峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’2023 >  寝台特急サンライズ旅A 日田往還・伏木峠・大石峠



2023年11月21日(火)

岡山駅 〜 博多駅 〜 日田駅 


初めてのサンライズでかなり興奮した夜をすごした。

B寝台シングル平屋はとても居心地がよかった。


揺れや騒音は当然あるが、それが夜行寝台列車の魅力だ。

先月の「さんふらわあ」とはまた違う、列車独特の魅力に包まれた夜行であった。


購入した本にはこんな紹介が書いてあった。「サンライズエクスプレス 裏ワザ的な使い方」

今回自分が考えた作戦がそのまま紹介されている。


岡山で乗り換えて、さらに西へ向かえば早い時間に目的地に着けるということだ。

その岡山で下車する。するとホームはこのお祭り騒ぎだ。サンライズの切り離し作業だ。


「サンライズ瀬戸」と「サンライズ出雲」がこの岡山で切り離される。

切り離し作業のわずかな時間を狙って、鉄道ファンがホームを駆け巡る。

もたもたしていると切り離し作業が見れないし、発車に乗り遅れたりしかねない。


寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」の旅 より


自分は岡山で下車して新幹線に乗り換えるため、たっぷりと時間があるので余裕だ。

輪行袋を置いて現場へ向かう。すでに作業が始まっていて、多くのファンが集まっている。

中には女性の姿も多く、今や鉄道ファンは男女関係ないことがよくわかる。


短時間で切り離し作業は終了し、すぐに車両は動き始める。

写真を撮るのに夢中で、自分の乗る車両が動き始めたら一大事だ。何度も注意のアナウンスが入っていた。

ファンにとっては最大のイベントなのだろうが、自分にとってはただの切り離し作業にしか感じない・・・


7:15 「さくら541号」で博多へ向かう。

一気に東京から九州へ向かうには体も辛いが、サンライズで岡山乗り換えだと非常に楽だ。

やはり「裏ワザ」はオススメだ。そして新幹線で博多へ向かい「ゆふいんの森」に乗り換える。


ホームでは素敵な制服の客室乗務員がお迎えしてくれる。そしてこの美しい車両!

なんて品のいい色なのだろう。ランドナーのフレームにしたいぐらいのカラーリングだ。

この列車はハイデッカータイプの車両のため、かなり高い視線から景色を眺めることができる。


特急ゆふいんの森

天地に広がる大きな窓から景色がより楽しめるようになっている特別な空間。

座席: ヨーロッパの高原リゾートを意識したシックで落ち着いた車内。
https://www.jrkyushu.co.jp/trains/yufuinnomori/


サンライズも初めてなら、「ゆふいんの森」も初めてだ。

列車の容姿を見ただけで、その美しさに惚れこんでしまった。
そして車内はもう溜息が出るばかりの空間だ。

ちょっとこれまでに経験したことがない、ゴージャスな内装だ。


前後、上下左右、360度、田舎者のように見渡す。うわ、こんな所にこんな工夫が! ドアもお見事!

木目調の落ち着いた装飾、天井、美しい座席。日よけも純和風だ。とにかく凄い! 素晴らしい! 鳥肌!


大型荷物置場もしっかり用意されている。車内の荷物置場もかなり大きい。

自分は最後列を予約したが、デッキにはさらに広いスペースも用意されている。

外人観光客が目立つ。そして女性の乗客がとても多い。これは一度は乗ってみたくなる車両だろう。


とにかく素敵な列車だった。

まるでヨーロッパの列車に乗っている雰囲気だった。(乗ったことないけど)

10:36 日田駅に到着。降りた人はわずかだ。やはり皆さん由布院へ行くのでしょうね。


いよいよ目的地に着いた。

昨夜、21:50に東京駅を出発して、約半日かかって日田までやってきた。

時間はかかったが、全くその長さも辛さも感じない、もうワクワク、ドキドキの輪行だった。


日田往還 〜 伏木峠(標高380m)


今回の旅の始まりは、この本から始まる。

私のホームページ「峠の資料室」でも紹介しているが、この本の中に登場してくる「日田往還」からスタートだ。


文化庁 歴史の道百選
http://home.catv.ne.jp/dd/takasu/T_siryou.htm#sonota_200211


日田往還(豪商が私財をなげうって建設 日田・中津街道  大分県)

中津城下と天領の日田を結ぶ。
日田が天領になるまでには、豊臣・徳川政権を通じて幾度かの変遷を見、貞享三年(一六八六)確定した。
そして、九州天領の総元締めとして、幕府代官所が日田に置かれた。

この道は、幕府の役人が往来するだけでなく、塩や米、木材などを運ぶ経済路として重要だった。
石畳道は江戸時代末期、日田の豪商・山田常良が日田と中津間の交通、経済発展のために私財をなげうって三六〇メートルの石畳道を完成したもの。往時は、荷を運ぶ牛馬が多数往来した。
(文化庁 歴史の道百選 より)



日田往還を辿って、江戸時代からの町並みが残る豆田町から花月川に出る。

花月川沿いに伏木峠を目指す。快晴の青空がとにかく爽やかだ。

大分に来るととにかく天気に恵まれる。自分と大分県はきっと相性がいいのだろうと感じる。


次第に道は峠越えの雰囲気へと変わっていく。

緩やかな勾配、明るい陽射し。そして緩く曲がっていく道筋・・・そうだ、この雰囲気どこかに似ている。

すぐに、四国の京柱峠だ、と思った。


私の好きな峠越えベスト3に入る京柱峠。確かに、峠への道筋に似ている。

道幅はもう少し狭かったが、この雰囲気はまさしく京柱峠へのアプローチに近いものがあった。

とにかくご機嫌だった。まさか、ここであの峠を思い出すとは・・・感激である。


そしてここからが伏木峠へのメインルート。車道から石畳の山道が分岐している。

まずよっぽど好きな人でなければ、なかなか訪れることのないコースだろう。


車で来ても立ち止まることもなく通り過ぎてしまうこの山道。

よりによって、自転車でここを行くおバカさんはまずいないと思える・・・そこが魅力的だ。

もう、この入口を見ただけで心が踊るほどだ。


入口には「石坂」の詳しい説明がされている。

歴史ある「日田往還」。本当に昔はここを人馬が行き交ったのかと思うと、ただただ驚くばかりだ。


現代人にはおよそ理解しがたい人々の苦労がしっかりと刻まれている。

さっそく、その歴史の一部でも肌で感じ取ろうと石畳を押していく。


石畳の峠道はなかなかお目にかかることがない。とても貴重な道筋である。

これまでの峠越えの中で、もっとも思い出に残っているのが山形の「黒沢峠」だ。

苔に覆われた黒沢峠は実に神秘的であったが、この伏木峠への石畳は実に明るい峠道である。


こんな歴史の道を行くことだけでも贅沢なことだ。石畳を登る一歩一歩に歴史の重みを感じる事ができる。

こういう場所では乗車するべきではない。ちゃんと降りて、押して歩き、感謝の念で歩くことが礼儀だ。


まず誰とも会わない。何の音も聞こえない。風もない。鳥も、虫も、動物もいない。自分だけだ。

気持ちよく石畳を登りつめると、勾配も緩やかになってくる。


その先が伏木峠のピークだ。

特に峠を示すものは何もないが、道端に「日田往還」の立派な道標が置かれていた。


いい峠道だった。

実に雰囲気がよく、久しぶりに味のある峠越えを楽しむことができた。

峠を下っていくと民家の庭先に出る。そしてその先が伏木公園だ。


この石畳は実に貴重だと思う。よく整備され、歩きやすい素敵な石畳だ。

まさかこんな歴史ある石畳を味わって峠越えができるとは思ってもいなかった。


本日のコースは、午前中に2つの峠を越えて、午後は「メイプル耶馬サイクリングロード」という予定だ。

まずは前半一つ目の峠を順調に越え、二つ目の峠へ向かう。


さて二つ目の峠、大石峠(おしがとう)が大問題だ。

まず、読み方からして変わっている。

「おおいしとうげ」と読むのかと思ったら、なんと「おしがとう」だ! 読めません!


事前にこの峠を調べてみると、それはもう大変な事実ばかり・・・本当に行くの? って感じだった。

「峠への招待」としては、やはりこの目で見てみたいし、できれば自分の脚で越えてみたい・・・


さて、本当に峠への入口までやって来た。

旧道を行かず、車道のトンネルを抜ければ一気に越えられるが、ここはやはり旧道を行くしかない。

旧道への入口はしっかりとした道が分岐している。これならよくある峠越えと変わらないはずだが・・・


大石峠(おしがとう)(標高451m)


道は次第に舗装から山道になる。周囲の視界も狭くなり、しっかり山の中へと道筋が続く。

晩秋の峠路はたっぷりとした落葉に覆われ、これだけなら実に気分のいい峠越えなのだが・・・しかし・・・

最後に左に直角に曲がると、目の前に現れた光景は・・・うわぁ! なんだこりゃ! うっそ〜!!


事前に調べていて、この光景は知ってはいたけれど、やはり腰を抜かすほどの衝撃だった。

「いったいなんなんだぁ? こりゃ〜?」と頭が真っ白になるくらいのショッキングな”出会い”だった。


見上げる山中に、ポッカリ大きな穴が開いている。

まったく手つかずの、まったく何も人工的な手が入っていない、自然そのものの大きな”穴”。

なんで? なんでこうなってるの? なんで崩れないの? 車両通行止めってなに? 車通るの? 


とにかく凄いです、この峠。

どんなに多くのツーリングを経験した人も、どんなに多くの峠を越えた人も、この峠は衝撃だと思う。

私も自慢じゃないけれど、半世紀ほど峠越えをしてきたけれど、この峠の衝撃は凄すぎる。


峠を目の前にして、ひれ伏すほどの気持ちを初めて感じたほどだ。怖かった、とにかく・・・

ここまで来たならば、何としても”峠越え”をしないことには・・・怖くて戻るなんてあり得ない・・・


まずはトンネルの入口まで登らないことには始まらない。

スケールがデカすぎて、たいしたことがないように見えるかもしれないが、実は大変な勾配だ。

トンネル入口まで、瓦礫の柔らかい斜面を押して登るが、ズルズルと滑ってしまって登れない。


しっかりとした登山靴なら難無く登れるが、適当な靴では結構大変だ。

土砂崩れでこうした崩落個所を登ったことはあるけれど、まともな峠越えではこんなことは初めてだ。

ゼーゼー言いながら押し上げると、反対側に明るいトンネル出口が見えた。


ここで再び感動だ! おぉ〜ちゃんと行けるじゃないか!

それにしてもこの写真から分かるように、ちょっと普通の峠とは”別世界”の光景だ。

もはや地球の光景ではなく、月や火星にでも来たような錯覚に陥る。


こんな峠のトンネル、皆さん見たことありますか? 私はもちろん初めてだ。

こんな峠が他にあったら、教えて欲しいほど異次元の峠だ。


それにしても怖い。

本当に大丈夫だろうか? 何か出てこないだろうか? 崩れやしないだろうか?

地震が来たら・・・トンネルが崩れたら・・・生き埋めになったら・・・携帯が通じなかったら・・・


「通行止めを無視した無謀なサイクリスト・・・危険な峠越え・・・」そんな新聞記事が頭をよぎる。 

行くか?戻るか? 実際にこの場に立つと悩む。何も無理して越えることが目的でもない・・・

しかし反対側の出口まではわずかな距離だ。ほんの1分程度だろう。それでも悩むほど怖いということだ。


幸い、見た目よりは内部はしっかりとした状況なので、勇気を出してトンネルに入っていく。

トンネル内は暗いので、VOLT800の強烈な明かりで周囲を照らしながら進む。

足元は積もった岩石で埋めつくされているが、結構ふわふわで柔らかい。


きっと、月や火星もこんな感じなのか? と思ってしまうほどこれまで味わったことのない感触だ。

それにしても、これだけ堆積物が溜まっていても、天井まではまだまだ高さがある。

いったい本来はどれだけ大きなトンネルだったのだろう?


さすがにトンネル内にのんびりと留まることはできず、足早に出口に向かった。

無事に出口まで歩いてきた。

短い時間だったけれど、これまでに経験したことのない緊張の峠越えだった。


反対側の出口に出ると、ホッとする。とりあえず何もトラブルはなく本当に安心した。

あらためて振り返ってトンネルを眺めてみると、やはりその異様な光景に驚くばかりだ。

いったいどこの穴から出てきたんだ? って感じだ。


ただし、決してこの峠を越えることはお勧めしない。

何かが起きても不思議ではないほどリスクがあることはお伝えしておく。


反対側は荒れ放題である。倒木、落石などで歩くルートも手つかずだ。

一瞬悩むほどだが、前方の先に車道がかすかに見えるので、それを目印に山道を下っていく。

多少の難所はあるが、すぐに車道へのルートが見つかり、無事に峠を降りきった。


もう、この二つの峠でお腹いっぱいだ。かなり内容の濃い峠に、緊張の連続だった。

とりあえず無事でよかった。いきなりアクシデントに見舞われてしまっては、この旅もおしまいだ。


車道へ出ると、何もなかったかのような普通の風景が広がっていた。

あまりに別世界を見てきただけに、その変化にあらためて驚くばかりだ。

時刻は13:40。後半の「メイプル耶馬サイクリングロード」を前に、ようやくランチタイムとなった。


ちょうど中学校の前が広場になっていて、いい休憩場所があった。

静かな昼下がり、今越えてきた峠の記憶が覚めぬ中、今度は心休まるひとときをすごすことができた。

さあ、後半はこの旅の本当の目的、「メイプル耶馬サイクリングロード」が待っている。

 

距離: 60.8 km
所要時間: 6 時間 1分 41 秒
平均速度: 毎時 10.1 km
最小標高:  23m
最大標高:  463m
累積標高(登り):  492m
累積標高(下り):  552m

(2023/11/21 走行)


峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’2023 >  寝台特急サンライズ旅A 日田往還・伏木峠・大石峠