峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’2023 >  下北半島・恐山・薬研温泉・あすなろライン



2023年6月7日(水)


下北半島ツーリング2日目。今日が一番ハードだ。距離は約60km、獲得標高はたぶん1000mを越える。

若い頃ならなんてことないコースだが、飲兵衛おじさんチームには、なかなかつらい一日になりそうだ。


プランニング段階から、2日目は早めにスタートしないとならないと思っていた。

昨晩は散々飲んだけど、予定通り8時にはホテルを出ることができた。


大湊駅の駐車場に車を置く。注意書きを読むと、なんと7日間は大丈夫だ。凄い! ちょっと驚いた。

最終日はこの駅に戻ってきてゴールだ。さて、今日からの2日間、無事に走り切れるだろうか?


走り始めていきなり怪しいおじさんに出会った。何やらお宝が眠っていそうな雰囲気。

看板をよく読むと、「自転車」の文字もある。さっそく尋ねてみた。

「何か自転車に関係するものありますか? たとえばサドルとかブレーキとか・・・」
「うーん、ないね」
「あっそうですか・・・」

何やら金属関係がお好きなようでしたが、残念でした。


いよいよ恐山への登りが始る。深い緑に覆われた、静かな山道をゆっくり登り始める。

6月のこの時期は、とにかく山の緑と春ゼミの鳴き声が美しい。

車に邪魔されることなく、道幅一杯に使って登っていく。


恐山街道に合流すると、勾配も一気にきつくなってくる。道路の傍らに、「丁塚石」が現れてくる。

約100mごとに設けられていて、次は「七拾丁」「六
九丁」 とカウントダウンしていく。

最後まで
丁塚石が置かれているのかわからないが、これが登りの目安にもなる。


日差しが暑く、木陰を求めて道路の右側を走ったほうが涼しい。

勾配もきつくなったり、少し緩くなったりと変化する。そして11%の標識も現れる。

さすがに11%の坂はきついが、車が少ないおかげでなんとか降りずに登っていける。


それにしても下北の道路はどこも広く、そして舗装がきれいだ。荒れた路面はどこにも見当たらない。

この地方特有の事情があるのだろう。大型車が難なくすれ違える道幅がある。


遠くから見ると
壁のような登りに絶句することがある。まともにまっすぐには登っていけない。

皆さん苦労している中、私のスーパーローギヤは一直線に登っていける。

もういい歳ですから、もっと軽いギヤを使ってクルクル回して登りましょうよ。


仕事で忙しいY氏は、走行中に何度も会社から電話が入る。

何もこんな時まで・・・とは思うものの、今判断、決断しないといけない用件があるようだ・・・大変ですね。


標高250m付近、いよいよ押し始める。時折通り過ぎる車も唸って登っていく。

その先に大きな一本杉が視界に飛び込んできた。幹周はどれぐらいあるのだろう、と測ってみる。


恐山への最後の登り。再び壁のような坂が現れる。

登り方も三者三様だ。撮影しながら見ていると、いろいろと特徴が表れて面白い。


ダンシングで一気に登る「Y氏」。

道幅いっぱいに使って、ローギヤで蛇行しながら登る「U氏」。

ギヤ比はノーマル、ハンドル下を持ってしっかり踏んで登っていく「K氏」。


私はスーパーローギヤで、高回転で一直線に登りきる。

さて、あなたはどのタイプがお好きですか?


標高373m付近でピークを迎え、宇曽利山湖まで一気に160m程下る。


湖が見えてくると、周囲に硫黄の臭いが漂い始めた。一気に別世界に飛び込んだかのような変化だ。

昔の写真を探したら、仲間が1974年8月にキャンピングでここへ来た時の写真があった。


三途の川を渡る「太鼓橋」は昔のままだが、老朽化が進み2018年5月から渡れなくなっているらしい。

現在、石造りの太鼓橋を新設するためのプロジェクトが進行中のようだ。


ここへ来るのは2回目。

前回はカーサイキャンピングだったので、自転車で走ってきたのは今回が初めてだ。


到着するなり、急に天気が悪くなり始め、雨雲が広がり雷も鳴り始めた。

ちょうど見学している最中に雨雲が通り過ぎてくれればいいのだが。


最初に来た時は、ここは人の住む世界ではないと直感した。

その異様なまでの世界、雰囲気、景色、色合い、臭いなどに度肝を抜かされた。


ドキュメント72時間でも「恐山」の番組を放送していた。

帰宅してからあらためて見直すと、様々な人の、様々な思いが入り混じった場所であることがよくわかる。


恐山

比叡山・高野山とともに日本三大霊山といわれる恐山。
地元では古くから「人は死ねば恐山に行く」と言い伝えられてきました。
外輪山に囲まれた霊場は、外部からは見ることのできない途絶された場所。
三途の川にかけられた太鼓橋を渡って霊域に入ると、死後の世界のような風景が広がります。
極楽浄土を思わせる美しさの極楽浜、硫黄臭が立ち込める地獄谷、荒涼とした無間地獄、血の池地獄…。
賽の河原には亡くなった幼い子供を弔うために両親が積んだ石や、くるくるとまわる風車があり、もの悲しさが漂います。

https://aomori-tourism.com/spot/detail_47.html


日本三大霊山の恐山は、「地獄の風景と極楽の風景が広がる、あの世に最も近い場所」と紹介されている。

歩き始めると昔の思い出が蘇る。1997年当時とほぼ同じだ。

歩けど歩けど地獄の世界が目の前に広がる。


風に吹かれて静かに回る風車が、あまりに不気味で物悲しい。その数は無数にある。

水子供養では、しっかり回る風車、全く回らない風車。何が違うのだろう、と考えてしまう。


それに比べて極楽浜は、真っ白な砂浜が広がる別天地だ。

前を向けば「極楽」、後を振り返れば荒涼とした「地獄」が広がっている。ちょうどここが境目なのかもしれない。


宇曽利山湖の水は、エメラルドブルーに輝く、実にきれいな水だ。

砂浜に座り遠くを見つめる人。ここへ来る人は、ここで何を思い、何を祈るのだろう。


雨がパラパラと降り始め、極楽浜を後にする。

帰り道には色んな地獄が待ち構える。どれにも関わりたくないので、足早に通り過ぎる。


雨雲レーダーを見ると、あと30分程で雨雲が通り過ぎようとしている。

時刻は12時前だが、ここの食事処で早めの昼食を採って天気が回復するのを待つことにした。

「蓮華庵」に入ると中は広々としているが誰もいない。


メニューはシンプルな物ばかりで、うどん、そば、カレー、ラーメンなどだ。

残念ながら食後もまだ小雨が降っている。しかたなく、雨具を着て走り出す。

まあこの程度の雨なら許せる範囲だ。早めの昼食を採ったおかげで、時間的に余裕が出来た。


下北半島の食事事情

今回の2泊3日のツーリングで、一番頭を悩ませたのが、食料調達と食事処の難しさだった。

毎日のコース上には、1〜2軒の食事処しかない。また食料品店などは皆無だ。

ましてやコンビニなどあるはずもなく、なんと自動販売機すら見当たらない。


今日のコースも事前に食事処を確かめ、電話をして営業を確認してきている。

定休日以外でも突然休業する場合があるので、電話をしなければ安心できない。


今日はこの先の、奥薬研修景公園レストハウスで食事する予定であったが、雨のため変更となった。

そして明日もまた、食料事情で大いに悩むことになるのであった・・・


恐山からは、小雨の中の登りにしばらく耐えて走る。眼鏡に水滴がついて前が良く見えない。

下りになれば濡れた路面が気になる。

しかし、舗装がいいのと、道幅が十分確保されているので、あまり怖さは感じない。


そして天気も急回復し、太陽が戻ってきた。すぐに雨具を脱いで、蒸れた体を冷やす。

早めの昼食を採った影響で、すでに空腹感に見舞われる。カレーライスだけではカロリー不足だ。

ピークまであと登り30mというあたりで、後続と差が開いてしまったので小休止する。


自分のフロントバッグには、昨日食べきれなかったコンビニのおにぎりがちょうど4つ残っている。

非常食用に取っておいたのだが、ここでエネルギー補給と軽量化を兼ねて皆でいただくことに。

万が一のために多めに買っておいてよかった。これで最後の登りもなんとかなる。


13:30 本日の最高地点、標高464mのピークに到着。さあ薬研温泉まで約400mのダウンヒルだ。

まだ路面も濡れているので慎重に下っていく。


対向車が全く来ないので下りやすい。

そして見通しも非常にいいので快適なダウンヒルを楽しめる。


綺麗な路面の快適なダウンヒルを楽しんでいたら、前を走るU氏の後輪からエアーが抜けた!

なに? こんないい路面でパンク? と一瞬何が起きたかわからなかった。バルブだな、こりゃ、っと思った。


さっそく修理にとりかかる。ホイールを外してタイヤをチェック。しかし異常なし。

何も刺さっていないし、接地面にも異常は見当たらない。しかしチューブにはしっかり穴が開いていた。

うーん、わからない。リム打ち? この路面で? まさかぁ。しょうがない、とりあえずチューブ交換だ。


先行の2名はそんなことに気付かず、どんどん下っていく。無理もない、この下りなら。

携帯で連絡するが、なんと圏外だ。こんな時に圏外とはついてない。仕方ない、直して追いつくしかない。


雨上がりの蒸す中、日陰もなく汗をかきながらパンク修理完了。しかし・・・

修理後、走り出して1.7km程下ったところで、なんと再び後輪がパンクだ! えっ、何だって?


これはさすがにおかしいと自分も緊張するが、先行する二人が気になって仕方がない。

すでに相当遅れているので、先に行った二人もさぞかし心配しているだろう。


650Bのチューブも予備がない。残念ながら、今回私は700Cだ。

それではチューブを修理をするということで、その間に自分が先行の二人を呼びに行く。


距離1.5km、標高差50m下ったところで二人は首を長くして待っていた。

事情を話して、全員でU氏の現場へ登り返す。


タイヤをリムから外してようやく原因が分かった。タイヤサイド、ビードのすぐ上あたりが擦れて破けている。

どうやらブレーキシューでわずかに擦っていたようで、薄いタイヤサイドに穴が開いてしまったようだ。


最初のパンクで、タイヤサイドまでよく調べなかったのが失敗だった。しかし、まさかの原因だった。

修理は例によってタイヤブートを貼って完了。今度こそ大丈夫だろう。


早めの昼食で稼いだアドバンテージもここで消化してしまった。

次に何かトラブルがあると、そろそろ厳しい時間になってきた。


ようやく薬研温泉まで下ってきた。ここは1997年8月に来たところ。

奥薬研温泉からの、東北自然歩道をぐるっと周回できるショートコースが面白い。

今回も東北自然歩道の入口だけでも覗きたいと、ちょっと寄り道してみた。


橋を渡るとすぐに昔の林鉄跡が残っている。前に来た時は、このレール跡を辿り、小さなトンネルを抜けた。

ワクワク・ドキドキする自然歩道で、誰にも教えたくないぐらいの魅力あるトレッキングコースだ。

しかし今思うと、「熊出没注意」の看板もあちこちにあるし、よくまあ一人で走ったものだと怖くなった。


お決まりの、やらせ写真を何枚か撮って退散する。

本当はもう一度走ってみたかったが、もうここに来ることもたぶんないだろうなぁ。


奥薬研温泉から先は、十和田湖の奥入瀬渓流のような爽やかな道筋だ。

雨が降ったおかげで水量も豊富で、なかなか素敵な雰囲気だ。


15:38 残りの距離はあと21km。本日最後のピークまであと240mの登りだ。

佐井村へ通じるこの道は「あすなろライン」と呼ばれている。

この道もさらに綺麗で完璧だ。まだ新しいのだろうか、舗装もペイントも真新しい。


たまに大型ダンプが通り過ぎる。何か工事中なのか、まだまだ整備中なのだろうか。

それにしてもデコボコがひとつもない、まるでサーキット場のような美しい路面が続く。


あまりに変化がなく、緩い登りや平坦路が延々続いてくると、さすがに気合も入らず、なんと「飽きてくる」。

「眠くなりますね〜」「何か動物出てこないかなぁ?」なんてY氏が呟いている。


16:45 本日最後のピークに到着。これでもう登らなくていい。あと10kmでゴールだ。

「この先山岳道路 急な下り坂と急カーブが続きます。走行ご注意下さい」との注意がある。

日が長い時期なので、時間的にはまだまだ余裕があるが、17:30までには宿に到着したい。


実にいいダウンヒルだった。確かに注意書き通り、急カーブが続き、道幅も狭い所も多い。

車にとっては走りにくい道だが、自転車にとっては最高に気持ちのいいダウンヒルだ。

深い緑のトンネルを一気に下っていく。車に出会うこともほとんどない。


ダウンヒルの最中、こんな景色に出会った。

確か昔のニューサイの表紙に似たようなシーンがあったはず。ちょっと真似して1枚撮ってみた。

その間も皆さん先に行ってしまって、すっかり姿が見えなくなってしまった。


無事に下りきって佐井の村へ降りてきた。

長い長い無人地帯を抜け、ようやく人の姿を見る と何だかホッとする。

事前に調べておいた、この村唯一のスーパー? コンビニ? へ向かう。


7・10という店舗で、「なないちまる」と読むようだ。

二次会用の酒とつまみを仕入れて、本日の宿へ向かう。


「民宿みやの」という宿は、下北を旅する人にはかなり有名なようだ。

自転車雑誌でもここが紹介されている。とにかく料理自慢の宿なのだそうだ。


駐車場にはすでに車と、大型バイクが停められている。

我々の自転車は、物置を片付けていただいて中に入れさせてもらった。


民宿なんて久しぶりだ。というか、民宿ぐらいしか泊るところがない。

いつものツーリングみたいな、温泉宿で豪華三昧というパターンではない。


しかしご覧の料理を見ていただければ、この宿の人気ぶりがわかる。

泊り客も全部で5組ほど、20名ぐらいだろうか。平日にもかかわらずこの人気は凄い。


民宿みやの(ホームページより)

大間産の本マグロをお一人様 宿泊料金込み8千円で提供しています。
その他、時期や漁の具合にもよりますが、うに、アワビなど旬の食材をお出しできます。
ご予約の際にご確認、お申し出ください。


食べた食べた。飲んだ飲んだ。昨日に引き続き、今日も満腹だ。

いつもは完食の自分も、最後に出されたイワナのフライは食べきれず、明日のお土産にすることにした。

部屋に戻って二次会・・・のはずが、さすがにもう無理。


買ってきたウィスキーとつまみで軽くいきたいところだったが、皆さんもう動けず。

U氏一人で飲んでたが、さすがに食いすぎです。もう無理。


長い1日だった。色んな事があった。雨に降られ、トラブルもあった。

それにしても下北は想像以上の無人地帯だ。

しっかり事前調査し、十分な装備をしていかないと、かなりリスクの高い所だと感じだ。

距離: 61.3 km
所要時間: 8 時間 53分 50 秒
平均速度: 毎時 6.9 km
最小標高:  0m
最大標高:  464m
累積標高(登り):  1068m
累積標高(下り):  1072m

(2023/6/7 走行)


峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’2023 >  下北半島・恐山・薬研温泉・あすなろライン