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2025年4月2日(水)

あさだや旅館 〜 日之影バス停


部屋の窓から外を眺める。
五ヶ瀬川と日之影川が合流する朝靄の先に、高千穂鉄道の鉄橋と巨大な青雲橋の姿が見える。

1984年に完成した青雲橋。1975年に訪れた時には、もちろんこんな巨大な橋など存在しなかった。
この景色を眺めているだけで、長い長い歴史を感じる。


朝食も昨日の長崎からの泊り客と一緒にいただく。
自分の向かいには、昨夜遅く到着したもう一人のお客さんがその後やったきた。

朝から全員顔を揃えて楽しい朝食になった。
初めての方と挨拶代わりに色々と話し始める。

部屋のあちこちには多くの表彰状が飾られている。
この旅館がいかに長く愛され、地域に貢献してきたがよくわかる。


本当に心休まる宿だった。ご一緒させていただいた方が、本当にいい方だった。

玄関に置かせてもらった自転車に荷物をセットする。


いつも笑顔を絶やさない素敵な女将さん。お見送りに出てきてくれた。

話を聞くと、今日も何組かのお客さんが来るようだ。長崎からのお客さんは連泊だそうだ。
やはり居心地がいいのだろう・・・「また来たいですね〜本当に楽しかったです〜」

昨夜遅く車で来た方はカメラマンだそうだ。色々な建築物を撮影しているらしい・・・いろんな方がいる。

「お世話になりました〜」と言って出発する。いつまでも手を振って自分の姿を見送っていただいた。


五ヶ瀬川を渡る橋の上から振り返ると、自分の泊った部屋が見える。
そして思い出の「ロックシェード」をあらためてよく観察する。

1993年の崩落以降、さらにコンクリート製の部分が延長されたようだ。それほど危険な所だ。
と、ここでとんでもないことに気が付いた!

「あっ! ビール代払っていない!」

昨日宿に着いた時、宿代を前払いで払っていたが、お喋りしていてすっかりビール代を払うのを忘れていた。
女将さんも全く気が付かず、そのまま出発してしまった・・・すぐに戻って「女将さーん、ビール代!」

「ダメですよぅ〜しっかり商売しないと〜」と、再びお見送りのやり直しでした。


今日は高千穂鉄道廃線跡をできるだけ辿る予定だ。まず最初は「日之影温泉駅」へ向かう。

実はこの駅には列車を利用した宿泊施設が整っている。

●TR列車の宿
https://hinokagecho.com/hinokageonsen-inn.html


実は当初、この宿に泊りたかった。しかし残念ながら満室で泊れず、「あさだや旅館」に泊ることになった。

結果素晴らしい思い出を作ることができたけれど、一度この列車にも泊ってみたい。


さあて、いよいよこの旅最大のイベントが近づいてきた。
50年前、日が暮れかかった頃たどり着いた「日之影バス停」の再訪だ。

あの日はどこかの駅で寝ようなんて考えていたが、適当な所がなくてこのバス停にやってきた。
屋根あり、トイレあり、そして人目につかない・・・と野宿旅には最高のロケーションだ!


事前にGoogleストリートビューで、このバス停が今でも残っていることは確認済みだ。
それでもやっぱり、もう一度この目で見てみたいと思ってやってきたという訳だ。

さすがに50年もたって当時のまま、というわけにはいかないだろう。
きれいに修復されているが、雰囲気は当時のままだ。とにかく、この長いベンチが50年前を思い出させる。


下の写真が1975年8月12日の様子だ。

この一枚の写真に、キャンピング旅のすべてが写し出されていると言ってもいいだろう!
当時の日記は最後に掲載してあるので、参照していただきたい。


●Youtube動画 日之影バス停から通行止め
https://youtu.be/vEQrFKKUiR4


通行止めで大きく迂回


念願のバス停の思い出に十分浸った後、次の駅を目指して五ヶ瀬川沿いを行く。
実はこの道、一ケ所工事中の情報を得ていた。現地の工事事務所に電話で確認しておいた。

すると、時間規制がされていて2t車以上は通行禁止ということらしい。
自転車が通行できるか聞いてみたが、「よくわからない、現地で聞いてくれ」とのこと。

2t以上ということは自転車は全然OKでしょう! と安易に考えていたのだが・・・
走っていくと、すぐに道路を封鎖している検問所が現れた。

動画に紹介しているように、自転車も通れないとのこと・・・なんだって?
予想外の展開にパニックになってしまった。ここを行けないとなると・・・大変なことになるぞ・・・


5万図を出して、迂回路を考えるが道がない・・・えっ? どうすりゃいいの?

なんと、朝出発した宿の所まで戻って、あの青雲橋を渡らなければならないではないか!


ゲゲ!

あの天高く聳える橋まで登ることになるのか!(このレポート最初の写真参照)
通行止めは以下の時間だけ解除されるが、12時まで待っていられない。

通行止めの先、吾味橋までは川沿いの楽チンコース。20分もかからず着くのに・・・
しかし出発地点まで戻って青雲橋まで登り詰め、ぐるっと迂回するとどれだけ時間をロスするのか?

今日は廃線跡を辿り、延岡駅から輪行する予定だ。すべて分単位でスケジュールしてあり、余裕はない。


これが予定のコースと迂回コースの比較だ。
・距離 5.7km→14.8km(プラス9.1km) ・獲得標高 2m→184m(プラス182m)

とにかく悩んでいる暇はない。すぐにUターンしてスタート地点に戻ることにした。


すぐに
振り出しに戻ってきた。あらためて気合を入れ直して登り始める。
高千穂線の鉄橋をくぐり、上空に聳える青雲橋を目指して登り始めるが・・・なんだこの勾配は・・・

ひどすぎる・・・まったく乗れない。久しぶりに根を上げるほどの激坂だ。
時間に追われて焦るばかり。休憩もほどほどに押していく。ゼーゼー言いながら、ふざけんなとつぶやく。


頑張って15分で青雲橋まで登ってきた。
本当だったら、もう吾味橋に着いている時間だ・・・クソ!

さらに急いで迂回路から吾味橋を目指す。
トンネルを抜け、橋を渡り、大きく迂回してやっと本来の道に近づいてきた。


10:08 やっと吾味橋に到着だ。すでに通行止めの箇所から1時間経過している。
こちら側の検問所も厳しい規制だ。ここを強引に突破することは不可能だろう。

看板をよく見ると、8:45までに通過していれば問題なかったようだ。
そうと知っていればもっと早くスタートしていたが、もうこうなってしまっては仕方がない。


高千穂鉄道 廃線跡を行く


やっと予定通りの道に復活できた。これで一安心だ。
とにかく、この吾味橋から始まる高千穂鉄道廃線跡だけは絶対に欠かせない。

「吾味駅」はきれいな駅舎とプラットホームがしっかり残されていて、雰囲気は最高だ。


そして「旧第三五ヶ瀬川橋梁」が現れた。多くの写真や映像で、ここを通過する列車の姿を見てきた。
今、ここは人が歩くことができる遊歩道として整備されている。


もし過去の台風の被害がなかったら、高千穂鉄道も廃線にならなかったかもしれない。
そしてこの橋梁も昔の姿のまま残されていたかもしれない。

多くの鉄道路線は、台風などの自然災害が原因で廃線の理由につながっている。
サイクリストにとっては滅多にない貴重な体験だが、こうして廃線跡を走るのは複雑な気持ちだ。


地元の散歩中の年配者が、前方から歩いて来たのでお話してみる。
どこから来たのかと聞かれ、東京ですと答えたら驚いていた。

廃線跡はいまだにレールも枕木も残されている。なかなか貴重な遺産だ。
散歩コースとして整備されているので、のんびりとウォーキングするには最高のコースだろう。


右側から五ヶ瀬川、車道、そして廃線跡だ。廃線跡から見下ろす五ヶ瀬川が実にきれいだ。
これほど見事な廃線跡も初めてだ。いったいこのレールはどこまで続いているのだろう?

せっかくなので、レールとレールの間に入って、枕木の上を揺られながら走ってみた。
まるで列車の運転席にいるような気分だ。ガタガタと揺れるが、流れる景色は文句なしの絶景だ。


こんな素敵な所を高千穂線は走っていたのか・・・と見惚れてしまうような景色が続く。

五ヶ瀬川の色がとにかく神秘的で美しい。
これで桜が満開だったら、どんなに美しい光景なのだろう。


贅沢なシーンを独り占めだ。まさかここまで美しい廃線跡だとは知らなかった。

自転車で走っても十分満足できるコースだ。そして鉄道マニアにとっても満点のコースだろう。


もちろんトンネルも登場する。歩いてもよし、自転車でガタガタと走ってもよし。
とにかく昔にタイムスリップしたかのような感覚になる。

こうしてそのままの姿で残しておいてくれることに、ただただ感謝しかない。


こんな絶景を簡単に走り抜けてはもったいない。
アクションカメラをセットして、独り芝居を演じる。

トンネルを抜けて走り去る姿を自撮りする。この写真はその動画から切り出したものだ。

なかなかいい一枚に仕上がった。とにかく残存するレールと、緩くカーブする道筋が美しい。


間もなく次の駅、「日向八戸駅」が現れる。ここは大きな駅で、民家も多い。
ちょうど桜が見頃になっていて、静かな町の景色と桜がとても絵になっている。

レール跡はいったん途切れるが、駅を過ぎた先から再びレール跡が現れる。
ちょうど年配の方が二人で休憩していたので話しかけてみた。


●Youtube動画 高千穂鉄道廃線跡を行く
https://youtu.be/M9oYYoeJfok

「この先ずっと行けますよね?」「行けますよ!」

自転車もそれほど珍しくないのか、あまり驚いた表情もない。
きっと自分みたいな物好きなサイクリストがたまに訪れるのだろう。そんな感じがした。


そして、またまた50年前の思い出の場所にやってきた。有名な「八戸観音滝」だ。


八戸観音滝

日之影町八戸集落の御泊川の水を落とす高さ約45mの滝。荒々しい断崖を背景に、滝しぶきの白色と周囲の樹々の緑が映え、神々しい雰囲気漂うスポットです。
滝の左岸には聖観世音菩薩像が祀られる観音堂があります。なかには如意輪観世音菩薩・子安観音菩薩の二体も奉安されており、古くから女人の守護菩薩として厚く信仰されています。安産祈願の参拝者も多く、町の人々のやすらぎの場となっています。
周辺は「森林セラピーロード(TR鉄道跡地散策コース)」として整備されているので、清々しい空気のなか散策を楽しんでみてはいかがでしょうか。
夏は涼しく清涼感たっぷり、マイナスイオンに包まれる心地良さをぜひ体感してください。
https://www.kanko-miyazaki.jp/spot/1088


50年前、日之影から延岡へ向かう途中で偶然に出会ったのが「八戸観音滝」。
車道から少々奥へ入っていくと、目の前に巨大な滝が現れた。その豪快さに思わず立ち尽くしてしまった。

その時の写真が左の一枚だ。とにかくその水量の凄さに言葉が出ないほどだった。

今回もその迫力ある滝を期待していたのだが、残念ながら水量も少なく、寂しい姿になっていた。
しかし、二枚の写真を比べてみると、岩の形が全く同じことに驚く。50年なんて自然にとっては短い短い。


次々に現れる高千穂、日之影の思い出。残すところはあと一つだ。
それは1993年8月、二度目の高千穂を走った際に、輪行した駅の思い出だ。

●1993/8  九州キャンピングC
https://tougehenoshoutai.sakura.ne.jp/photoguide/1993_08_kyuushuu4/kyuushuu4.htm

土砂崩壊に見舞われ、時間に追われた最終日。飛行機輪行に間に合わせるために必死で走った。
ヘトヘトになってたどり着いたのがこの「槇峰駅」だ。

あまりに過酷だったために、当時の記憶が定かでない。その駅を再度この目で確認しておきたかった。
残念ながら32年過ぎて駅の様子も変わってしまったが、ドロドロ状態で輪行したことを覚えている。


高千穂線の駅はまだまだ半分。できればすべての駅を訪ねてみたいが、時間が厳しくなってきた。
通行止めのトラブルが無ければ、もっと余裕があったのだが、かなりペースを上げないと厳しくなった。

五ヶ瀬川沿いの道は、こんな雰囲気がずっと続く。
日頃はおとなしい川なのだろうが、いざ大雨が降れば、穏やかな川の表情が一変するのだろう。


「早日渡駅」も駅の様子がわかるように残されている。
こうして静かな駅の名残を見ていると、向こうからやってくる列車の姿が目に浮かぶようだ。


「上崎駅」は橋を渡って登りになるため、少々苦労させられる。
ここもホームがしっかり残されていて、時刻表もしっかり掲示されている。

珍しく車が一台停まっていて、釣り人二人が川に向かって歩いて行った。


「川水流駅(かわずるえき)」はまったく駅の存在がわからない。

神社があったので写真に収めたが、どこがホームだったのだろう。
事前に調べてきた駅の写真を見ながら周囲を見渡すが、駅の名残を見つけることはできなかった。


「曽木駅」は建物は残っているが、今はバス停の役割として使われているようだ。
「吐合駅」「日向岡元駅」も駅跡の存在を確認できなかった。

「細見駅」はまったく存在がわからない。唯一バス停があったので、この辺りに駅があったと思われる。


「行縢駅(むかばきえき)」もかすかに駅のホームが面影を残している。
車道脇にはまっすぐな草地が続いていて、ここがレール跡だったことがよくわかる。


いよいよゴールの一つ手前、「西延岡駅」までやってきた。
この駅は完全に昔の状態が残されていて、今にも向こうから列車が走ってきそうな雰囲気だ。

静かで誰もいないと思っていたら、ちょうど昼休みで駅のベンチで誰かが昼寝していた。
起こさないように、静かにホームに上がって写真撮影する。


高千穂鉄道 参考資料(書籍・雑誌・DVD)


高千穂鉄道のことを色々調べていたら、次々と資料が増えてしまった。
行く前に読み、帰ってきてから再度読むとこの鉄道に対する理解がさらに深まる。

「高千穂鉄道の「いま」を訪ねる」 おばらけいこ
鉄道ジャーナル 2011/2

「失われた鉄路の記憶(24)高千穂鉄道 高千穂線
日本一の高千穂橋梁にトロッコが走る」
鉄道ジャーナル 2016/2
「高千穂鉄道」 栗原隆司
海鳥社 2006/4


現役の頃の貴重な映像を見ると、廃線になってしまった今が実に惜しいと思うばかりだ。
これほどの絶景を車窓から眺めることができる路線はなかなかない。やはり「廃線」は、実に悲しい・・・

「終着駅まで 第十巻」

「列車紀行」美しき日本〜九州1 「廃線」棄てられた鉄道遺産

延岡駅 〜 大分駅 〜 別府港


12:55 延岡駅到着。なんとかいい時間にゴールすることができた。
予定ではもう少し走る予定だったが、通行止めによるロスタイムで、最後はショートカットすることになった。

急いで輪行し、昼食を買って乗車する。
この旅、とにかく毎日が「乗り鉄」だ。今日も最後は「にちりん」で大分駅まで2時間の列車旅だ。


16:15 大分駅から走りだす。
途中に輪行を挟むと、気分も新たにツーリングが始まる感じだ。

最後は別府港へ向けてのポタリングだ。
昨年10月にここを走って、再びやってきた。短期間に同じところを走るのも珍しい。


別府湾に沿ったこの自転車専用道は実に爽快な道だ。
景色最高、道幅豪華、そして誰もいない贅沢さ。美しい公園が続く絶景ロードだ。

さんふらわあ乗船(別府港〜大阪港)


17:38 別府港到着。
1時間半ほどのポタリングを終えると、前方に「さんふらわあ」の姿が見えてきた。

何度も乗船した、見慣れた船体だ。これからまた乗船するかと思うと、いい大人もドキドキしてくる。
一日の最後が「サンライズ」「さんふらわあ」なんて、なんて豪華で贅沢な旅なのだろう!


17:55 乗船開始。
車やバイクの関係で、自転車は乗船が一番最後になることもあるが、今回は早かった。

そして自転車の固定方法も船によっていろいろだ。同じ「さんふらわ」でも船によってそれぞれ違う。
今回は初めて前輪固定のサイクルラックが登場だ。

「へぇ〜珍しいですね!これは初めてです。なんで船によって固定方法が違うのですか?」と聞くと、
「船長の考え方によるみたいですよ」とのこと。

なるほど、社内で決まっているわけではないんですね。
「さんふらわあ」の乗船も慣れたもの。乗船してまず何をすべきかを心得ている。

まずは風呂に入るのが正解だ。乗船してすぐは風呂はガラガラだ。さっそく空いた風呂で足を伸ばす。
そしてデッキへ出て出港のドラマを満喫する。しばらくして、ひと騒ぎ終わった頃レストランへ行く。

ちょうど1回転した頃は、かなり席も空いてきて快適だ。
動画を見ながら旅を振り返り、20万図を見ながら思い出に浸る。

上質で贅沢な時間がゆっくり流れていく。これだから船旅はやめられない。



参考資料 1975年8月12日 の日記

日之影

延岡駅

距離: 53.0 km
所要時間: 4 時間 19分 15 秒
平均速度: 毎時 12.3. km
最小標高:  13 m
最大標高:  3261 m
累積標高(登り):  343 m
累積標高(下り):  435 m

大分駅

別府港

距離: 16.5 km
所要時間: 1 時間 24分 15 秒
平均速度: 毎時 11.8. km
最小標高:  0 m
最大標高:  6 m
累積標高(登り):  2 m
累積標高(下り):  5 m

(2025/4/2 走行)


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