峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’2023 >  寝台特急サンライズ旅D 江の川・旧三江線巡り(後編)



2023年11月23日(木)


自転車で走る最終日の朝を迎えた。とにかく早く出発したいので、朝食も早い時間にしてもらった。
天気はまずまずだ。雨に降られる心配はないだろう。


ボトルに水を入れてもらい、支払いを済ませ、出発の挨拶を交わす。
旅館に泊まると、大きな温泉宿や、ビジネスホテルにはないぬくもりや、触れ合いがある。
営業はなかなか厳しそうだが、機会があればぜひまたお世話になりたいと思った。


時刻は7:37 今までにない早い出発だ。というのも、今日のコースは相当時間に追われるためだ。
旧三江線の全駅を巡る旅、二日目。残りの25駅を16時までに走りきらないとならない。
走行距離は100kmを少々越えるだろう。8時間で走れば平均時速12.5kmだ。

一般的なソロツーリングでは、平均時速12.5kmはまず不可能だ。
適度に休憩し、写真を撮り、のんびり食事をしていると、だいたい時速8km程度しか出ない。


いつもの調子で走っていたのでは、まず100kmを時間内に走りきることは不可能だ。
かと言って、やみくもにペースを上げたり下げたりしていては、一日のツーリングが楽しめない。
ここはやはり「予定・実績管理」の手法が必要だろう。

例によって、GPS上に目標時間をセットし、画面で確認できるようにデータを転送してきた。
基本的には時速12.5kmで走ることにし、30分ごと(6.25km)にチェックポイントを設けた。
チェックポイントを通過する際に、予定より何分遅いか、早いかをチェックしていく。

速度をあげる、少し休憩するなどの調整をしながら、目標時刻に近づけていく。
長距離を走る際は、スタートからこうした管理をしておかないと、最後に一気に修正することは不可能になる。


旧三江線巡り  後編(江平駅 〜 江津駅) 25駅

11. 江平駅 ●走行距離  1.1km ●7:47着−7:54発(予定より19分早い)
    
(ごうびらえき) 

前半は少しでも貯金をしたく、8時出発の予定が7:42出発となり、最初の駅には19分 早く到着した。
踏切のレールは撤去され、何もない殺風景なホームと待合所が残されていた。
 
しかし
昨日に続き、本当に秘境のど真ん中だ。早朝の白く靄が立ち込める中、レールを真横に見ながら走 っていく。
こんな光景がまだ日本に残っているとは知らなかった。

12. 口羽駅 ●走行距離  5.5km ●8:07着−8:15発(予定より20分早い)
    
(くちばえき) 

いきなり駅舎の装飾に驚いた。朝から電飾が点滅してキラキラと輝いている。
ここは大きな駅だ。駅舎も立派だし、ホーム自体も綺麗に維持管理されている。


ホームへ行ってみた。もう間もなく列車がやってくるのではないかと思えるほど当時のままだ。
駅舎の中には、三江線の思い出とスタンプが置かれていた。もちろん記念にもらってきた。

 
次の駅までの道筋も実に素晴らしい。ビデオを撮影しながら、こんな事を一人で語っていた。

「なんていい道なんでしょうか。信じられないよ、これ。こんなコースがあるんだねぇ〜」
「ちょっと日本一なんじゃない、これまでの中で・・・」

思わずこんな言葉が出るほど、すっかりこのコースに魅了されてしまった。

13. 伊賀和志駅 ●走行距離  9.0km ●8:25着−8:28発(予定より19分早い)
     
(いかわしえき) 

この駅も完全に風化してしまって赤錆が目立つ。
駅前には集合住宅らしき建物があって、かつては住民も多くいた感じだ。
ホームまで上がってみると、かつての面影がしっかり残されていた。

平均時速12.5kmを維持するのはなかなか大変だ。写真を数枚撮ったらすぐに出発しないとだめだ。
しかし路面は綺麗で、ずっと下り基調なので助かる。これは逆コースは絶対にダメだろう。

14. 宇津井駅 ●走行距離  13.1km ●8:43着−8:50発(予定より20分早い)
     (うづいえき) 


「天空の駅」と呼ばれる宇津井駅にやって来た。旧三江線の中でも一番有名な駅かもしれない。
ご覧の通り、こんな高い所に駅がある。どうしてこんな所に駅を作らなければならなかったのか・・・

宇津井集落は山間にあり、駅を作る場所がなく高架になってしまったという。
まずは遠くからの遠景を眺めて見る。
 
さっそく駅に行ってみると、「宇津井駅公園」と大きな案内が掲示されてあった。
宇都井駅公園

旧宇都井駅は1975年8月31日、国鉄が三次(広島県三次市)〜江津(島根県江津市)で建設を進めていた三江線の駅として、全線開業に合わせて開設。116段を登った先、地上から20mの高さにホームがあり「天空の駅」とも呼ばれていました。2010年からは駅や周辺をLEDでライトアップする「INAKAイルミ」が始まりました。しかし、過疎化の中で三江線の利用者数が伸び悩むなどし、18年3月31日、全線廃止に伴って惜しまれながら営業を終えました。
その後地元の邑南町が19年7月1日、廃止後の地域振興と環境保全を目的にJR西日本から無償譲渡を受け、21年4月1日「邑南町三江線鉄道公園・宇都井駅公園」として整備し、一般開放しました。

ちょうどそこへ地元の人が現れたので少々立ち話をしてみた。

「この駅、階段なんですね? エレベーター無いんですか?」
「ないですね」

「それじゃ、当時も乗る人大変だったでしょう?」
「いや・・・乗る人ほとんどいなかったから・・・」ですって。
乗る人いないけれど、この駅が必要だったのか・・・今の時代じゃ考えられない駅舎だった。

 
綺麗な路面、走りやすい道幅、秘境の連続が続く。交通量ゼロ、自分のための道が延々続く。
前方上空に大きな鉄橋が見えてきた。こんな山深い所を貫いて、本当によく作ったものだ。
列車からの眺めもきっと絶景だったに違いない。
 
感動の連続だ。次から次と道は江の川に沿って変化していく。
ここはいったいどこだ? 日本なのか? これまで経験したことのない景色に魅了され続ける。

次第に気温があがり、白く立ち込めていた靄が少しづつ晴れてきた。
するとこんな幻想的な景色が広がってきた。もう、何もかもが美しすぎる。

15. 石見都賀駅 ●走行距離  20.3km ●9:24着−9:27発(予定より14分早い)
     
(いわみつがえき) 

石見都賀駅は、車道から民家の中へ入っていくと現れる。
駅自体が高い所にあるため、下から見ただけでは駅とはわからない。ホームへ上がりたかったが入れない。
仕方なく裏へ周ってみると、ホームを現わす長いコンクリートの壁が続いていた。

16. 石見松原駅 ●走行距離  27.2km ●9:50着−9:55発(予定より21分早い)
    
(いわみまつばらえき) 

車道から石見松原駅への表示に従って入っていく。この駅も相当寂しい所にある。
すっかり鉄は錆びつき、周囲は雑草や草木で覆われてしまっている。よく見ないとホームの存在もわからない。

ホームもすっかりジャングル化してしまって、レールの存在がかすかにわかる程度だ。
いったい、どれだけの乗降客がいたのだろうか?

17. 潮駅 ●走行距離  30.8km ●10:04着−10:11発(予定より24分早い)
          
(うしおえき) 

潮駅は車道のすぐ横にあるのでわかりやすい。とても明るく開放的な駅だ。
この周辺には桜並木があって、潮駅のホームも桜の名所となっていたという。

ホームへ上がってみると、目の前には雄大な江の川が視界に広がる。
いやぁ絶景だ。こんな素敵な駅はなかなかないだろう。惜しい、実に惜しい駅だ。
 
今日の江の川は本当に緩やかな流れだ。それでも過去何度も災害に見舞われている。
過去の災害記録には、列車が半分水没するほどの豪雨の記録もあった。
中国地方最大の川である江の川は、常に災害と隣り合わせだった。そこに鉄道を通したのだから驚くばかりだ。
 
次の沢谷駅は少々離れたところにあるため、ちょっと遠回りさせられる。
この駅をパスすれば数キロ短縮できるのだが、やはり全駅制覇したいために頑張ってトンネルに入っていく。

本日最初で最後の本格的なヒルクライムだ。途中で後からロード乗りがやってきて、軽快に自分を抜いていった。
トンネル内は明るく、路面も綺麗で走りやすい。

18. 沢谷駅 ●走行距離  38.7km ●10:35着−10:45発(予定より31分早い)
    
(さわだにえき) 

この駅は少々奥まったところにあるため、2.5kmの往復、合計5kmほど余計に走ることになる。
ここまで休憩もそこそこに走ってきたので、予定時刻よりかなり早いペースできている。

ただし、このあと昼食を挟むと一気に貯金を使い果たすことになるだろう。そこで少しでも時間を稼ぎたかった。
この駅は明るい駅だった。周囲はいくつかの民家と田畑が広がっている。
 
駅前はバス停と待合所が設置されていた。
明るい日差しのもと、たまに通り過ぎる車以外は静かな風景が広がっている。
一息ついて、来た道を再び戻る。道端の花壇の手入れをしていた住民が、自分に優しく挨拶してくれた。

19. 浜原駅 ●走行距離  43.3km ●10:57着−11:02発(予定より31分早い)
           
(はまはらえき) 

そろそろ疲れてきた。ゆっくり休憩したいところだが、このペースで走らないと時間内にゴールできない。
すっかり快晴になって、次の浜原駅までも順調に走っていく。
ここは大きな駅で、駅前には郵便ポストもあるし、「三江線全通記念」の石碑も設置されている。


ちょっとホームを覗いてみた。乗車口の案内が寂しく残されていた。
雑草が伸びて線路の姿もわずかしか見れないが、しっかりとこの先に続いている。

駅スタンプが置かれていたので、しっかりと頂いてきた。
浜原の町は結構大きな町で、民家もお店も道路脇にある。これまでで一番賑やかな町並みだ。


20. 粕淵駅 ●走行距離  45.7km ●11:09着−11:16発(予定より31分早い)
         
    (かすぶちえき) 

粕淵の駅は商工会議所の建物と一緒になっていて、ちょっと廃線駅の雰囲気とは違う。
あれ? 駅はどこ? って探してしまうほどだ。駅名の表示がないと、通り過ぎてしまうかもしれない。
建物の裏に行ってみると、ちゃんとホームの名残とレールがしっかりと残されていた。
 
駅舎内には思い出の写真が展示されていて、記念スタンプも置かれていた。
綺麗に維持管理されていて、とても気持ちのいい駅であった。
 
さてこの町は、今回のコースの中で唯一コンビニがある町だ。
ここで食料を調達しておかないと、ゴールまで何も手に入らない。
この旧三江線を巡る旅は、とにかく秘境なだけに自動販売機一つないほどだ。

しっかりと「ローソン・ポプラ」の場所をGPSにセットしてきた。粕淵駅から離れ、食料調達に向かう。
助かった。都会と何ら変わらない買い物をすることができた。さすがにここのコンビニ、利用者が多い。
ここまで走ってくると、このコンビニの有難さをしみじみ感じる。いや、本当に生命線だね、ここは。


食料も手に入って一安心。
しかし、お買い物で時間を費やし、貯金も減ってきてしまった。さてどこで昼食にしようかと悩む。

 
小さな集落が現れる。誰も人影は見えない。正面には小さな山並みが連なっている。
こうした風景の中を一人廃線駅を訪ねて自転車で走っている。
こんなコースはまず自転車雑誌では紹介しないだろう。いや紹介できないだろう。

あまりにも距離がありすぎるし、何も設備が揃っていない。下手をすれば水さえ手に入らない。
それだけに、ここはベテランサイクリストのみが許されるコースではないだろうか。
12時近くになって、かなりヘロヘロ状態だ。やはりいつもとは違うペースで走ることの厳しさを痛感する。

21. 明塚駅 ●走行距離  50.3km ●11:41着11:45発(予定より21分早い)
           
(あかつかえき) 

林道走行をしばらく味わった後、道路の右手にこの駅が現れる。小さな石段が駅の存在を現わしている。
民家が数戸並んでいるだけの、とても寂しい所の駅だ。当時はいったいどんな様子だったのだろうか。

「立入禁止」の看板がなければ駅の存在に気付かないかもしれない。
ホームはすでにジャングル状態で、見る影もない。
その先、ホームの端からレールが覗けたので一枚写真を撮っておいた。
 
明塚駅の先、明塚発電所横では、線路と道路がこんなに接近している所もあった。
まさか本当にこんな近くを列車が走っていたのだろうか? 手を伸ばせば触れそうな近さだ。
 
芸術的な
美しさが広がる江の川。
ほとんど流れのないこの辺りは、川面がまるで大きな鏡のように周囲を映し出す。
まさに悠久の大河の流れを感じさせる美しさだ。
 
これほど満足度の高いコースはこれまでに経験したことがない。
まったく観光化されていない、大自然と廃線跡がそのまま残されている。
サイクリストにとっても、鉄道ファンにとってもこれほど充実したコースはないのではないだろうか。

22. 石見簗瀬駅 ●走行距離  52.8km ●11:56着12:30発(予定より18分早い)
    
(いわみやなぜえき) 

簗瀬の集落に入ると周囲も空も大きく開け、石見簗瀬駅が現れる。
駅前は大きな広場になっていて、郵便ポストとバス停がポツンと置かれているだけだ。
目の前には長いホーム跡が残されていて、まっすぐなレールが印象的だ。
 
時刻はちょうど12時。昼食はこの駅でとることにした。
駅舎もなければ、トイレ、水もない。何もないホームを眺めながら、しばしくつろぐ。
たまに車が通り過ぎるが、ほとんど誰にも会うことのない静かな昼下がりだ。
 
昼食を30分で済ませる。いつもならもっとゆっくり休憩するのだが、今日はそんな時間はない。
駅を離れると、すぐにまた寂しい山間部を行く。

昼食の30分で、貯金をすっかり失ってしまった。再び頑張らないとならない。
ちょうど半分ぐらい走ってきた。やはり100kmを越える廃線跡巡りはなかなか辛い。

23. 乙原駅 ●走行距離  55.9km ●12:40着12:44発(予定より11分遅い)
           
(おんばらえき) 

小さな乙原集落の奥に駅があった。
この駅も、道路から離れているので、探さないと見つからないかもしれない。


駅には草に覆われたホームと、自転車置き場の小さな小屋が残されているだけだった。
予定より11分遅れている。写真を撮ってすぐに出発だ。

24. 竹駅 ●走行距離  58.3km ●12:51着12:53発 (予定より11分遅い)
         
  (たけえき) 

竹駅も相当寂しい所にある。
車道のすぐ横が駅なのでわかりやすい
が、この駅は本当に必要なのだろうか、というぐらい周囲は何もない。
 
ホームには当時の名残が残されているが、ここでじっと列車を待つことも相当寂しかっただろう。
いったい一日の利用客は何人いたのだろうかと気になるばかりだった。
 
木路原集落に入ると民家も多くなってきた。そこで珍しく出会ったのが「移動スーパー とくし丸」だ。
テレビでも紹介されているので有名な移動スーパーだ。全国ネットで日本中に展開されている。

これは、この地域の人にとっては生活の要であろう。自分も何か買いたくなるほどだ。
ほとんど町には食料品店がない。このスーパーが来てくれなければ、死活問題だろう。

25. 木路原駅 ●走行距離  61.5km ●13:03着13:06発 (予定より7分遅い)
           
  (きろはらえき) 

「とくし丸」の車が停まっていた所から、民家の奥へ入っていくと突き当りに木路原駅はあった。
ちょっと見ただけでは草むらにしか見えないが、石段が残されているので駅だとわかる。
まさかここに鉄道の駅があったのかと疑ってしまうほど、その面影は消えかかっている。

ホームもご覧の通りの状態。レールもまったく見えなくなっている。

小さな駅なので、写真撮影もすぐ終わりスタートする。おかげで少し遅れを取り戻すことが出来てきた。i

26. 石見川本駅 ●走行距離  63.8km ●13:12着13:20発 (予定より5分遅い)
     (いわみかわもと
えき) 

石見川本の駅はとても大きく立派な姿が残されている。町自体も大きく、会社や店舗も立ち並んでいる。
駅にはATMも置かれていて、町民の暮らしの拠点のような感じだ。よくあるローカル線の駅という感じだ。
 
ホームへ行ってみると、まるで現役のように当時の姿が残されている。
隅から隅まで綺麗に整備されていて、実に気持のいい駅だ。
雑草など生えておらず、これまで見てきた駅の中でも一番手入れがされている駅だ。


廃線後の駅の使い方として、こうして町のための拠点として利用できればベストであろう。
「開業日 1930年4月20日 廃線日 2018年4月1日」の掲示が長い歴史を物語る。
本当にお疲れさまでした、と声をかけたくなるほどの歴史だ。

 
だいぶ遅れを取り戻してきた。あと5分で予定通りの時刻となる。
再び雄大な景色を眺めながら江の川を行く。

残り9駅になった。さて次の駅はどんな駅だろうか、と楽しみになってくる。
道幅も広く、綺麗な舗装路がまだまだ続き実に快適だ。

27. 因原駅 ●走行距離  67.9km ●13:32着13:38発 (予定より6分遅い)
    
(いんばらえき) 

因原駅の場所はすぐわかったのだが、駅舎の姿はそこにはなかった。
見た目は運送業者の営業所という感じだ。駅を想像させる物が見当たらず、駅名がないか周囲を探してみた。


ようやく「因原駅」の文字を見つけて、やはりここが駅舎だったと確信する。
すっかり運送会社の営業所に変身してしまって少々残念だ。
そこへちょうど従業員の方が現れたので聞いてみると、やはり元の駅舎を利用しているとのこと。

まあ、こうして別の用途で使われているのだから、それは素晴らしいことだ。
裏へ行ってみると、しっかりとホームが残されていて、ちょうど反対側から線路を渡ってくる女性に出会った。
「向こう側に駅名を表示しているものありますか?」と聞いてみたが、「ないですね」とのことだった。


28. 鹿賀駅 ●走行距離  71.8km ●13:48着−13:52発 (予定より3分遅い)
    
(しかがえき) 

走行距離も70kmを越えて、それなりに疲労も溜まってきた。それでも全く余裕がなく、残り30kmが辛い。
江津市に入った標識が現れると、ようやくゴールが近づいてきたことを実感する。
鹿賀駅付近は周囲が大きく開けて、かなり開放的な所だ。

駅は道路脇にあるが、ほとんどホームが残っているだけで、駅舎などは全くない。
写真を撮影していると、レールの先に同じように撮影している人を見つけた。鉄道ファンだ。
ここは見通しがいいので、撮影場所として最適なのかもしれない。
 
3分遅れ迄回復してきた。何だか列車の運行管理と同じ感覚で、何とか定時運行を目指そうと頑張る。
大きなトンネルが口を開けて道路脇に現れる。これだけ草に覆われると、ちょっと不気味な様相だ。

29. 石見川越駅 ●走行距離  75.5km ●14:03着−14:07発 (予定通り)
     
(いわみかわごええき) 

石見川越駅も小さな駅だ。ホームへの石段が無ければ駅があったとは気付かないだろう。
ホームはすっかり廃墟と化していて、レールも雑草の間からわずかに見えるだけだ。

駅横の「川越郵便局」が、唯一駅名を現わしている感じだ。
郵便局があるということは、それなりの住民がいるということだろう。
 
いいペースで走ってきたので、ここで遅れを取り戻すことができた。
ここまで予定通りに走っていれば、あと残り6駅はなんとかなるだろう。

レールがそのままきれいに残っている。しかし住民にとっては通行の邪魔になる。
民家の玄関から道路まで、こんな板を敷いて歩きやすいように工夫している家もあった。
それにしても、こんな玄関脇を列車が走っていたのか! これには驚いた。騒音も振動も凄かっただろう。

30. 田津駅 ●走行距離  78.6km ●14:17着−14:21発 (予定より1分早い)
                (たづえき) 


田津駅も注意して走っていないと通り過ぎてしまう駅だ。ホームへ上がる石段が唯一の名残だ。
駅周辺は民家はないが、江の川を橋で渡った先には小さな集落がある。
 
もう誰も管理する人もいないのだろう。一面に草や苔が生えて、辺り一面は伸び放題となっている。
駅前の道路脇には「田津」のバス停が置かれているが、一日に何便走っているのだろうか?
 
三江線は実にトンネルが多い。それだけ山間部を走っているという証拠だ。
いったいいくつのトンネルを見てきたのか見当もつかない。
トンネルの中は走れないけれど、大きなトンネルをすぐ横に眺められる迫力はなかなかだ。

31. 川戸駅 ●走行距離  84.5km ●14:41着−14:46発(予定より5分早い)
           
 (かわどえき) 

川戸駅に至る道筋は、ちょっとしたピークがあって多少登らされる。延々と長い林道を走って来たかのような感じだ。
対岸の国道は交通量が多少あるが、こちら側を走る車両はゼロだ。
確かに険しい山道だ。豪雨や台風で荒れれば、すぐに倒木、落石などで道も鉄道も被害を受けるだろう。

そんな狭い林道を抜けてくると、川戸の町に入ってくる。
この町はかなり人口も多く、「町」というより「街」といった感じだ。
駅前には立派な「美川旅館」がある。ここに泊まるコースも考えたが、今回は距離的に無理だった。
 
川戸駅はどこにでもある地方の駅そのままだ。全く廃線の駅とは思えぬ活気がある。
「サロンかわど こしかけ」の幟が入口に目立つが、これはいったいなんだろう?

ホームを覗いてみると、まったく現役の駅そのままだ。今すぐ列車がやってきても全く不思議ではない感じだ。
線路跡もきれいに維持・管理されている。やはりレールがまっすぐ伸びている姿は気持ちいい。


「サロンかわど こしかけ」は、駅舎の待合室を利用したコミュニティ施設らしい。
中には地元の方が数名いて、何やら楽しそうに話をしている。テーブルの上の農産物は販売されてるのかな?
壁には多くの思い出の写真が飾られていた。

これまで見てきた駅の中で、もっとも活気があって、もっとも明るい駅がこの駅だ。
ロードレーサーのサイクリストが一人やってきて、駅のベンチで一服していた。 


32. 川平駅 ●走行距離  92.2km ●15:08着−15:14発(予定より15分早い)
           
(かわひらえき) 

さあ、残すところあと4つ。予定時刻よりも貯金ができて、もう大きなトラブルさえなければ大丈夫だろう。
しかしパンク一回ですぐにロスタイムになってしまうから、やはり最後まで気が抜けない。

次の川平駅までは、線路沿いの道が途中で切れているため、国道を行くことになる。
おかげで広い車道を快適に飛ばし、予定より15分も早く着くことができた。
 
がらんとした駅舎内。時が止まったかのような静けさ。壁には映画のポスターが何枚も貼られている。
「砂時計」という、松下奈緒主演の映画だ。この駅が撮影に使われたようだ。帰ったら映画をぜひ見てみよう。
ホームもそれほど荒れてはいないが、やはりレールは雑草で隠れて見えないほどだった。
 
いよいよフィナーレに近づいてきたが、やはり線路沿いの道はアップダウンもあって楽ではない。
それでも一日中こんな景色を眺めながら走れるのだから、とにかく何一つ文句のないコースだ。

15時を過ぎて日が陰り始め、風も出てきた。
基本的に日本海への下りなのだが、所々小さなピークもあって、ダウンヒルも楽しめる。
まず対向車に出会うことはないけれど、カーブもきつく道幅も広くないので油断できない。

33. 千金駅 ●走行距離  97.5km ●15:32着−15:34発(予定より16分早い)
           
 (ちがねえき) 

千金駅は凄い所にあった。車道から分岐して、どんどん山の中に入っていく。
車一台がやっと通れるぐらいの、”峠越え”みたいな道を行く。駅はどこだ? と探すがわからない・・・

民家の屋根が見えた。そして「立入禁止」の看板だ。ここだ・・・え? これが・・・
かすかにホームの残骸が残っている感じだ。なんでまた、こんな山奥に駅を作ったのだろう? とにかく驚いた。
 
駅の先は道が狭く、車は戻るしかないが、自転車なら細い道を辿って行くことができる。
最後は人一人が通れるほどの山道になって、線路の下をくぐって車道に戻ってきた。

いやはや、最後の最後になってこんな凄い駅が出てくるとは・・・それにしても、楽しいし面白い。
まるで0一日中サイクルオリエンテーリングをやっているような感じだ。

34. 江津本町駅 ●走行距離  100.0km ●15:43着−15:50発(予定より17分早い)
               (ごうつほんまちえき) 

いよいよ海が近づいてきた。日本海のすぐそばまでやってきた。やはり海が近づくと感動もひとしおだ。
空が広くなってくる。川幅が広くなってくる。そしてかすかに潮の香りが漂ってくる。
もうゴール直前の駅、江津本町駅は簡単に見つけられるだろうと安心していたのだが、ところが・・・
 
GPSの画面では駅を示しているが、まったく駅の存在がない。
今日一日駅を訪ねてきて、大体の様子はわかっていたのだけれど、この駅は見つからない・・・
うそ・・なんで・・どこ?・・導水管が通るカーブを曲がった先に小道が・・・これか?

自転車を押して登っていくが、ただの草むらだ。駅はどこだ?
GPS上ではすでに駅の場所に位置している。しかし、周囲には駅の様子は全く感じられない。
あらためて道を戻ってやり直す。じっと目を凝らして周囲を観察する。すると・・・みつけた・・・

道路脇の草むらの中に、かすかに鉄柵があった。これだ! 近寄って中を覗くとそこに駅のホームがあった。
もう、何もかも覆い隠されて全く見えないほどに草木が伸びている。

なんとかレール跡でも写真に納めたいと探したのがこの一枚だ。よかった、見つかった。
宝探しゲームだ。ドラゴンクエストみたいなイメージだ。見つけた喜びは言葉に現わせない。

35. 江津駅 ●走行距離  102.4km ●16:00着(予定より12分早い)
            
(ごうつえき) 

ラスト、江津駅までのフィナーレとなった。100kmを越えるコース、本当によく走った。
全ての駅を訪ね、旧三江線の歴史をこの目で見て、この脚で感じてきた。
自分の力で走ってみて、この鉄道の長さと凄さ、そして地域に根ざした重みをしっかりと感じることができた。

最後は、この二日間の思い出を振り返りながら江津駅に無事到着した。
出発地点の三次駅も、ゴールの江津駅もごく普通のローカル駅だった。
全線を自転車で走ってきたゴールとしては、あまりにも普通で、シンプルで、何もない駅だった。

祝杯をあげたく、ビールを売っている所を駅員に聞いてみるが、どこにもないとのこと・・・
タクシーの運転手にも聞いてみるが、5分ぐらい走らないと店がないとのこと・・・うーーん、何もない。
この駅でもまたパスモの処理ができるか聞いてみたが、やはりできないとのこと。もう、何もかもがローカルだ。

江津駅 〜 出雲市駅 〜 サンライズ出雲


終わった。
今回のツーリング、これで全ての走行が終わった。これでもう心配することはない。

しかし、とりあえず出雲市駅まで行かないことには安心できない。
17:05 ガラガラの「スーパーまつかぜ」に乗車する。


i出雲市駅に到着し、さっそくパスモの処理をするために窓口へ行ってみるが・・・
何だか改札周辺は若い女性やら外人旅行者でごったがえしている。

うわ、何が起きたんだ? と近寄れず状況を把握すると・・・どうやら何か列車が遅延している?
乗れる? 乗れない? どーする、あーする? なんて駅員さんを捕まえて騒いでいる。
おいおい、こっちも駅員さんに用があるんですけど・・・参ったな。

ようやく騒ぎが収まった隙を狙って駅員さんを捕まえた。
あれこれ事情を話して、やっとこの駅でパスモの処理ができた。ようやく未払いの運賃も払うことができた。


これで一安心。さあ、乗車準備ということで、駅内にあるコンビニで宴会道具をたっぷり仕入れる。
今度こそ乗れる、やっ10年前のリベンジができる。

18:55発のサンライズ出雲だが、入線してきたのが、なんと発車5分前の18:50だ。
他の列車のトラブルで入線も遅れたのだろう。乗車して落ち着く暇もなく、すぐにサンライズは発車した。


帰りのサンライズもB寝台シングルの平屋なので、天井が高くて快適だ。
行きはデッキに輪行袋を置いたが、帰りは室内に入れてみた。

ベッドの足側の荷物置き場に輪行袋を置き、壁のハンガーを利用して輪行袋を固定してみた。
この大きさの輪行袋なら、まったく邪魔になることもなく、ドアの出入りにも支障はない。


帰りのサンライズは、たっぷりと夜行列車の旅を楽しめる。東京駅には7:08到着予定だ。
仕入れた食べ物、飲み物を並べて、長い長いサンライズの旅が始まった。

すぐに車掌さんが検札に来る。一度くれば、到着まで人に患われることはない。
本当は列車内を見学したいところだが、早くビールで乾杯したく、さっそく祝杯をあげる。


伯備線内はかなり揺れるという噂だが、やはり噂通りよく揺れる。
下手すりゃ、窓に置いた缶ビールが倒れるんじゃないか、ってぐらい揺れる区間もある。
また、このB寝台シングル平屋は揺れやすいので尚更だ。

出雲市 → 宍道 → 松江 → 安来 → 米子 → 新見→ 備中高梁 → 倉敷 → 岡山 と停車していく。
そして岡山でサンライズ瀬戸と連結だ。
順調に走り出したサンライズ出雲だが、途中で車内放送が入った。

サンライズ瀬戸が車両故障のため、岡山到着が遅れるとのこと。当然こちらのサンライズ出雲にも影響する。
まあ、遅れようが何だろうが、ベッドに横になってれば東京に着くのだから、こちらは呑気なものだ。
すっかり飲んで、食べて、夜行列車の夜を満喫して眠りについた。

 

距離: 102.4 km
所要時間: 8 時間 17分 57 秒
平均速度: 毎時 12.3 km
最小標高:  46m
最大標高:  151m
累積標高(登り):  514m
累積標高(下り):  571m

(2023/11/23 走行)


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