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下北半島ツーリング3日目。

最終日の楽しみの一つが、遊覧船で行く「仏ケ浦」めぐり。


今回のツーリングの企画段階から、これが最終日のメインイベントとなっていた。

「仏ケ浦」へ行くのは初めてだ。写真を見るとそのダイナミックな景観に魅了される。


さて、旅の直前になって遊覧船の運航スケジュールを確認すると・・・あれ? 9:00便がないんですけど!

予定では、9:00便に乗って、10:30に戻ってきてから走り始めるつもりだった。


10:30に戻ってきても、ゴールまでの70km以上のコースは完走ぎりぎりの時間。

しかし10:30の便に乗ったらもうアウトだ。えぇ〜?、いったいどうなってんですか? 

やっぱり電話で確認ということで電話してみると、9:00便は団体向けの運行だそうだ・・・どっひゃぁ〜


それじゃ船は諦めて、「仏ケ浦」まで走って行って海岸までの遊歩道を往復しますか? と考える。

しかし車道から海岸までの往復は、ご覧の通りかなりの標高差がある。

ここの往復だけでも40分程度かかるらしく、特に登りは相当きついらしい。


検討の結果、残念ながら「仏ケ浦」観光は中止せざるをえなくなった。

まぁ、またいつかきっと見に来れる機会もあるでしょうと諦める。


それじゃあ、もう一つのお楽しみ、仏ケ浦ドライブインの「うに丼」だ。

下北半島の食事処はかなり限られる。地図上にマークしてみても、ほとんど大きな町にしかない。

この佐井村周辺も、本当に数えるぐらいしか食事処がない。


事前にそうした状況を把握していたので、出発前にもここへ電話して営業の確認をとっておいた。

しかしちょっと気になったのは、「当日の漁しだいで何時に営業できるか・・・」みたいなことを言っていた。

とりあえず当日朝に電話しないと確実なことはわからない、ということであった。


ここもダメとなると、その先の「道の駅かわうち湖」まで頑張って走るしかない・・・が、なんと当日は定休日だ。

道の駅に定休日なんてあるんだ、いったいどれだけ秘境なんだと、衝撃!

こうなると、本当に何も食料が手に入らない危険がある。


そこで、グーグルストリートビューを駆使して、民家がある辺りをくまなく調べ上げた。

小さな商店らしきものを見つけたら、ネットで調査。現在も営業しているのかをチェックする。

そうした大変な努力の結果、2、3軒の食料品店を見つけた。しかし、都合のいい場所にあるわけではない。


こうなると、佐井村唯一のコンビニ? 7・10(なないちまる)が最後の頼みの綱となる。

とにかく、下北の食事事情には相当参った。これほど何も手に入らない地域とは思ってもいなかった。

そしてこの後、予想通り「食糧難」に遭遇するおじさんたちであった。

 


2023年6月8日(木)


昨日は風呂で、大型バイクの方と楽しくお話しした。

見たこともない3輪バイクのことを色々聞いてみた。なんと、カナダ製らしい。

いやぁ凄いバイクですね〜。もう、バイクではなく車並みの大きさだ。


そしてもう一台は逆輸入車の「SUZUKI GSX1300R隼」。どちらも桁違いのバイクだ。

自分も若い頃、「GSX-R400」に乗っていたので、なんとなく親しみを感じる。

そんな超絶バイクの傍らに、我々の”超絶ランドナー”も並んでいた。


さて問題は、「うに丼」が食べられるかどうかにかかっている。

民宿の女将とドライブインの店主とは知り合いなので、直接電話してもらうと・・・・


「もしもし●●ちゃん?」「今日営業何時からするの?」「楽しみにしている人が4人いるんだけど」

「えっ!! 今日はやらないの? これから出かけるの? ほんとぉ〜 あら〜 残念・・・」


という結末になった。またまた衝撃が走る。

もう、何もかも予定通りにいかない。変更変更の連続だ。


ということで、7・10(なないちまる)へ直行する。今日はどこかでランチタイムとするしかない。

7・10へ行けばお弁当やおにぎりなどがあるでしょう・・・が、ない! 都会のコンビニとは次元が違う。

我々が手に入れられたのは、菓子パンと缶詰だけ。


贅沢を言っている場合ではなくなった。残り少ない菓子パンを、賞味期限も気にせず買い占める。

全部で10個程かごに放り込む。4人もいればこれでも足らないかもしれない。さらに缶詰も適当に放り込む。

宿でもらったクーポン券をここで使って、とりあえず佐井村にかなり貢献してきた。


手に入れた食料を手分けして4人で分ける。いきなり朝から荷物が増えて一苦労だ。

さらにクーポン券が余っているので、佐井港の土産物売場でこんなお土産を買い、さらに荷物が増える。

フロントバッグもはち切れそうだ・・・これでスタートか・・・大丈夫かな今日一日。


最終日の前半は海岸線の「海峡ライン」を行く。

いきなり真っ青な津軽海峡が広がってきた。さすがにどこまでも広く大きい。そして海が碧い。


朝から快晴で日差しが強い。そしてアップダウンの多い海岸線は結構疲れる。

美しい海だ。海面を覗いてみると、どこまでも透き通るような綺麗な海が広がっている。


昨日は恐山から薬研温泉、佐井村へと深い山の中に一日いた。

今日はまったく別の世界に来たような明るい眺めが広がっている。

山の中から海へ出ると感動もまた格別だ。下北は秘境だが、大自然が至る所に残っていると感じる。


信号も無ければ走っている車もいない。ましてや歩いている人や自転車に乗っている人などまずいない。

小さな集落だが、住民は皆どこにいるのだろうかと思うほど、無人で静かだ。

珍しく青森県警察のパトカーが通り過ぎて行った。何か言われるかと思ったがそのまま行ってしまった。


その先に表れたのが「東出商店」。これ以降食料は何も手に入らなくなる。

ネットでもここが最後の補給地と紹介されていた。

すでに菓子パンと缶詰で満たされているので、とりあえず何も必要がない。


走り始めて約7km。日陰を求めて走る、”サイクリンググラサン集団”。

まだまだ前半戦だが、すでにいい具合に脚に来ている。まだまだこの先70km近く残っている。


遠路はるばる車で移動してきて、3日目のツーリング。仕事の電話も何本もかかってきて大忙し。

今日のゴール後、再び車で帰るというのだから、この体力・気力はどこから来るのだろう?

何度も一緒にツーリングに行っているが、本当にタフで変わらぬスタイルを貫き通すサイクリストだ。


見事な絶景に思わず足を止める。

前方に見えるのは、仏ケ浦に至る八柄間山だ。あの山の向こう側が行きたかった仏ケ浦になる。

遊覧船は、この辺りの海岸線を海から見上げながら仏ケ浦へ向かうのだろう。やはり見事な眺めが続く。


海岸線のアップダウンは、じわじわと効いてくる。長後の村を抜けると、なんと標高200mまで登らされる。

これがあるから海岸線は馬鹿にできない。距離以上に体力を使い消耗してくる。

気温も高く、ボトルの水もどんどん減っていく。そうして、やっとの思いでピークを越え下りに入る。


そしてまたトラブル発生だ。

快適に下っている時、再び私の目の前でU氏の後輪がパンクした・・・昨日とまったく同じ状況だ。

さすがに今日は驚きもせず、冷静な対応をとる。あとわずかで下りきるので、そこまで押して下って行く。


自分は先行した二人を追いかけて、U氏が歩いて下ってくるのを待つことに。

原因は同じ。ダウンヒルの下りでブレーキをかけることで、いまだに微妙にタイヤを擦っていたようだ。

詳しく点検すると、昨日の修理箇所とは違う場所がやはり擦れて切れている。


同じようにタイヤブートを貼る。そしてブレーキシューの調整だ。

まだ先は長い。ここで走行不能になってしまったら、帰る手段は何もなくなってしまう。

それにしても不運が続く。もうこれで最後にしてくれと願って走り出す。


唯一の食事処、仏ケ浦ドライブインとぬいどう食堂。どちらも閉まっている。

たまたま訪れた観光客の車も、なんだよ・・・という感じでがっかりしていた。


さて本日のコース、一番の難所がここからの登り。一気に350m程登ってピークを迎える。

時刻は11:20 そろそろ空腹になってくる時間だ。


お腹がすけば力が出ない。徐々にパワーも落ちてきてペースも上がらない。

このままではまずいと思い、時間を決めて12時ちょうどまで登って、そこで昼食にしようと決定。


暑い、とにかく暑い。日陰を探して右へ左へと蛇行する。右側通行なんて気にしてはいられない。

そして10%勾配の標識が現れる。今日の10%はかなり体にこたえる。


こんな山道でも相変わらず綺麗な路面がずっと続く。本当に道路事情は文句なしだ。

そんなゼイゼイ言いながら登っている最中に、また尻屋崎でみかけた「ニホンアナグマ」に出会った。

今度はバッチリ写真に収めることができた。こうしてみると、結構かわいい顔をしているものだ。


12時ちょうど、道路脇に大きな日陰があったのでここでランチタイムにする。その横を観光バスが通り過ぎる。

時間を決めて正解だった。ピークまで頑張っていたら、たぶんハンガーノック状態になっていただろう。

もう汗だくだ。額からは汗が流れ落ちる。帽子もタオルも汗でびっしょりだ。


買ってきた食料を全部並べて、「バイキング」状態だ。と言っても、菓子パンと缶詰と酒のつまみだけ・・・

菓子パンもこの暑さでチョコレートが溶け始め凄いことになっていた。

まあ久しぶりに貧相なランチタイムだった。それでもお腹も満たされて、最後の登りに耐えられそうだ。


パワーも戻って、ピークまで残り140mを順調に登りきる。

さあ、これでもう大きな登りはおしまいだ! あとはゴールの大湊駅まで下り基調が続く。


何度も言うが、とにかく道がいい。思わず色んな写真を撮りたくなる。

車も来ないので、道路のど真ん中に自転車を置いて、こんな写真も撮ってみた。


この下りも絶品だ。適度な勾配が、素晴らしいダウンヒルを演出してくれる。

こんな素敵なワインディングロードなら、バイクツーリングも多いかと思うが、一台も見かけない。

バイクでこの地へ来るまでが大変、帰るのも大変。だから誰もいない。そんな気がする。


快適な下りがまだまだ続く。佐井村とはこんなに素敵な所なのかと気が付く。

道路脇の案内板には「日本で最も美しい村 佐井村」と書かれている。

なるほど、確かにここに至る道筋は、この言葉が嘘ではないことを実感する。


道の駅かわうち湖まで下ってきた。
周囲を緑に覆われた美しい湖だ。

道の駅は定休日だが、ようやく自動販売機に出会う。ここまで水の補給さえ困難だった。


陸奥湾に出るまでも本当に快適な下りだった。標高が高くない割にはかなり下った感じがした。

国道338号線に合流すると、道路事情は悪くなってくる。交通量も増え、路面も荒れてくる。


それまでの道があまりに良すぎたために、その変化に驚くばかりだ。

それでも右手に大きな陸奥湾を眺めながらのフィナーレは、旅のエンディングに申し分ない。


車道を離れ、海岸脇の裏道を行くつもりだったが、工事中で断念する。

しかたなく、最後は交通渋滞に巻き込まれながらも大湊駅に無事に到着した。

大湊駅には売店もないので、手前のコンビニで宴会用のビールをたっぷり仕込んでおいた。


最終日はよく走った。

厳しい食料事情だったけれど、76.9kmの道のりを楽しく走りきることができた。

予定変更やパンクに見舞われてどうなるかと思ったが、何よりも無事にゴール出来てよかった。


カーサイ組は自転車を積み込むとすぐに我々と別れ、この後さらに走り続けることになる。

駅にゴールはしたものの、無事に輪行を終えて列車に乗り込むまでは緊張が続く。

暑かった3日間の旅もいよいよ終わりだ。まずは二人で祝杯を上げる。


ちょうどいい時間の列車に乗ることができた。

最後は陸奥湾に沈む夕日を、車窓からたっぷりと味わう。出来すぎのエンディングだ。


久しぶりに訪れた下北半島。

こんなお誘いがなければ、まず来ることもなかっただろう。

3日間走ってみて、あらためて下北の広さや魅力、過酷さを十分味わった。


そしてまた、人々のあたたかさ、優しさに触れることができた。

一つのテレビ番組から始まったこのツーリングだったが、終わってみれば何とも「味」のあるツーリングであった。

距離: 76.9 km
所要時間: 9 時間 1分 6 秒
平均速度: 毎時 8.5 km
最小標高:  1m
最大標高:  356m
累積標高(登り):  857m
累積標高(下り):  858m

(2023/6/8 走行)


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