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2023年11月12日(日)


秋の紅葉・温泉クラブラン二日目。心配していた天気も奇跡的に大ハズレ! なんと青空が広がってきた。

今日はこのツーリング最大の目的、「会津銀山街道」へ挑戦する予定だったのだが・・・

すでに昨夜の時点で全員戦意喪失。この寒さと、悪路の状況を考えると諦めるしかないとの結論に。


本当に吉尾峠を越えるのなら、徒渉を前提とした担ぎ覚悟のスタイルで行かないと危険だろう。

再度プランニングし直し、あらためて挑戦したいと思う。


ということで、のんびりゆっくりの朝を迎えた。

まずは出発前のお約束、愛車鑑賞会だ。各自の自転車、もう見飽きるほど見ているが、それでも話題が尽きない。


のんびりスタートなので、皆で楽しく記念撮影。

銀山街道を諦め、ショートコースプランに変更したので笑顔の余裕だ。時間もたっぷりある。


円陣を組んで朝礼だ。せっかく集まったメンバーだが、二日目で各自別行動になってしまう。

三日目まで走るメンバー、車のデポ地へ戻るメンバー、ダムカード集めメンバー、只見線「乗り鉄」メンバーなど。


ゆっくりとしたスタートで宿を後にする。

しかしこの時、ちょっとしたアクシデント発生。後を走っていたメンバーのテールライトが・・・


左の写真ではしっかりガードに付いているが、この先ですぐに落下しているのに気が付いた。

すぐに回収しに戻ったのだが・・・車に踏まれてぐしゃぐしゃに・・・あぁ、かわいそうに。

後方で撮影していた自分も落下物に気が付かず。申し訳ない。


走るメンバーは、まず食料調達だ。とにかく会津地方はコンビニが少ない。

ここも事前に調べておいて、商品の搬入時間まで電話で聞いておいた。

電話した時に、「10人ぐらいでお伺いしますので・・・」と言っておいたので、多めに発注してくれたかもしれない。


店内には都会と変わらぬ、おにぎり、サンドウィッチ、お弁当が豊富に並んでいる。

「これは私が発注したんですよ!」と皆に自慢する。

ここでカーサイメンバーとお別れ。本体組は6名になった。


今日のコースは、こんなこともあろうかと事前に考えていた、松坂峠〜四十九院峠〜湯倉温泉へと変更する。

距離も30km少々とポタリング並み。昨日とは打って変わって極楽コースだ。


コンビニの店主に地図で道を解説してもらって、やっと本当のスタート。

ひょっとして今日は雨の一日になるのではないかと心配だったが、全くその気配なし。


やっぱりこういうのんびりムードが好きだなぁ。

標高差や通行止めを心配し、日没や時間に追われるツーリングは心休まらない。


最初の峠、松坂峠の入口に差し掛かると、さっそくこんな看板に出くわした。

通行止めではないが、大型車は厳しそうだ。こんな程度じゃ我々には問題外と通り過ぎる。


「会津の峠」には次の様に松坂峠が紹介されている。

「頂上は300メートルにわたって平坦であり、ミズナラ、朴、栃、楓などの落葉喬木が茂り、南会津側は、小灌木、萱原、
それに落葉松や杉の植栽地が開け、住民の生活圏が頂上まで及んでいて、軟かな親しさがある。」

標高は600m少々。さて、いったいどんな峠なのか楽しみだ。


小さな峠なのでほとんど期待もしていなかったのだが、実に素敵な峠路が続く。

綺麗な路面とゆったりとした道幅、全く車が通らない静寂さ。そして予想外の好天に気分は上々だ。


登り始めて20分少々で勾配が緩くなった。どうやらこの辺りが峠に近い。

すると前方の道端で、4人家族が楽しそうにランチタイムの様子だ。


さっそく近寄って話しかけてみた。

「こんにちわ! ここは峠ですよね?」「そう、松坂峠です」

「何か標識みたいのありますか?」「何にもないですね」


「ここは、きのこの名所で、山見るとわかるけど、きのこ一杯でしょう!」「うわぁホントだ!」

と、ここからきのこ解説の始まり始まり〜 そこへ全員集まって賑やかな談笑が始まった。


ご覧の通り、一瞬目を疑うほど大きなきのこが木の幹に生えている。ちょっと不気味なほどだ。

これは「むきたけ」という種類のきのこだそうで、炒めたり、鍋に入れると最高だそうだ。

袋一杯に採った「むきたけ」「なめこ」を見せてもらい、食べ方を詳しく教えてもらった。


素人目には恐ろしくて絶対に手を出せないきのこだが、これだけ自信もって説明してくれれば食べてみたくなる。

よし、醤油は持っているからちょっと試してみますか?


地図上の松坂峠は、そこからすぐ先の林道との分岐地点だ。

残念ながらこのピーク付近は展望がない。ちょっと下ったところが展望が開けると教えてもらった。


手の届く所の「むきたけ」を少々採って、展望のいい所へ向かう。

しかし立派なきのこだ。とにかく大きくて肉厚だ。これを焼いたら本当に美味しそう!
(マジ大丈夫でしょうね? 峠でバタバタと倒れたらシャレになりませんから・・・新聞に載っちゃうよ!)


少々下ったカーブ地点に、展望が開けた絶好のランチポイントがあった。(会津の峠にも書いてある)

峠の本で紹介されていた「山の神」の小さな洞もちゃんと残っている。


時刻はちょうど12時。きのこも手に入ったし、楽しいランチタイムの始まりだ。

昨日は寒さに震えながらのランチタイムだったが、今日は最高のロケーションだ。


すると先ほどの家族がすぐに車で降りてきた。

「さっそく”むきたけ”採りましたよ。今からいただきます!」


「本当はバターで炒めて、最後にお醤油をかけると最高においしいよ!」と笑顔を残しながら去って行った。

とても愉快な、そして優しい皆さんでした。


いよいよチャレンジ。たしかに名前の通り表面がきれいにむける。

料理長がさっそくナイフで切って炒める。まあ色んな小道具を持っているのでやることが早い。

そしていい色に炒めた”むきたけ”の出来上がり! 見るからに美味しそうだ。


皆で試食する。いまだに心配は尽きないが、口に入れた瞬間、「うめぇ〜〜!」と絶賛。

間違いない美味しさだ。これは焼いても、鍋に入れても美味しいでしょう。


思わぬご馳走に皆大喜び。こりゃもっと採って持って帰ろうと、さらに周辺から採ってくるほどだ。
(本当に大丈夫なんでしょうね? といつまでも心配だったが、その後何も起こらなかった)

前菜のむきたけを美味しくいただき、あとはいつものように各自バラエティに富んだメニューを披露する。


ウィンナーがいい香りをまき散らし、あれやこれやおいしい臭いがぷんぷん。

これじゃ熊さんがやって来ちゃうよ!


「会津の峠」を読むと、この松坂峠は、戦乱と災禍に見舞われた場所だそうだ。

豪雨により麓の村は消滅し、戦乱により多くの犠牲が出た。

峠の小高い丘に祀られている小さな洞は、そうした歴史を物語る。


峠の下りも実に素晴らしい。

たった600m程の小さな峠にもかかわらず、なんだろうこの充実度、完成度は。

ダイナミックな下り、走りやすい峠道。「なかなかいいじゃない松坂峠!」と全員ベタ褒めだ。


こんな真下を見下ろすほどの所を下っていく。ちょっとした夜叉神峠を感じさせる眺めだ。

ここだけは道幅が狭く、断崖絶壁を下っていくスリリングなダウンヒルだ。


いい峠だ。思わず何度も口に出てくる。

あまりの想定外の完成度に、ワクワクしながら下っていく。


下りきると道は平坦になり、広々とした山村風景が広がってくる。

ここはかつて集落があった「大岐(おおまた)」地区だ。

その先の道路脇に、大きな案内板が設置されている。さて何の案内だろう?


大岐集落跡

この地は、金山町大岐集落跡です。1969年(昭和44年)8月12日、未曾有の集中豪雨により土石流が発生し、
戸数9戸、人口45人の小さな集落を襲い、死者5人、重傷者3人、流出、全壊6戸、半壊2戸、一部破損1戸と
全世帯が壊滅的な被害を受けました。翌年、人々は住みなれた集落を離れ、横田地区に集落移転しました。


「会津の峠」にも、この豪雨のことが詳しく書かれている。

村の東側に聳える戸板山は、村の鎮護の山として人々は信仰を失わなかった。

しかし、神として信仰していたこの山が荒れた。そして部落は壊滅的な被害を受けた、と書かれている。


そんな歴史があったのかと目を疑いたくなるほと、穏やかな山里風景だ。

峠越えもやはり歴史を学んでおくべきだ。

何も知らず通り過ぎていたら、この峠の本当の姿はきっとわからなかっただろう。


さらにその先に「松坂峠古戦場」の解説も設置されている。

これだけ丁寧に歴史を解説してくれる峠も珍しい。実に親切だ。

「会津の峠」松坂峠のタイトルが、「松坂峠 −戦乱と災禍と− 」となっている理由がよくわかった。


松坂峠、何だかとっても歴史の重みを感じる峠だ。こうした解説が実に勉強になる。ありがたい。

さらにその先に、今度は「鮭立の磨崖仏」の幟が現れた。磨崖仏となれば、もちろん見学に行くしかない。


昨年、国東半島へ磨崖仏を見に行った。それはそれは貴重な体験だった。

磨崖仏とはこういうものなのかと、初めて自分の目で見て感動の連続だった。

まさか会津のこの地で磨崖仏にお目にかかれるとは・・・奇跡かと思った。


鮭立の磨崖仏

鮭立集落の背後にある洞窟の中に、会津地方でただ1ヶ所の磨崖仏群があります。
不動明王を中心とした仏像が多く修験者によって200年程前から数十年かけて、五穀豊穣、病苦退散を祈って彫られたものです。規模は小さいが製作当時は各体に顔料を施し、大変美しい磨崖仏だったと考えら
れます。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/41340a/www-wakamatsu-kensetsu56.html


国東半島の磨崖仏と比較しても遜色ない立派な磨崖仏だ。

しっかり彫られた仏像の姿が、手の届く近さで鑑賞できる。うーん、なかなか素晴らしいではないか!

やっぱり凄いぞ、この松坂峠越は。ここまで楽しませてくれるとは!


予想外の充実ぶりに、すっかり「松坂峠」ファンになってしまった。

今すぐにでも、もう一度越えてみたくなるほど満足度の高い峠だ。また来よう、絶対来ようと思った。


ここまで何とか天候も安定していたのだが、急に空模様が怪しくなってきた。

これは先を急いだほうが賢明だと判断し、次の峠「四十九院峠」へ急いで向かう。


この峠の情報はほとんどない。

峠の名前からはきっと何か歴史があるのだろうと思われるが、「会津の峠」にも取り上げられていない。

峠道は小さな丘を越えるといった感じで、きつい所もあるがすぐにピークを迎える。


登りつめた突き当りが峠になるが、地図上では右に50m程入った辺りが峠となっている。

何の標識もなく、殺風景な峠のピークだ。右手へ行けば旧道のダートが続いている。

ポツポツと降り始め、峠で一服する間もなくすぐに下り始める。


また雨具を着ることになった。それでもここまで降られずに来ただけでも幸運だ。

あとは湯倉温泉鶴亀荘まで国道を走るだけ。もう、ゴールも見えたようなものだ。

時間もたっぷりある。早めに宿について一杯やりましょう!


走っていると、ちょうどタイミングよく、只見線の列車が我々の横に現れた。

列車も「ピー」と汽笛を鳴らして我々に挨拶をしてきた。こちらも、それに応えて大きく手を振る。

列車の乗客もこちらに気が付き手を振ってくれている。


あぁ、いいものだ。只見線の復旧がこうした温かいつながりをもたらしてくれている。

一瞬のドラマだったが、小雨振る中の感動の一コマだった。しっかりと撮影し、しっかりと心に刻んだ。


やっと湯倉温泉の赤い橋が見えてきた。

何度も渡ったこの橋も、ついに御役目を終了だ。渡ろうと試みたが、バリケード封鎖されていて越えられない。


「ただいま〜」と言って宿に到着。本当にこの言葉がピッタリの、何度もお世話になっている我々の定宿だ。

勝手知ったる宿だけに、自分の家に帰ってきたかのような安心感がある。

さっそく女将が温かいお茶でもてなしてくれる。我々もすっかり名物の「常連客」となった。


鶴亀荘といえばこれ。さっそく名物の露天風呂を楽しむ。

時刻はまだ16時前。昨日の悲壮感漂うナイトランとは違い、極楽のひとときだ。


この湯に浸かっているといろいろな思い出が蘇る。

あんなことがあった、こんなことがあった。本当に色んな思い出がいっぱい詰まった温泉だ。


1993年11月に初めて訪れてからすでに30年。いつ来てもその素朴な姿は変わらない。

只見川を眺めながらの露天風呂は、大自然の中の小さな名湯といってもいいだろう。


本体組と、残ったカーサイ組、乗り鉄組が再び集合した。総勢9名の賑やかな夜となった。

今回自転車を持ってこず、只見線を制覇するという「乗り鉄」メンバーを筆頭に宴が始まる。


お互いの今日一日の話に盛り上がる。楽しみ方は走るだけではない。

列車に乗るもよし。早めに宿について寛ぐもよし。そしてきのこに挑戦するもよし。

自由な楽しみ方、自由な時間の過ごし方、そしてこうして集まる。これが我々のスタイル。


今宵も豪華な、そして心のこもった料理が次々と運ばれてくる。

とにかくこの宿の料理は絶品だ。味良し、焼き良し、おもてなし良し。とにかく贅沢の極みだ。

旬の食材を使った創作料理と、きき酒師女将がもてなす極上のひとときだ。


かなりお酒も進んできた頃、女将が突然窓を開け、部屋の電気を消し始めた。

なんだなんだ? と大騒ぎ。どうやら間もなく只見線の列車が川の向こうを通過する時間らしい。


おーそうか!只見線が全線開通して、やっとここから眺めることができるってわけだ!

なんというにくい演出。なんというサプライズ。

すぐに女将さんの実況中継が始まった。


「さぁまもなく来ますよ」「あっ来た!」「あれは違います、車です」「アハハハ」

「今駅を出ました!」「えっ、なんでわかるんですか?」「JRの人?」なんて盛り上がっていると・・・


来ました来ました! 闇の中に白く輝く只見線の列車が目の前を通過していく! 

ガラガラの車両、そしてただ光が流れていくだけだけど、何だか感動する・・・


繋がったんだ、只見線・・・そうか、これまでこの光景は見れなかったんだ。

2011年7月の豪雨以来、会津川口駅〜只見駅間は不通だった。やっと昨年全線開通した。とにかく長かった。


沿線の人はどれだけ喜んだことだろう。何度も通っている我々も、こんな感動的なシーンを見るのは初めてだった。

今日も素敵な一日だった。やっぱり会津はいい。そして鶴亀荘はいい。何度来てもいい。そう思った。


距離: 31.7 km
所要時間: 5 時間 41分 34秒
平均速度: 毎時 5.6 km
最小標高:  346m
最大標高:  626m
累積標高(登り):  308m
累積標高(下り):  406m

(2023/11/12 走行)


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