峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’2023 >  岡山の峠と自転車道



事前準備


昨年の春は、播磨の峠巡りを楽しんだ。知らない地域の峠巡りは実に面白い。

歴史・文化・人々の暮らし。都会では決して知ることも見ることもない暮らしに出会える。

中国地方の峠はほとんど越えたことがない。今回も昨年に続き、そんなエリアを旅してみた。


岡山県は何度か自転車道を走ったことはあるが、峠越えは初めてだ。

まずは、5万図を見ながらGoogleマップに峠の位置を落とし込んでみる。

岡山県周辺には数えきれないほどの峠が存在している。これを見るだけで溜息が出てきた。


岡山の峠を調べ始めて、2冊の本に出会った。そのうちの1冊が「おかやまの峠」という本だ。

多くの峠の中から、著名な、そして歴史的に重要な峠を、詳しく丁寧に紹介している。


地理的な事、交通のこと、物流のこと、そして人々の事。やっぱり、峠の歴史は奥深い。

今回は、こんな峠の中から少しでも越えられる峠があればと思い、プランニングすることにした。


旅の始まりは5万図を手に入れることから始まる。

いつものように、地図センターに出向いて5万図を手に入れる。


7枚も買えば結構な金額だ。別に地図がなくても困る時代ではないが、やはりこれだけはやめられない。

買ってきた地図にラインマーカーでルートを塗る。


そして肝心の天気も、直前になって急回復してきた。明日の29日からはしばらく好天が続く。

プランニングもバッチリ、そして天気がいいとなればもう70%は成功のツーリングと言ってもいいだろう。

さあ、これでようやく旅の準備がすべて整った。


2023年3月29日(水)


出発する直前に、東急線に待ち望んだ新線が開通した。

新横浜で新幹線に乗るために、これまでは菊名で乗り換えが必要だったが、直通で行けるようになった。

自分にとっては、東海道新幹線への乗車がめちゃくちゃ便利になった。


本当に有難いことだ。東急電鉄さんに感謝、感謝、感謝です。

さっそく乗車してみる。乗り換えなしで新横浜駅へ。

エレベーターを乗り継ぎ、少々歩けばすぐに新幹線乗車口だ。近い、速い、そして楽ちんだ!


新横浜駅は大変な混雑だ。平日の早朝だというのに、駅構内はお祭り騒ぎのようだ。

コロナ騒動が収まって、人々も積極的に外へ出始めた。そしてこの新線開通だ。

このゴールデンウィークはどれほど賑わうのかと、今から恐ろしくなる感じだった。


ネットで予約した「特大荷物スペース」。自動改札をタッチすると、こんな券が出てくる。

無事に改札を抜けて乗車する。ALPS式輪行袋は小さいから、こんな感じで置くことができる。


新幹線車内はかなりの乗車率だ。コロナ騒動初期の、「幽霊列車」とは様変わりの状況だ。

これで一安心。岡山までの新幹線旅をのんびり、ゆっくりと過ごす。ようやく昔の列車旅が戻ってきた感じだ。


岡山から津山線に乗り換える。初めて乗る路線だ。空いている2両目に乗る。輪行袋を縛り付け座席に座る。

さて、パスモで津山線に乗車したのはいいが、降りる駅は無人駅でICの機械もないらしい。

どうやって運賃を支払えばいいのだろう? 発車まで数分あったので、ワンマン列車の運転士に聞いてみた。


「すみません、パスモで改札を通ったのですが、運賃はどうすればいいのでしょうか・・・?」

「運賃は降りる際に、この運賃箱に入れてください・・・そして・・・」


「降りる駅は無人で、ICの機械もないので、このままでは次に乗車出来なくなりますので・・・」

「この乗車記録表をお渡ししますので、どこかの駅でパスモの記録を訂正してもらって下さい・・・」ですって。


まあ、都心でもこんなパスモやスイカの訂正処理をしたことはあるけれど、こんな所で・・・さらに・・・

ワンマン列車なので2両目のドアは開かず、揺れる車内を乗客の視線を浴びながら輪行袋を先頭車両へ移動する。

もう、初めてのことばかりで戸惑うばかり。まあ、旅の恥は掻き捨てだ。これもいい思い出としよう。


とりあえず運賃を支払い、運転士から乗車記録表みたいな紙を受け取って、無事に建部駅に降り立った。

いやはや、東京を出発して約5時間。やっぱり遠いいなぁ、岡山県。


もらった紙には、日付、乗車した区間、支払った金額、運転士名、パスモ未処理のような事が書かれている。

この紙をどこか大きな、設備が揃った駅で処理をしてもらわないと帰ることができなくなる。


重要な宿題を与えられて、心の片隅にはそのことが気になって仕方なくなった。

なんだよ、結局超アナログじゃん・・・なんでここまで無人なの? とぶつぶつ・・・

建部駅、次の列車到着まで数時間あるので、駅の中で組み立て始める。誰もいないし、誰も来ない。


建部駅、駅舎は国の登録有形文化財だそうだ。寂れた駅周辺であるが、よく手入れされた美しい駅舎だ。

組み上げた自転車を置いて、出発前の記念撮影だ。

列車が到着してから、走り出すまで駅にやって来たのは、トイレを借りに来たタクシー1台だけだった。


岡山の峠1 「鳥越峠(標高111m)


スタートはすでに12時。これほど遅いスタートも初めてだ。

標高差は少ないとはいえ、半日で60km近く走るのは結構大変だ。まずは最初の峠、鳥越峠へ向かう。

気温も高く、3月とは思えないほどの陽気だ。


走り始めてすぐに、”Googleカー”が目の前を通り過ぎた。屋根の異様なカメラですぐにわかる。

きっとそのうち自分の姿がGoogleストリートビューに登場するかも? なんて期待する。

鳥越峠はあっと言う間に越えてしまった。峠と呼ぶには申し訳ない程度の小さな丘のようだった。


車道で越えられる岡山の峠は、だいたいこんな感じの峠が多いのだろう。標高も300m未満が多い。

長閑な田舎道を走っていくと、民家の前で猫とおばあちゃんの姿に出会った。

猫が鳴いておばあちゃんを家の方に呼んでいる。


「かわいい猫ちゃんですね。飼ってるんですか?」と聞いてみる。

「かわいいんだけど、ニャーニャーうるさくて・・・」と家の玄関に導かれていった。

どうやら猫の方が上手のようで、家の中におばあちゃんを誘いこみたかったようだ。


岡山の峠2 「兵坂峠(標高195m)


次の峠、兵坂峠手前から道が急に細く狭くなった。2t車以上通行不能と大きな標識が立っている。

そんなぁ、驚かしたってだめですよ、全然広いじゃないですか・・・と馬鹿にする。

自転車にとっては雰囲気のいい峠路なのだが、たしかに車にとってはかなり狭い。


静かな山道を登っていくと、小さな切通しが見えてきた。これが兵坂峠のようだ。

峠を示す標識もなければ、峠を思わせる物は何もない。

地図で調べなければ、きっとここが峠であるということもわからないだろう。


峠からの下り道はかなり狭い。やはり予告の通り、その先で車が渋滞していた。

すれ違う場所、タイミングによっては、大きくバックしなければならなくなる。あーぁ、ご苦労様です。

こちらはその横をスイスイと通り抜けて下っていく。


狭い峠道を抜けると、一気に桜満開の別世界が目の前に広がった。

周囲がパッと明るくなったかのような、見事な桜並木が続いている。


毎年、桜の開花予想は実に難しい。

できれば満開の頃に走れれば最高なのだが、今回はまずまずのタイミングだ。


花見なんてしている人はまず誰もいない。それどころか住民誰一人もお目にかかれない。

都会とは違って、誰にも邪魔されず、静かな桜を思う存分楽しむことができる。


岡山の峠3 「勝尾峠(標高228m)


一つ一つの峠は標高も低くてたいしたことはないが、次々に連続して越えていくとそれなりに大変だ。

今日は午後からのスタートということもあり、昼食もコンビニのおにぎりを適当に食べながら済ます。

立派な車道を登っていった先の分岐にあるのが勝尾峠だ。


ここも峠を示すものが見当たらないが、道路脇に小さな道標と、山側に「勝尾城跡 800m」の看板があった。

城跡かぁ、ちょっと行ってみたいがさすがに800mの往復は厳しい。


最初のトンネルで、今回初登場の「Linden 超軽量小型後方ライト FLASH on<BK-02> 」をテストする。

驚異的に小さいこの自動点灯テールライト。サドルバッグにアタッチメント式に改造してつけてみた。


本来ヘルメットにマジックテープで装着するようだが、それでは落下の心配があるので改造してみた。

スイッチオンすれば、あとは一日中何もすることなし。勝手に点灯して勝手に消える。実に便利だ。


標高は347m、そろそろ本日の最高地点に到達し、この後は自転車道をつないでゴールへ向かう。


すでに自転車道が始まっているのか、車道とおなじぐらい広い「歩道」がずっと続く。

桜を眺めながら、安心して走っていくことができる極上の道だ。


黒谷ダムでは、さらに見事な桜の競演を楽しむことができる。

近くの老人ホームの面々が、この眺めを見に来ていた。


何やら大きな日時計があるというので、施設の方に聞いてみたら、ダムの上から見えますよと教えてくれた。

さっそく見に行ってみると、巨大な丸い日時計が眼下に見えた。

仕組みはわからないが、しっかりと大きな影が時刻を示しているようであった。


岡山の自転車道1 「吉備高原自転車道」


車道を走っても快適だが、せっかくなので自転車道を行く。

快適に下っていくと、ようやく「吉備高原自転車道」の案内が現れた。


きれいに整備された自転車道ではないため、時にはこの道でいいのか? と悩むこともある。

それでも適度に路面のペイントがあるので、それを頼りに走れば迷うこともない。


今日のルートも残りが見えてきたところで、久しぶりにリモートシャッターで遊んでみる。

ちょうど桜並木が続く自転車道で、三脚とスマホをセットして構図を決める。


適当に走ってきて、手に持ったリモートシャッターボタンを何度か押して撮影する。

まあ、思った通りには撮影できないが、後でトリミングすればこんな作品が出来上がりだ。


岡山の峠4 「名越峠(標高63m)


楽しい自転車道の途中に、もう一つ小さな峠がある。事前にマークしておいた「名越峠」だ。

時間があれば立ち寄ってみようと思っていたので、一旦自転車道を離れて寄り道する。


快適な自転車道から一転、すぐに山の中に突入する。気配はかなり厳しくなり、こりゃダメか? と心配になる。

事前の下調べでは、サイクリストが峠を越えて反対側まで降りているので、なんとかなるだろうと思っていた。


峠直下までやってくると、もう自転車を押し上げなければならないほどの山道になってしまった。

見上げると峠のピークが見える。ここまで来たらなんとかピークまで担ぎ上げたい。

しかし、大きな倒木と滑りやすい足元、そして平凡なワークマンシューズでは相当大変。


ここで余計な時間を使うわけにいかず、この峠は自転車を置いて空身で登っていく。

一応峠を越えたことにして写真を撮ってくる。峠には大きなお地蔵様が置かれていた。

周囲の展望は全くない。そして、まずこの峠を越えようと思う人はいないだろう、と思った。


名越峠から戻って、再び自転車道を行く。

山岳仕様の準備をしてくれば、問題なく越えられた峠だったが、ランドナーのお散歩仕様ではやはり厳しかった。


おかげで無駄な時間を費やすことなく、本来のルートに戻ってくることができた。

やっぱり、のんびりと綺麗な自転車道を行くほうがいい。初日から無謀なことはしない方がいい。


平和な眺めが続く。広い大地、緩やかな山並み。まっすぐな自転車道に桜並木がずっと続く。

何一つ音が聞こえない静かな大地の中をのんびりと走る。

地図を見れば備中高松駅が近いので、パスモの処理を済まそうと立ち寄ってみるが、ここも無人駅だった。


岡山の自転車道2 「吉備路自転車道」


吉備路自転車道を走るのは2度目だ。10年前に来た時は、この広大なポタリングコースに感動したものだ。

本日の宿まであと15km。最後の1時間少々は、昔を思い出しながら自転車道を楽しむとしよう。


と、思っている所に、レンタサイクルに乗ったカップルがやって来た。

なんだよ、独り占めかと思っていたのに邪魔が入ってしまった・・・とよく見ると外人さんだ。


すぐに立ち止まって気持ちよく挨拶してきた。

「コンニチワ」「こんにちわ〜」


「Where are you from?」と聞いてみる。(これぐらいは話せる) 「ブラジル!」「えっ?ブラジル!」

「ワタシノオネエサン」と紹介してくれる。てっきり恋人同志かと思ったら、姉と弟のペアだ。


同じ自転車同志ですぐに打ち解けて、そのあともめちゃくちゃな英会話で質問してみた。

なんで、日本のここへ来たのか(もっと他にいろいろとあるだろうに・・・)と聞いてみると・・・

「ソウジャ・・レンタサイクル・・」と、総社駅でレンタサイクルを借りてきたと・・・うーん、うまく伝わらず。


皆同じ方向へ向かうため、先に行ってもらってもすぐに追いつく。

追い越して写真を撮っていると追いつかれる・・・という具合にしばらくは抜きつ抜かれつの状態。


NIKONのカメラをぶら下げて、日本の美しい風景を撮影しまくっている。

二人が一緒の写真がないだろうと思い、国分寺をバックに二人の写真を撮ってあげた。

「ドウモアリガトウ!」と感激して、ようやくこの二人とお別れ。しかし実に楽しいひとときであった。


午後から走り始めたにしては、実に充実した一日だった。

登りが少なかったおかげで、距離も60kmに達し、小さいながら峠も4つ越えることができた。

最後は素敵な自転車道で国際親善にも貢献できたし、何もかもうまくいった一日だった。


宿へ向かう途中、東総社の駅に立ち寄るが、またしてもこの駅も無人駅。どこか駅員のいる駅ないんですかね?

さあまもなくゴールだが、本日の宿、とんでもない高台に位置している。


なんと一気に70mも登らされる。わかっていたとはいえ、最後の登りゴールは相当辛い。

結婚式場を兼ねた本日の宿は豪華だ。きれいなイルミネーションに雰囲気も最高だ。


宿泊客も少なく、静かなレストランで贅沢な料理を満喫する。

高台だけあって、さすがに展望が素晴らしい。大浴場からの眺めは、ちょっとした街の夜景を楽しめる。

天気も良かった。コースも素晴らしかった。やっぱり岡山県のツーリングは大好きだ。

 

距離: 60.5 km
所要時間: 5 時間 50分 00 秒
平均速度: 毎時 10.3 km
最小標高:  32m
最大標高:  362m
累積標高(登り):  630m
累積標高(下り):  574m

(2023/3/29 走行)


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