憶が薄れているが、湯峠から姫川温泉まではそれほど時間がかからなかった気がする。

1993年10月の走行データを調べてみると、所要時間1時間10分で下っている。


16:30に下りはじめ、17:40に姫川温泉の宿に到着している。

まあ日没が迫って、休む間もなく下ったため短時間で下れたのだろう。

今回1時間50分もかかっているのは、休憩の回数や路面の状態によるところが大きいのだろう。


ようやく人里まで降りてきて正直ほっとした。それほど長く緊張する下りの連続だった。

ここで単独カーサイで来ていたメンバーとお別れ。本隊は8名から7名になった。


時刻は12:00 残りの距離約65km。果たしてこの後大丈夫か? これから昼食も控えている。

ここから糸魚川までは、ひたすら我慢の国道走りが20km続く。

できれば避けたいルートであるが、残念ながらこれ以外に道がない。


トンネル、スノーシェッドの連続で、一瞬たりとも気の抜けない危険な国道が続く。

自動点灯のテールランプが大活躍だ。暗いトンネル内では、点滅するLEDライトが実によく目立つ。


それでも幸運なことに、今日は日曜日のため大型トラックが少なくて本当に救われた。

平日だったら、きっと寿命が縮むほど恐怖の連続だっただろう。


全員で1時間快走して前方に日本海が見えてきた。ここまでくれば今日の予定が見えてくる。

さあ、日本海の旨い幸を味わいましょうと糸魚川駅周辺を散策する。


しかし、季節外れなのかコロナ禍の影響か、街はひっそりとしている。

最初に入ろうとした居酒屋は団体客お断り。しかたなく評判の高い別の店へ行ってみるとやはり人気だ。

大人気の海鮮丼をいただく。このボリューム、この新鮮さ、さすがでした。とにかく美味しかった。


深い深い山の中から、一気に明るい海岸線に出てきた。この劇的な変化が今日のコースの魅力だ。

久比岐自転車道の入口までやってきた。ここから先はほぼ一本道。迷うことも焦ることもない。


ここの自転車道は5年前に走っている。思い出すのはNHK「こころ旅」のロケに遭遇したことだ。

いまでも鮮明に覚えている火野正平さんとのやりとり。放映はされなかったけど一生の思い出になっている。


久比岐自転車道は全長約32kmもある、旧国鉄北陸本線の線路跡地を利用した自転車専用道路だ。

5年前の印象が忘れられず、近くへ来た際は絶対にもう一度走りたいと思っていた。


今回、晩秋ツーリングが二泊三日と豪華になったため、この自転車道を走りましょうと提案した。

いつも峠越えや林道ばかりのクラブランだっただけに、こうしたコースはとても新鮮だ。


廃線跡だけに、当時のトンネルがそのまま利用されている。

この連続するトンネルを、次々探検するように走り抜けるルートが非常に面白い。


さらにこの自転車道は車道と完全に分離され、車を一段高い所から見下ろすように走ることができる。

高い所から見下ろせる優越感は気分よく、思わず笑顔になって歓声が上がるほどだ。


よくある海岸線の自転車道は、砂と風に悩まされることが多いが、ここはそんな心配はいらない。

こんな贅沢な道を自転車のためにだけ作っていいのだろうか、と思うほどの道だ。


一つ一つのトンネルも、すべて変化があって面白い。

ここをかつてはSLが走っていて、このレンガトンネルは当時のままだそうだ。

そんな思いを抱きながらトンネル内に入っていくと、この自転車道の魅力をより一層感じられる。


トンネル内は明るく、路面も綺麗に整備されているので危険なところはほとんどない。

時々自転車の姿を見ることもあるが、ほとんど我々だけで独占している感じだ。


ほぼ平坦な道で、海岸線から町の中を抜けたりと変化もあって飽きることがない。

適度に休憩所が設けられているし、車道が近いので食料調達にも便利だ。


名立の休憩所からは、素敵な東屋から日本海の眺望が素晴らしい。

いつかここからの夕陽を見てみたいのだが、今回も残念ながら時間的に無理だった。


約30km、十分すぎるほど自転車道を堪能して有間川橋で日本海と別れる。

時刻は16:22になった。ここまでよく走ってきたが、宿まで最後の登りが待っている。

日が沈み周囲は暗くなってきたが、ゴールも見えてきて今日は全く不安感はない。


今日も各自ご自慢ライトの披露会だ。

やっぱりヘッドライトが便利でしょう、とお得意のライトを頭に装着。

気持ちよくフィナーレを迎え、もう見事と言うしかない、完璧の一日が終了した。


さらにこの素晴らしい夜の宴。驚いたことに我々だけの個室でいただくことに。

有難い配慮だ。これならば思う存分自転車談義で盛り上がることができる。


料理もお見事。海と山の恵みたっぷりの会席料理が次々と運ばれてくる。

これだけの料理を前にしては、次々とお酒も進むしかない。


際限ない飲兵衛サイクリストの集まり。よく走った日は驚くばかりのビール、日本酒の消費量だ。

山から海へのダイナミックな変化、見事なコース設定。そして豊富な海の幸、山の幸。


こんな素敵な一日を味わってしまったら、もうこれ以上はないかもしれない。

今日はそんな幸せを感じた一日だった。


 
距離: 88.8 km
所要時間: 7 時間 51分 00 秒
平均速度: 毎時 11.3 km
最小標高: 21 m
最大標高: 1279 m
累積標高(登り): 569 m
累積標高(下り): 1499 m

(2021/11/14 走行)


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